私は人間を愛してる。
それは変わらない事実であるし私の中の不文律だから変えようがない。けれどこういう馬鹿を目の前にしてしまうと、時折その信念をねじ曲げたくなる衝動に駆られてしまう。

数十分ぶりに鳴り響いたシズちゃんからの着信(ちなみに専用着信音だ)を聞いた途端、私はナンパをしてきた頭の軽そうな男達の存在などすっかり消し飛んで携帯を手にしていた。

「あ、シズちゃん?もー!ちゃんと電話出てよ。帰っちゃうところだったんだから」
帰るなんて嘘。本当は買い物で時間を潰しながらシズちゃんの仕事が終わるのを待とうと思ってたんだけど、それを伝えるのは悔しいから言ってやらない。

「こっちは仕事だっつーの。何だ、池袋来てんのか?」
久々に聞いた低く耳に響く声色が心地良くて、でも聞き惚れている訳にもいかずそれに答えようとした瞬間受話器を持つ手が突然引かれた。

「なになに?彼氏から電話?」
急な事に驚きつつも引いた相手を睨みつけるとそれはすっかり視界から除外していた男達の内の一人で。
「いいじゃん。今まで放ってた彼氏なんか置いといてさ、俺らと遊ぼうよ」
「いっそ彼氏に見せつけてヤキモチ妬かせちゃうってどーよ?」
次々と勝手な事を言ってのける男達にシズちゃんとの電話を邪魔された私は自分でも機嫌が急降下しているのを確かに感じていた。

「ちょっと、止めてよ!離せ!」
力任せに受話器を持つ手を奪い返してシズちゃんに声をかけようとするが、そこから発せられるのは虚しい終話音ばかり。
「〜…っ」
すぐにかけ直してみるが再び直接留守電に繋がるようになってしまった電話に絶望と同時に沸々と怒りがこみ上げた。


―もしかしたら、シズちゃんに誤解されたかもしれない―


「あれ?電話終わり?じゃあやっぱり俺らと遊ぼうよ」
へらへらと馬鹿みたいな笑い顔で空気の一切読めない男が再び伸ばした手を怒りのままに叩き落とすと、男達があからさまに苛立つ表情を見せる。

「…ふざけないでくれる?私が君達みたいな無能で低脳で頭の中が女と金と遊びで構成されてるみたいなのに付いてくと思う?私じゃなくても大概の賢い子は付いてかないだろうけど、ましてや私に声をかけるなんて身の程知らずを通り越していっそ清々しい程だよね。その馬鹿っぷりが。とりあえず整形して、中学校の教科書問題解けるようになってから出直してよ。まあその程度じゃ相手しないけど」
そこに追い討ちをかけるように罵詈雑言を並べたててやれば男達は暫く茫然として、十数秒の後に顔を真っ赤にした。これぐらいの台詞理解するのに所要時間長すぎ。やっぱり馬鹿だね。

「このアマ…優しくしてやりゃつけあがりやがって!」
「後悔させてやる」
面白いくらいに簡単に激昂した男達の一人が語彙の貧弱な言葉を吐きながら私の腕を掴んで拳を振り上げる。それを予測していた私がポケットの中の隠しナイフを取りだそうとした瞬間、目の前を通ったのは赤い物体。
正確には根元から千切られた郵便ポストだった。











臨也さんが思いの外シズちゃんにデレました。










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