※暴力表現注意











「へ、平和島静雄…ッ!?」
まさか此処に静雄が現れるとは露ほども思っていなかったのだろう。芹沢が焦りに上擦った声を上げながら無意識に後退ったことにより臨也の中から男の自身が引き抜かれる。
「…ッう…」
突如圧迫感が消える感覚に小さく呻いた臨也の声と生々しい水音が室内に響いたのと、静雄が動いたのは同時だった。

今まで無意識にしていた手加減など一切忘れた手つきで滑らかに持ち上げられた長机はその勢いのまま芹沢に向かって投げつけられる。逃げる術もなくそれに当たり壁に背中を打ちつけた芹沢の前に立ちはだかり、胸倉を掴んで二回、三回と殴りつけると男の鼻はいとも簡単に折れた。

静雄の腕力を普通に振るったならば一撃で首の骨が折れていてもおかしくなかっただろう。
しかしそれをしなかったのは殺さないようにと自制心が働いての事ではない。

一撃で楽にするには値しないと、そう判断していたからだ。

口内が切れた男の吐き出した血が拳につこうが頬に飛ぼうが静雄の手は止まらない。


ひしゃげた音の満ちる室内で、臨也は暫くの間考える事を放棄していた。それは強引に犯された喪失感からか、静雄に見られた絶望感からか、あるいはその両方かわからない。
ただ全てを放棄しなければ心が耐えられないと、無意識下で判断したのだろう。

その臨也を現実に引き戻したのは皮肉にも、自分を追い詰めた男の汚らしい呻きだった。

腕は変わらず固定されている為に所々が痛む身体を酷使しても完全に起き上がるには至らない。しかし目の前の惨状だけは確認出来る。
原型を留めない程に顔を殴られ血まみれで意識を失っている芹沢と、拳を振り上げる静雄の姿。

それを見た瞬間、さっきまでの放心が嘘のように思考が頭を駆け巡る。この状況はまずいと、警鐘を鳴らす。

いくら生徒に手を出していたとはいえ、相手は教師。しかもこれは明らかに過剰防衛だ。これが露見すれば、静雄が学校側からどういう対応を取られるかは目に見えていた。

「…ッズ、ちゃ…シズちゃん!止めて!殺しちゃうよ!」
臨也の悲痛なまでの呼び掛けに振り上げた静雄の拳がぴたりと止まる。ゆっくりと振り返った瞳の中には今まで散々静雄を怒らせてきた臨也でも見た事のない怒りが宿っていて、ぞくりと背筋が震えた。
「殺すつもりで殴ってんだ」
「ダ、メ…シズちゃん…!!」


冷えた声音と共に再び教師へと向き直り、振り上げた拳を落とす。今度こそ手加減のないその勢いに教師の首が不自然な方向に曲がるかと思われた。
が、拳は教師の頬を捉える数cm手前で止められ、胸倉を離された身体は力なく床に転がった。

「シズ…ちゃん…」
惨状を回避出来た事に胸を撫で下ろしていた臨也に向き直った静雄は、苛立ったように舌打ちをして細い手首を拘束するネクタイを引きちぎる。
「はは…ヘマ、しちゃった。俺もまだまだ甘いなぁ」
「黙ってろ」
身体を起こしながら取り繕うようにいつもの調子で笑顔を作ろうとする臨也を、静かに制すとその痩身を腕に抱き上げる静雄。

そのシャツの胸元に隠すように顔をうずめて出て来たのは、声にならない嗚咽だった。







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