「いい加減にしろよ」 黒の着流しを羽織り紫煙を燻らせながら俺に背を向ける男は、情事後の甘さを欠片も含まない低い声でそう吐き捨てた。 「勝手に盛って合意もなしに好き勝手しやがって、テメェ一人気持ち良くなってすっきりしてんじゃねぇぞハゲ」 はて、何のことやら。 「こういうのよ…、」 「…強姦だ、とか言っちゃうわけ?」 相手の言わんとすることを自分の言葉で遮れば、黒い背中はやはりこちらを向かないまま言葉を切った。少し間を置いてから、違ェ、と返ってきた。 ならば何だと言うのか。 「言うなればオナニープレイだろ」 「…はぁ?」 思わぬ単語がこの男の口から発せられたことに少々間の抜けた声が上がる。こちらとしては強姦だと言われても心外だが、それはそれで聞き捨てならない。だって、 「性欲処理に俺を使って、一人でヨがって。あん時のあれァ酔った勢い…所謂一夜の過ちだったはずだろ?なんでその過ちが未だ続いてんだよ。しかも素面で」 それじゃあまるで、お前は 「俺ァちっともヨくなんかねぇんだよ。慣らせば痛みは和らぐだろうってか?そういう問題じゃねぇ。本来そういうことに使う器官じゃねぇんだよ、内臓が押し上げられるような圧迫感、分かるか?いつまでたってもお前の形に慣れやしねぇ」 言ってくれる。ああ確かに、非生産的であり苦痛しか伴わないその行為を、忌々しい男から自己満足の為に強要されるだなんて。全身全霊、全力で拒否したいだろう。 でも、 土方がこちらを見ないのをいいことにこっそりと口端を上げた。 「でも全力で拒否しないのは?」 背を向けたままのそいつからは当たり前だが表情は窺えない。元より大した動きを見せていないから、反応もないように思える。しかし背中越しに微かな動揺を感じたような気がした。 「殴ればいいだろ?蹴ればいいだろ。それなのに強い抵抗も見せずに俺のオナニープレイに流されてんのァ誰だよ」 言い終わると同時に肩を掴み強く引けば、土方はいきなりのことに力を入れる暇なくどさりとシーツの上に背中から倒れこんだ。真上から至近距離で顔を覗きこみ、そこで初めて視線が交わる。案の定その視線には力が込められていて眉間には皺が寄っていた。口は結ばれている。 ほら、強ちオナニープレイでもないだろう? だってお前は何も言い返せない。 ヒトリヨガリ 違うよね。 10/3/5 |