GAME
ホテルを出ると、日はもうかなり高くまで昇っていた。薄暗い室内に慣らされた目に太陽の光が容赦なく突き刺さる。胸ポケットに引っかけたままのサングラスを掛けてから、重たい身体を引きずるように足を踏み出した。
ホテルや風俗店の立ち並ぶ細い路地を抜けるとすぐに歩き慣れた繁華街に出る。ほ、と身体から力が抜けるのを感じつつ、信号待ちをしているサラリーマン風の男と肩を並べて小さくあくびをかみ殺した。
タクシーが何台も連なって横切るのを見送りながら、ぼんやりと辺りを見渡すと、パラパラと人通りはあるが、夕方から夜にかけての喧噪とは程遠い穏やかな街の姿がそこにはあった。
折り畳み式の携帯を開いて何気なく時間を確認する。デジタルの時計は10時半丁度を示していた。どうりで人通りが少ない筈だ。まっとうな人間であれば、とっくに会社なり学校なりに到着している頃合いだろう。頭の中に浮かんだ言葉に思わず自著気味な笑みが浮かんだ。
自分も本来であれば、そうした人間の中の一人だった筈なのに。


一件目の回収を終え、昼飯前にもう一件行くか、と道端の自販機でトムさんと二人一息入れて、タイミング悪くノミ蟲野郎に遭遇したら、手近にあった自販機をブン投げる。そんな日常が、今はもうどこか遠い。
街で鉢合わせれば、もちろん俺は臨也を追いかけ、あいつはいつも通りに逃げまどう。けれど、それは今まで通りの日常を「演じている」に過ぎない。――少なくとも、俺には「演じきる」ための努力が必要になっていた。
何もかもが変わってしまった。そして、もう戻る事はできないのだ。
よれよれのバーテン服を見下ろして、ごめんなと胸の内で呟く。仕事が続けられるようにとこの服を贈ってくれた弟は、きっと今の俺を見たら酷く悲しむだろう。
(何でこんな事になっちまったんだ)
もう何度目になるかも分からない問いがぐるぐると頭の中を駆けめぐり、俺は無意味な問答を追いやるようにチッ、と舌打ちを鳴らした。
(仕事……トムさんに連絡しねえと)
開きっぱなしだった携帯のボタンをカチカチと操作して、アドレス帳に登録された少ないデータの中から上司の番号を引っ張り出す。ダイヤルボタンを押しかけたところで、手にした携帯電話が低くうなりを上げて震えた。
「…………」
画面に浮かび上がっているのは、登録されていない11桁の番号だ。ここ最近、昼夜を問わず頻繁にかかってくるその番号の持ち主は分かっている。分かっているからこそ、登録しないのだが。


「……もしもし」
今日は仕事に行けないかもしれないな、と欠勤の理由を考えながら、俺は電話の向こうにいる臨也の声に耳を傾けた。








珍しく臨←静風味。
殺伐目指して撃沈。続く・・かも?


(2011.8.15)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -