LOOP&LOOP
※「猟奇的な彼氏」と微妙に繋がってます
相変わらず臨也さんがヘタレ
エロくはないけど下品かもです
単品でも読めます
キシキシと乾いた音をたてて軋むベッドのスプリングにすら酷く劣情をかきたてられる。シーツの波を泳ぐようにそのしなやかな肢体をくねらせ、所在無さげにさ迷う手を自らの指で絡め取った。しっとりと汗ばむ掌は、俺の肌によく馴染む。
「っ……ん、ぁッ、いざやぁっ……」
トロトロに蕩けた瞳で俺を見つめ、シズちゃんはまるで砂糖菓子みたいに甘い甘い声で俺の名前を呼ぶ。俺のものか彼自身のものか定かではない唾液で艶かしく光りを放つ唇に誘われるまま口付けを与え、ゆっくりと律動を開始した。
「ふっ、んぁっ、……くぅッ!」
隙間なく繋がっていたそれを焦らすように引き抜き角度をつけながら奥の奥へ先端を捩じ込めば、鼻に掛かった喘ぎ声が身体中を満たす快感に応えた。
「ぁっ、やぁっ……ん、いざ、はっ…あぁん!」
「ん、シズちゃッ、……かーわい」
すっかり身体に染み付いたシズちゃんのイイところだけを突き上げ共に絶頂へと向かう。ああ、今日もシズちゃんは可愛い。凄いエロい。たまんない。
まあ、より正確に言うなれば「俺の妄想の中のシズちゃんは」だけど。


あれから俺達の間に何か進展があったのかと言うと、特にこれと言ってないわけだ。
強いて言うなら、以前より互いの家を行き来する回数は増えたかもしれない。とは言っても、お互いの仕事がことごとく不規則なので、一緒に居られる時間は決して長くはないのだが。スケジュールさえ合えばどちらかの部屋で一緒に食事取り、同じベッド、同じ布団で肩を寄り添わせて眠る事だってできるようになった。
その上、彼の機嫌が良ければおやすみのキスだってあり得ない話ではない。もっともシズちゃんが乗り気でない時にしつこく迫ろうものなら、甘い夜から一転俺は血へドの中で眠る事となるのだけれど、それはまあケースバイケースというか、もう慣れた。
シズちゃんとのおやすみのキス。犬猿の仲と名高いあの新宿の情報屋、折原臨屋と池袋の喧嘩人形が、だ。
俺としてはこれは大いなる進歩と言えた。池袋最強にして、ツンデレのツンを凝縮したかのような男でもあるあの平和島静雄が大人しく自分の腕の中にも収まり、甘んじて口付けを享受する様は言わずもがな、破壊力抜群だ。
「まるで中学生の出来立てカップルみたいね」
ここ最近日課のように繰り返される俺ののろけ話にほとほと嫌気が差したか、波江は憐憫の目を向けて俺にこう言い放った。
その一言で、俺はようやく普段通りの冷静さを取り戻すこととなる。
――そうだ、そうだよ。いい年した男が恋人と一緒のベッドで眠れるだけで喜ぶって何だそれ。どこの乙女だ、気持ち悪い。
据え膳どころじゃないものがすぐ横に無防備に横たわっているというのに「睫長いなぁ」とか「寝顔は意外と幼くて可愛い」だとか、ほのぼのとした空気に満足している場合じゃないだろう。馬鹿か俺は。いや、まごうことなき馬鹿だ。
このままでは色々まずい。
シズちゃんにこのままの関係で満足して貰っては困るし、何より己の心身の衛生上非常によろしくない。


