※モブ教師×臨也
ヤンデレ気味な仕様です











来神高校にその男が転属してきたのは偶然か、果たして必然だったのか。その答えは後者だ。
男の名は芹澤。過去にとある中学の理科教師を勤め、とある生徒と情報と引き換えに性的な関係を持っていた男だった。生徒は眉目秀麗で身体の線も細く、芹澤はたちまち夢中になった。
情報と引き換えにという不純な関係と最初から告げられていても、それすら忘れてしまいそうな程に甘やかな関係。そう信じきっていた芹澤は生徒が卒業と同時に関係が終焉を迎えても彼の事を諦めきれなかったのだ。
一年かけて生徒の進学先に赴任する程までに。
そして芹澤は賭けにでる。彼や学校の情報を調べ上げ、あまり使われていない人通りも少ない教室に彼を呼び出して。もう一度、愛しい生徒―折原臨也をこの手に抱く為に。






「なあ、折原。前みたいにまた…いいだろ?」
密室の中、伸びてきた無骨な手を臨也は振り払った。薄暗い室内に乾いた音が響く。
「触らないでくれる?」

ただ一言発した声は氷のような冷たさを持って芹沢を切り裂いたが目の前の焦がれ続けた存在をそう簡単に諦められるはずもなく、教師は縋るように臨也の細い肩を掴み揺さぶる。

「そんな…中学の頃はあんなに何度も愛し合ったじゃないか!折原だって俺の事を愛してると」
「先生さぁ、勘違いしてるよ」
懇願にも似た悲痛な叫びを遮る声は相手の声量の半分にも満たないのにやけに室内に響いた。室内に差し込む夕暮れを背にした臨也の表情は芹沢からは窺えないがそれは幸いだっただろう。臨也の深い紅を宿した瞳には嘲りの色しか映っていなかったのだから。

「俺はね、人間を愛してるんだ。別に先生個人を愛してる訳じゃないし愛の確認作業として先生に体を許してた訳じゃない。単なる利害の一致。情報交換だって最初に言ってあったでしょ?先生が情報と…それが足りなければ金銭を、俺が体を。立派な需要と供給。それ以外はないよ。話はそれだけ?なら俺は帰るから」
淡々と流れるように紡がれる辛辣なまでの言葉に教師は下を向いたまま動かない。微かに震える体は何によるものか自分自身にすらわかっていなかった。

ただ、たった今こっぴどくこき下ろされたばかりの少年の甘い声をもう一度聞きたいという思いだけが彼の中を占めていたのだ。

以前抱いた時はあんなに善がっていたのに。あんなに甘い声で求めてくれたのに。愛していると言ってくれたのに。
もう一度。もう一度この手に抱かれれば彼も自分への気持ちを思い出してくれるかもしれない!

辛い現実を直視しないという、一種の人間としての防衛本能は鮮やかに都合の良い方程式を組み立て、芹沢もまたそれに素直に従った。

「折原…っもう一度すれば、きっとお前だって…!」
出口へと足を進めかけた臨也の肩を掴んで手近にあった実験用の机に強引に引き倒す。予想だにしない行動に対処出来なかった臨也が肩を強かに打って小さく呻きをあげるが男の耳にはそれが酷く艶めいたものに聞こえた。

「やめ…ッ離せ!」
中学の頃から臨也の身のこなしが速いという噂は耳にしていた。拘束を解かれては即座に逃げられる事は目に見えている。それを踏まえて芹沢は圧倒的な体格差を武器にとると上から乗り上げるように臨也の体を押さえつけ、自らのネクタイを解いてその細い手首を縛った。その端を周到に実験用のフックに引っ掛けるのも忘れない。

「…っ本気で止めなよ、首に、なりたいわけ?」
不利な状況にも関わらず挑みかけるような視線を寄越す臨也に、芹沢は喉の奥から笑いを零すと白い耳へと唇を寄せた。

「中学の時の事を、平和島静雄に洗いざらい話してもいいなら首にでも何でもしてみるといい」

瞬間、臨也の動きがぴたりと静止した。背に冷たい汗が伝うのを感じながら笑顔を取り繕ってみるがそれは常の完璧なものには程遠い。
「…は…ッ、何でそこにシズちゃんが出てくるのさ。アンタも知ってるでしょ?あいつとはいがみ合っ」
「てるように見せてるが、好きなんだろう?」
先程臨也がしたように半ばで遮って補足してやれば、微かに肩が揺れた。

「折原が情報を求めてくれたおかげでな、先生も情報収集は結構上手くなったんだ。折原のことだってよく見てたから…すぐにわかったよ」
中学の時とは全く違った心底楽しそうな、愛しそうな視線も、その先にいた人物のことも。

「愛してるよ…臨也」
纏わりつくような言葉は聴覚に直接届く水音と耳朶を伝う生暖かい感触と共に、まるで呪詛のように響いた。








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