欲しがりな君へ
※戦争しろお前ら
ピンポーン


店内に響いた電子音に嫌な予感がしてメニュー表から顔を上げた。
まだ席に着いて間もないというのに、いつの間にやらプカプカと煙草をふかし始めていたシズちゃの片手は、テーブルに備え付けられていたボタンをしっかり押している。
夕飯時ということも手伝って、店内の席はそれなりに埋まっていたので、ほかの席の客が店員を呼んだのだろうと思いたかった。
「ちょっと、まだ決めてないのに勝手に呼ばないでよ」
信じられない。彼に至ってはメニューすら見ていないはずだ。煙草の煙が目に染みたのか、しょぼしょぼと瞬きを繰り返す顔を軽く睨み付けた。
「んなモンぐだぐだ悩んでねぇでさっさと決めろ」
「そういうジャイアニズム100%な態度でいると友達なくすよ」
「メシに付き合ってくれる友達の一人も居ないお前に言われたくねぇな」
実に痛い所を指摘され、俺はおとなしく手元のメニューに視線を落とした。
「大体シズちゃんは決まってるの?」
「俺はここ来たら大体これだな」
「うわ、カロリー高そう」
「女子かてめぇ」
トン、とシズちゃんが指で指したのはステーキとハンバーグがセットになっている、肉オンザ肉って感じのいかにも身体に悪そうな一品だった。申し訳程度に端っこに野菜が添えられているが、明らかに動物性タンパク質を摂取することだけを目的にしたメニューと言えるだろう。育ち盛りの男子高校生なんかが喜んで飛びつきそうだが、俺たちはもう良い大人だ。
シズちゃんはその細い体の一体どこにそんなカロリーを仕舞い込むのだろうか。自販機やら道路標識やらを掲げるのに消費しているのかもしれない。
「おい、早くしねえと店員来ちまうぞ」
「うーん……」
こう見えても、俺は食べるものにはそこそこ煩いのだ。元々ジャンクフードは好きじゃないので、その延長にあるようなファミレスに来るという事もあまりない。
ペラペラとページを捲ってみても、どれもこれも容易に味が想像できて、いまいち食欲をそそられない。一通り見終わっても、とても食べたいと思えるような品はなかった。
「んじゃあ、俺はこれでいいや」
丁度タイミングよく店員の女がテーブル席の横に立って、律儀なシズちゃんはまだ半分ぐらいしか吸っていない煙草を揉み消した。
「えーと、……このハンバーグ&ステーキってやつと」
お前は?と目で問いかけられ、広げたメニューをめくる。
「俺はこれね。あ、あとコーヒー」
「デザートの方はいつお持ちしましょうか」
こういう店でよく聞くけど、「デザートの方」っておかしな文法だよね。いちいち指摘なんかしないけど。


コーヒーは食前で、デザートは後と告げると、仕事を真っ当した店員はハンディを片手にさっさと下がっていった。ソファシートにゆったりと背中を預けながら、早々と煙草のケースに手をかけるシズちゃんに思わず苦笑した。
「お前メシ食わねぇのかよ」
「だって美味しそうな物ないんだもん」
特に腹も空いてないし、と小さく肩をすくめ、テーブルの上で汗をかきはじめているお冷に口を付けた。水ぐらいならいけるかと思ったけど、これもカルキ臭くて飲めたものじゃない。
「パフェなんて意外とガキくせえもん頼むんだな」
ふ、と頬を綻ばすシズちゃんにつられて俺も笑った。
シズちゃんはいつも俺が食べてるものを横からつまみたがるから、自然と彼が喜びそうなものを注文する癖がついてしまっただけだ。パフェなんて砂糖の塊みたいなもの、俺は別に食べたくもなんともないんだよ。
きっと君は気づいていないんだろうね。



「あれだけ肉食ったあとによく入るね・・・」
「・・ん?(モフモフ)」






シズちゃんに甘い折原。
やっぱり愛されシズちゃんが好き。



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