目隠し鬼 さあ目隠しをして、俺の茶番に付き合えよ。 最後くらい良いだろう? ―鬼さんこちら、手の鳴る方へ。 古ぼけた廃寺の中は湿っぽい空気が漂い、微かな土と埃の匂いが鼻をつく。光源のない暗闇の中で胡坐を掻いて座り、手を叩いた。 視界を遮断された白い鬼はしかし、迷いもなく俺のとこまで這いずってきた。手など叩いて居場所を示さなくとも、この鬼は気配だけでいとも容易く探り当てただろう。 圧し掛かるように体重をかけて肩を押され、勢いよく背中から倒れ込む。途端に二人分の体重を受け止めた板がギシリと悲鳴を上げた。倒された拍子に着流しから剥き出した肩に、喰らいつくかのように鬼が歯を立てる。 「…痛ェ」 「土方、ひじかた、ひじかた…」 ふわりと甘い香りが鼻孔を擽り、辺りに充満した。 毒に犯されて思考を奪われ、闇と赤い布に視界をも奪われた中で唯一この鬼を支配しているものは、劣情に塗れた本能。 余計なものは何も要らない。けれど互いの息遣い、匂い、皮膚の感触といった外界からの情報であれば精々欲を肥大させるだけだ。 殴っても蹴ってもいい、滅茶苦茶にしてくれればそれでいい。 「…それ以上は駄目だ、」 腿を這って下着を引き摺り下ろそうとする無骨な手に己の手を重ねてやんわり制止した。 しかしこんな所作もお前を煽るためだけのもの。 なあ、鬼よ、俺を満足させられたらこんな茶番は仕舞いにしてやる。 欲しいって言えよ。 ぶっ飛んだ中での虚言でいい、俺が欲しいって言え。 11/1/6 |