セクシャルファクター ※眼鏡臨也 |
もつれるように近場のホテルに移動して、シャワーも浴びずにベッドへと直行する。 シズちゃんとこうして肌を重ねるのは珍しいことでもないが、彼の方がこんな風に乗り気なことは非常に稀なのだ。気が変わってしまっては困ると柄にもなく余裕の無い俺を笑うでもなく、シズちゃんも黙ってベッドへと乗り上げた。 ジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。その様をぼんやりとベッドに横になって眺めていたシズちゃんが、唐突に待ったをかけた。 「……そのままで良い」 眼鏡のふちにかけた手を下ろすと、満足したらしい彼はそっけなく視線を逸らせた。 「知らなかったなぁ。シズちゃんが眼鏡フェチだったなんてさ」 「別に……、そういうんじゃねーよ」 「じゃあ眼鏡掛けた俺が格好良くて思わず見とれちゃった、とか?」 「ちげ…………ッチ、さっさとやれ」 いまいち歯切れの悪い受け答えに「ふぅん」とだけ返し、彼の体をまたぐようにして圧し掛かる。いまさらながら自分のしでかした行為に羞恥を感じているのか、いつも以上にむっすりと不機嫌そうな表情を浮かべている顔に手を沿え、正面に向き直らせた。 レンズが邪魔にならないように角度をつけて唇を重ね、ゆるく開かれたそこに舌を差し入れた。ぬるついた熱い舌を絡め合わせながら、少々荒っぽい手つきで細身の身体を包み込むバーテン服を剥ぎ取っていく。 「……っ、ふ…ぁ、は…」 リボンタイを外しシャツの襟元を緩め、顔を出した白い喉元にやわく歯を立ててやる。歯型の残るそこに舌を這わせ、時折吸い上げてやれば、シズちゃんは感じ入ったような声を上げた。 「ん、んく……、ぁ…っ」 「声、抑えないでよ」 嬌声をせき止めようと下唇をかみ締める口元を人差し指でなぞった。白い歯の間に潜り込ませた指先で舌の付け根をくすぐる。欲情しきった顔で、声で俺の理性を乱すくせ、それを隠そうとする男の身勝手さが腹立たしかった。 「誘ってきたのはそっちなんだから、せいぜい楽しませてよね」 シャツのボタンを全てくつろげ、ベルトのバックルを外す。いつになくスムーズに事が運ぶことに逆に不安すら覚えながら、そんな悪態をついた。反論が無いのを良いことに、だらりと弛緩している脚を割り開き、その中心に陣取る。 「……おやおや」 気の早いシズちゃんの愚息は、スラックスの中で窮屈そうに主張を始めていた。誤魔化しのきかない状況を恥じ入ったのか、とっさに後ずさろうとシーツを蹴ったつま先を引き戻し、しっかりと太股を抱えなおす。 「いざっ、明かり…っ、明かり消せ!」 「えー?嫌だよ。せっかくだし、シズちゃんの恥ずかしいところ全部見てあげるよ」 無駄に広い円形のベッドの上を泳ぐように後ずさる身体にのしかかり、身動きを封じる。 「それに、シズちゃんだって、見えてた方が興奮するんじゃない?」 眼鏡の端をそっと押し上げると、「悪趣味だ」とだけはき捨てたシズちゃんはようやく大人しくなった。冗談のつもりで口にしたのだが、まさか効果があるとは。 (そういえば) 彼のかつての先輩であり、現在の上司でもある男は悪趣味な金縁の眼鏡をかけている。初恋の相手も、たしか眼鏡をかけた人妻女性だったはず。眼鏡というアイテムは、シズちゃんにとって重要なファクターになっているのかもしれない。それこそ、殺したいほど憎い男に欲情できるほどの、何か重大な――――。 少々複雑な想いに駆られながら、愛撫を再開させる。萎える気配すらないシズちゃんのペニスに服の上から口付け、それを合図に唇で探り当てたスラックスのジッパーを引き下げた。 「…あ……ンッ、ひ」 「はは。まだ触ってもいないのにビショビショだ」 濃い染みの広がるパンツをつつつ、と人差し指の先端でなぞる。びくりと震えた細腰にむしゃぶり付きたい衝動を抑え、赤く染まった耳朶を優しく噛んだ。 「どうして欲しい?」 触って欲しい、と。たったそれだけの言葉が言えないシズちゃんは、弱りきったと言いたげに眉を八の字に寄せ、おずおずと俺の股間に手を伸ばした。 これだけの痴態を見せ付けられて無反応でいられるほど、清くは出来ていない。わずかに熱を孕んだそこをゆっくりと掌で撫でさすりながら、シズちゃんは「こうしてほしい」と強請るように媚びた目線で俺を見上げた。 