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「なんかよォ、ヤり合ったあととか、身体の熱持て余してどうしようもねーときとかあんじゃん?別にそんとき俺利用すればいいし、あとは雰囲気っつーか…俺ら身体の相性はいいみたいだし。お前と俺なら後腐れなくてよくね?」

意味を理解するのに少しばかり時間を要してしまった。理解してから、土方はじわじわと眉根を寄せる。
いつもの顔で、何でもないことのように言う銀時の考えることが読めず、一蹴することもあるいは冗談として流すこともできなかった。
何故男の自分を。後腐れがないと言っていたか。こいつのことなら女を買う金もないのだろう。後腐れがなく、金がかからず、二度の経験もあって(目の前の男が言うには)身体の相性も悪くないとくれば確かに俺は都合がいいのだろうが、それでもいけ好かないであろう俺と関係を持とうとするほど処理に苦労しているというのか。
動揺をしていながらも素早く考えを巡らせ、とりとめなく浮かんでは消える。

「…俺のメリットはなんだ」

気が付けばそんなことを口にしていた。よくよく考えればメリットさえあればそれに乗ると言っているようなものだが、そのことには銀時だけが気が付いた。

「だから、言ったろ?熱持て余してどうしようもねえとき俺使って鎮めればいい。斬り合いンときもそうだが、そうじゃなくてもオメー、結構溜まってんだろ」

銀時の言葉に土方はさらに眉をしかめた。
確かに遊郭などには滅多に足を運ばないし、まともに処理もしない。けれど忙しさでそれどころじゃないことと元々の性に対する淡泊さもあってそれを意識したことはなかった。
自分でも意識していないことを指摘してくるとは、やはりそういうことなのだろう。

「テメー、覚えてんのか」
「じゃなきゃ誘わねーよ」

スゴかったぜ?と口端を上げる男に怒りやら殺意やら羞恥やらを覚えるが、必要以上には態度に出さずせいぜい鋭く睨み付けた。それに銀時は肩を竦めてみせて、どこまでも人を食ったような態度にまた苛立ちが募る。
俺も溜まってる、お前も溜まってる、相性も悪くなく後腐れがないという銀時の言い分は理解できたが、銀時が自分をそういったお相手に選ぶ理由としては不十分な気がした。

「…二度と野郎に足開く気なんかねェよ」

付け加えるならば、関係を持つには副長としてのリスクも伴うのだ。
その日はそう言って背を向けた。

けれど一度はきっぱりと断ったものの、土方は相手の心情をはかりかねたことに煮え切らないでいた。
だからだろうか、馴染みの飲み屋で顔を合わせた時に、引かれた袖に大した抵抗もせずに理性の残ったまま身体を重ねてしまったのは。
隣に座った銀時に仕掛けられて嫌悪を感じるどころか簡単にその気になってしまったことも含め、確かに身体の相性だけは頗る良かったのだ。
ほぼ素面で身体を重ねたことは女になる耐え難い屈辱や副長としてのリスク、その他諸々の断るに足る理由を無意味なものにした。
それからは済し崩しに関係が始まり、1年経つ今までずるずると続いていった。

情があったわけではない。じゃあなぜあんなにも苦悩していたのに存外あっさりと誘いに応じたのか。当時は分からなかったけれど、今なら分かる気がした。
恐らく土方は坂田銀時という男に興味があった。
のらりくらりと世を渡り歩き、口では面倒は御免だと言いながら誰でも懐に抱え込んでしまう。そのくせ、誰にも内側に踏み入れることを許していないのだ。
二度目の過ちを犯した夜の記憶を、朧気ながら土方は持っていた。それは自身を苛むものであったが、記憶が頭を掠めるたび、あの顔をもう一度見てやりたいと思うようになっていた。
いつも周りを傍観しているようで、何にも執着を見せない銀時の眸が自分を写し情欲を湛える様に、愉悦に似た何かを感じた。もっと暴きたいと思った。
自分も大概悪趣味だな、と土方は思う。


東の空が白み始めている。雨上がりのせいか一段と冷え込んでいるようで、吐き出す息は僅かに白かった。
次からは山崎に言って出掛けるときに羽織りを用意させよう、と考えて、ふと自問する。
次とはいつのことか。
もう銀時と待ち合わせをすることはない。そして何となく、しばらくは飲みに出歩く気分にはなれそうになかった。








11/10/18 未完(落ち忘れた)