そこで俺は具体的な行動を起すことを決意した。シズちゃんと何とかしてキス以上の関係に発展しようと、それはもう躍起になった。けれど、基本的に夜はきっちり眠ってしまうシズちゃんを口説き落とすのは至難の業で。その上、こと恋愛に関して疎い彼は俺が想像した以上に初心だった。
「ん、は……っ」
予め徹底的に算段を付けた上で雰囲気作りをし、一緒にとった遅めの夕食にも旧友の監修の元、まあ、そんな感じのイケナイお薬を混ぜてみたりして。なんとかかんとか二人ベッドに縺れ込むまでは持ち込めた。
久しぶりに味わうシズちゃんの唇の感触に思わずがっつきそうになるのを辛抱強く堪え、少し強張っている彼の体から緊張を解くべくゆっくりと時間をかけて口付けていく。
「……っん、てめ、」
とろり蕩けるような熱っぽい視線に気を良くした俺は、薄手のTシャツの隙間からそろりと手を忍び込ませ胸の突起を軽く指先で撫でてみた。いい感じに力の抜けてきた体がびく、と一瞬にして強張り俺の身体は無常にも押し返される。
「……どこ触ってやがんだ」
何かおかしい事でもしただろうかと小さな声で「胸だけど」と答えると、シズちゃんは眉間に深く皺を刻み、自らの口元を伝う唾液をごしごしと乱雑に拭いながら身体を起した。
「やめろ、くすぐってぇ」
「大丈夫だって、すぐ気持ちよくなるから」
「俺は男だぞ?乳なんか揉まれても気持ちよくねえよ」
「…………」
なんていうか、瞬間的に色々と萎えた。
ここは普通流されてしかるべきところだろう。そもそも、指が触れた瞬間小さく身体が反応していたのを俺は見逃さなかった。あまつさえ、鼻に掛かった甘い吐息を吐いておきながら、まるで自覚のない彼はなんともムードのない言葉で、所作で、それをことごとくブチ壊す。空気読め。
さりとて、ここで俺が「本当は気持ちいいくせに〜」などと軽口を叩けば、彼はたちまち怒り出すだろう。そこからの展開火を見るより明らかだ。売り言葉に買い言葉で間違いなく喧嘩、いや戦争に発展することとなる。
シズちゃんは怒りに任せて俺の部屋を破壊し出した挙句、最悪そのまま帰ってしまう可能性だってある。せっかく久しぶりに一緒に過ごせる夜に、それだけは何としても避けたい。
「ふざけてねーで寝るぞ。俺明日早ぇんだよ」
悶々と考え込んでいるうちに、シズちゃんは欠伸をかみ殺しつつ俺に背中を向け、さっさと毛布をかぶって寝息を立て始めてしまった。
「え、……マジで?」
中途半端に臨戦態勢だった俺は已む無くその後一人トイレに篭る羽目となった。何が悲しくて恋人と同じ空間にいながら自ら処理をしなければならないのか。泣きたい。
その後もチャンスを伺ってはそれとなく行為に持ち込もうとするのだが、シズちゃんはことある毎に俺の予想を覆す反応で逃おおせてしまう。
普段から池袋の街を壊しまわるだけでは飽き足らず恋愛的な局面においても彼はとことん破壊神だった。
相手はツンデレを具現化したようなあの平和島静雄だ。照れくささから素直に俺を受け入れてくれる筈がないという事は十分承知している。そういった行為に免疫がない分、尚更その気持ちは強いだろうという事も頭では分かっている。
俺だって出来れば無理強いはしたくない。まあ、力で俺がシズちゃんをどうこうしようなんて端から無茶な話なわけだが。下手すれば別れ話どころかこの世から永遠にお別れすることとなるだろう。
しかし、普段いくらクールに振舞ってみても俺は聖人君主な訳ではない。男としての限界というものは確かに存在するのだ。
柔らかな笑顔で微笑みかけられ、ぎこちなくとも強請るように交わされるキス。そんな状況下にありながら、決してそれ以上に進ませてはもらえない。こんな中途半端な現状は、もはや拷問以外の何物でもない。


今にも爆発寸前な本能と理性が鬩ぎあった結果、ある夜俺は夢を見た。
夢の中のシズちゃんは現実とは間逆だった。というか、もうほとんど別人だった。俺の言う事は何でも聞くし、少しでも俺と離れれば不安そうな顔をするし
ことあるごとに「臨也、好き」と言ってキスをしてくれるのだ。
夢を見ている、と自身で自覚して見る夢を「明晰夢」と呼ぶらしい。俺が見た夢はまさにそれだった。現実ではあり得ない、これは夢だと理解しつつ、気がつけば現実での鬱憤をぶつけるかのように夢の中のシズちゃんを組み敷いて、その身体を貪るように抱いた。
目覚めてからもの凄い罪悪感と、それと同じだけの空しさに苛まれ、隣ですやすやと眠っているシズちゃんに小声で謝った程だ。
思えばこれをきっかけに俺は良くない癖を身に付けてしまったようだった。
空想の中で素直で淫らな恋人の姿を思い浮かべる。それは、ここ最近の俺のマスターベーションの定番と化していた。他人から見ればただの危ない妄想だ。分かってる。


「……臨、也?」
上の空な俺の顔を覗き込んで、シズちゃんは不安そうに声を上げた。
ああ、今日も今日とて俺の妄想の産物であるシズちゃんは可愛らしい。当たり前だ。俺の望む姿がそのまま投影されているのだから。
ひとつだけ勘違いしないで欲しいのは、決して現実世界のシズちゃんに嫌気がさした訳ではない、という点だ。
妄想は妄想だときちんと自分で割り切っている。こうやって現実との折り合いをつけつつ、俺はリアルのシズちゃんを攻略するべく励むことができるのだから。
「お前、最近よくぼんやりしてるけど大丈夫か?」
シズちゃんの言葉には、と現実に引きずり戻された。ぱちぱちと数回瞬きをして、むくりと起き上がると柔らかなベッドのスプリングがゆらゆらと揺れた。