「ちゃんと言わないと分からないよ」 白々しい台詞を吐き、むき出しの肩にやわく食らい付く。鎖骨を通って程よく肉のついた胸元を舌先でくすぐれば、彼の腰は先ほどよりもはっきりと揺れた。 「……ぁ、んッ…や、ちが…う、っ」 「違う?じゃあ、どこがいいの?」 「…ふ、ぁ…てめ、覚えて、ろ……っ」 睨みを利かせる双眸も、今は涙で滲んでひどく頼りない。 自ら下着をずり下げたシズちゃんは、俺の手の甲に勃起しきったペニスを擦り付けた。煌々とした白熱灯の下に晒されたペニスは存外に色素が薄い。男の性器を目の当たりにして興奮する性癖は持ち合わせていないつもりだったが、無意識にごくりと喉が鳴った。 「……えっろ」 赤く火照った顔は、快楽に恍惚と蕩けきっている。薄く開いた唇からは、甘い吐息と嬌声がひっきりなしに上がり続けていた。かくかくとぎこちない動きで上下する腰つきすら淫猥で、俺は腰の奥に熱の塊が重くのしかかるのを生々しく感じた。 「は、あ、……ぁンッ…く…」 「……お行儀悪い子だなぁ」 もう少し焦らして遊んでやるつもりだったのに、こんな反応をされたらひとたまりも無い。シズちゃんの欲情が俺にまで伝わったのか、胸の内側で渦巻く熱が身体を突き動かすのが分かった。 物欲しげに蜜を垂らす陰茎を掌で包み込み、上下に扱いてやる。女のような啼き声を上げると同時に、汗ばんだ四肢がシーツの波間に跳ねた。 「んぁ、あ…ひ!……くうぅっ」 蒸気した顔、淫らな喘ぎ声。初めて目にするシズちゃんの淫靡な姿に、耽溺すると同時に失望している自身に気づく。汗でずり下がった眼鏡を押し上げ、舌打ちを一つ。 「あは、顔真っ赤。みっともなくアンアン喘いじゃって、気持ち悪いなぁ」 「る、せっ…ンっ、見ん、な……!」 こんなチープなアイテム一つで、目の前の“折原臨也”をいとも簡単に別のものへと摩り替えるシズちゃんが憎らしかった。 今お前を乱しているのは、他でもない。お前の天敵なんだ。そいつを知らしめるため、剥き出しの肌に噛り付く。首筋。薄く筋の浮いた鎖骨。小ぶりな乳首、彫刻像のような完璧なシルエットの腹に無数に歯型を刻んだ。 ろくすっぽ痛みを感じないらしい鈍感な彼も、さすがに俺の異変に気づいたようだ。視線がかち合ったのを良いことに、見せ付けるようにそそり立つペニスに口付ける。 「……いくらシズちゃんでも、ここを噛まれたら痛いだろうねぇ」 反論する隙も与えずに、張り出した亀頭をぱくりと銜えた。相変わらず、デカい。 「な……あっん、ァ!」 目を丸めたシズちゃんは、それでも俺から目線を外すことが出来ないようだった。しっかりと視線を絡めたまま、脈打つ熱の塊を喉の奥まで迎え入れる。収まりきらない根元の部分は指で扱き、着実に確実に熱を煽っていく。 「うあぁッ、やぁ、っんひ…ぁ、あ…っ!」 「ひもひい?」 「や、あ!…しゃべ、んな……っ」 ジュポジュポという厭らしい音を立てて、隆起した性器に丹念に愛撫を施す。尖らせた舌の先端で裏筋を辿り、とろとろとカウパーを垂れ流す鈴口を抉る。 「んあ、ぁ…んっ、や…、臨也ぁっ」 どうやら限界が近いようだ。逼迫した声音で名前を呼ばれ、思わず口元が綻ぶ。 「ん、良いよ。イっちゃえ」 「ァ、く…ッぁん、んっ、くうぅ!」 ひくひくと震えるペニスを右手で扱き、股の付け根をジュウ、と吸い上げてやると、彼は一際大きく身体を震わせながら果てた。右手の中で飛び散った飛沫は俺の頬と眼鏡を濡らし、シーツにもいくつかの染みを残した。 「あーあ……顔射とか」 鼻につく青臭い匂いを指先で拭い取り、眼鏡を外す。未だ熱の篭った瞳でぼんやりと天井を眺めていたシズちゃんが、ふいに俺の方へ向き直った。 「……なに」 「……べつに」 にべもなく言い捨て深いため息をつく様は、すっかりいつものシズちゃんだ。何となく釈然とせずに難しい顔をしている俺の腕を引き、熱っぽい吐息が囁く。 「続き、すんだろ?」 セクシャルファクター (やっぱ、こっちのが落ち着く)(もう、ほんとシズちゃんってワケ分かんない) ← ツイッターでお世話になっているくろこ嬢リクエスト。 眼鏡臨也にムラムラ静雄と、静雄が何で盛ってるのか分からなくてモンモン臨也。 (2013.3.27) |