空調の利いた部屋。どうやら俺はいつの間にか眠りこけてしまっていたらしい。
仕事が終わったら俺の部屋に寄ると昼間メールがあったにも関わらず何て失態だ。自分が思っている以上に疲れているのかもしれないなぁ、と瞼を擦った。
いつも以上に寡黙なシズちゃんに違和感を感じふと目線を上げると、少し頬を赤らめた彼は気まずそうに口を開いた。
「……お前、それ」
彼の視線に促され、眠気で鈍った頭でそのままシズちゃんの目線を辿り、思わずあ、と間の抜けた声を上げた。
つい先ほどまで妄想世界の淫らなシズちゃんとよろしくしていた事を忘れていた。熱を持ったそれはズボンにしっかりと前張りを作り出してしまっている。慌てて近場にあったブランケットで隠すも、しっかり見られた上にバッチリ指摘までされてしまっているので非常に今更だ。
「ちょ、ちょっと疲れが溜まってるみたいでさ」
ははは、とわざとらしく声を張り上げて笑ってみせたが、シズちゃんはニコリとも笑ってくれない。死にたい。男の生理現象として寝起きは勃ちやすいという事ぐらいは初心な彼でも分かるだろうから、流石に引かれてはいない・・・と思いたいのだが。場に張り詰める妙な空気だけは拭いようもなかった。
そもそも原因はシズちゃんなんだよ、分かってるのかな。あまりの居た堪れなさに、脳内でそんな無茶苦茶な責任転嫁をしかけたところで視界が勢いよく反転した。
「いっ、たぁ……」
下はベッドだったが、後頭部から思いっきり倒れたため頭がグラグラした。肩にズキズキと走る痛みから、ああシズちゃんに突き倒されたのかと遅ればせながら理解する。この仕打ちはどうかと思うよ。そりゃ、変なもの見せたのは謝るけど。
たまらず非難の声を上げようと頭をさすりながらその姿を探すと、シズちゃんはバーテン服のタイを緩めながら丁度ベッドに乗り上げた所だった。
取り外したリボンタイをぽい、とベッドの脇に放り捨てて、俺が握り締めていたブランケットは有無を言わさずに剥ぎ取られる。
「ちょ、何してんの」
「うっせぇ」
黙ってろ、と早口で捲くし立てられ思わず口を噤む。
未だ萎える様子のないそこをじっと見つめ、恐る恐る伸ばされた手が、ゆっくりと張り詰めた熱を撫で上げた。
「シズ、ちゃん……?」
「黙ってろっつってんだろ」
これは俺の妄想の続きなのだろうか。俺が思い描く従順で淫乱なシズちゃんは、もちろん喜んで俺に奉仕をしてくれる。
しかし、顔を真っ赤にして拙い手つきでズボンのジッパーを引き下げ下着を押し上げる俺の性器を前にどうしたものかと動きを止めてしまうその様は、どう考えてみても普段の不器用で初心な彼の行動そのものといえた。
「……今日はどうしちゃったのさ」
今まであれほど性的な触れ合いを避けてきたくせに。身動きが取れなくなってしまったらしい彼の頬をそっと撫でてやりながら優しく声をかけた。
「無理にしなくてもいいよ」
「…………」
「シズちゃんが受け入れてくれるまで待つからさ」
俺の言葉に、シズちゃんは僅かに眉尻を下げた。


そんな困った顔がさせたい訳ではないのだ。彼の中でどういった心境の変化があったのかは分からない。けど、一連の行動が本意でないのなら、こんな行為なんの意味もないと思う。
俺は君の心も身体も全部欲しいんだ。欲張りなのかもしれないけどね。
散々シズちゃんをオカズにしておいてよく言うよって?それはそれ。男は上半身と下半身が別の生き物なんだよ。
「シズちゃん?」
黙りこくっていた彼は俺の手を掴み取ると、手の甲に一つキスをくれた。未だに頬にはほんのりと赤みが差しているが、その表情はどこか吹っ切れたような笑顔で。
「別に無理なんかしてねぇよ」
「シズ、ッ……」
言うや否や下着がずり下げられぶるん、と勢いよく飛び出した性器は、シズちゃんの手の中にすっぽりと納まってしまった。
小さく喉を上下させると、シズちゃんは意を決したように先端部分を口に含む。
ペロペロとぎこちない舌使いで亀頭を舐めていたかと思えば、ぱくりと銜え込んだ熱を丁寧に舌先で擽られ、たまらずに吐息が漏れた。
「……ッん」
気を抜けば直ぐにでも熱を吐き出してしまいそうで、ぎゅ、っと奥歯を噛み締めて襲い来る快感に絶える。
断っておくが、俺が早漏な訳じゃない。彼の口淫が巧みな訳でもなかった。ただ、シズちゃんが自分のそれを舐めているという事実に必要以上に興奮していたのは確かだ。
キス一つで必要以上に照れるようなあのシズちゃんが、俺の為に顔を真っ赤にしてグロテスクなそれを懸命に舌で、唇で愛撫している。
「っは、シズちゃ……やば、」
先走りを啜り上げるように吸われ、小さく腰が震える。サラサラの金髪に指を絡め、体中を包み込む幸福感に促されるまま、俺はシズちゃんの口腔内に精液を放った。



「お前さっきからはあはあはあはあうるせえ」
べし、という乾いた音と額を襲う強烈な痛みで飛び起きた。
隣で眠っていたらしいシズちゃんはほとんど開いていない瞼の隙間から俺を睨み付けている。
「……え?」
「さっさと便所いってこい」
「……え、ええぇ?!」







「猟奇的な彼氏」の続き。
不憫な臨也さんを救済しようと思ったのにどうしてこうなった。


(2011.8.5)



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