TF 100題 | ナノ





0019:君がいるから安心して眠れる(メガププ)



遥か昔の大戦。オートボットにとっては忌々しく、ディセプティコンにとっては革命の狼煙を上げた聖戦である、あのグレートウォーの夢をメガトロンはここ最近見るようになった。
これが夢だと分かるのは、単に過去の自分がサイバトロンモードの姿でいるからだ。
アースモードは地球の戦闘ヘリをスキャンした姿である。400万年前の過去の時代に太古の地球を発見しているはずは無いし、何より人間など誕生もしていない。
サイバトロン星を蹂躙する戦火。天に吠える同胞達の雄叫びを心地良く聞く過去の自分を、メガトロンは無言で見つめていた。
こんなにも近くにいるのに誰も気付かないなら、ますますこれは夢だ。まるで幽霊になったかのような、画面越しに映画でも観ているような気分で事の成り行きをただ見守っている。
ただし、この夢は過去の記憶が再生されているに過ぎないのも分かっている。
であるから、この先ディセプティコン軍がどんな結末を迎えるのか嫌という程知っていた。夢ならば過去を変えようが無い。しかし敗北すると分かっている戦いを、何故何度も夢に見なければならないのか。
あるいは、これはプライマスの思し召しか。
…それともただの悪趣味か。
いずれにせよ、不愉快さは蓄積するばかりで面白いはずが無い。

「過去の我よ。貴様は必ずこの戦いに勝つと信じて疑わぬ、そんな自信に満ち溢れた顔をしているな」

荒廃した大地に東西の地平線から、まるで津波のように激突する両軍は、今や敵味方の区別が分からない程混戦していた。
航空部隊を率いるスタースクリームが憎たらしいほど鮮やかに、オートボットの兵士達に向かってミサイルの雨を降らす。さらにはラグナッツが爆弾を大量に投下しているのが見える。ブリッツウィングはトリプルチェンジャーの特性を臨機応変に発揮して、撤退を始めたオートボット兵士を的確に一体ずつ仕留めていた。
我が部下ながら一騎当千の猛者ばかりだ。
そして、もはや地上はオートボットのスクラップだらけになった。爆発四散して内蔵器官をそこら中にぶちまけ、首だけがコロコロと過去のメガトロンの足元に転がって来た。
その幼い顔は、おそらく非戦闘員のミニボットなのだろう。いつもオプティマスの周りを纏わり付いている黄色にどこか似ていた。
怨みが篭ったようにヒビ割れたオプティックを見下げる過去のメガトロンは薄く笑みを浮かべながら足で踏み潰した。
空のオイル缶を潰したような軽い音が足元に響いた。
同時に、絶叫が響き渡る。思わず周囲が動きを止める程に悲痛な叫びだった。
鬱陶しげに、過去のメガトロンが振り返る。そこには無謀にも敵軍の陣地に乗り込んで来たのだろう、若いオートボットがたった一体で立っていた。

「何をしに来た?わさわざ死にに来たのか?」

若さ故の無謀さに過去のメガトロンは嘲笑い、そして憐れんだ。

「何も無駄に若い命を散らすことはあるまいに、英雄願望とは愚かしいものだ」
「…よくも、よくも、彼を…!」
「我々は戦争をしているのだぞ。犠牲なくして勝利は無い。命が惜しいなら戦うな。恨むなら降伏を拒んだウルトラマグナスを恨め。それぐらいの理屈すら分からぬとは憐れだな…」
「貴様ァッーーーガッ……!?」

激情に駆られて武器を振りかざして襲い掛かって来た若僧を、虫を振り払うかのようにカノン砲を向けて撃った。
放った一撃は腹を貫通し、綺麗な弧を描く。一瞬でスパークが蒸発した若僧は悲鳴すら上げられず絶命した。
ーーーかに見えたが、風穴が空いた機体は何故か倒れない。
過去のメガトロンは訝しむ。
確かに胸を撃った。スパークのあるチャンバーは蒸発し、死んだはずなのに目の前の若僧はまだ生きている。
生きている?馬鹿な、あり得ない。
しかし若僧は口からオイルを溢れさせながらも気丈に睨んでいた。怨嗟を込めたオプティックで睨んでいる。その異様な雰囲気に、さっきまで嘲笑っていたディセプティコンの兵士達が不気味がった。

「…貴様は何なのだ?」

恐怖でも畏怖でも無い。
ただ好奇心から過去のメガトロンは問う。
若僧はニヤリと笑った。

「私は死ぬ。だがいつか…必ず生まれ変わりお前の前に立ちはだかるだろう…」
「ほう?わざわざ生まれ変わって、我に復讐すると言うのか。未練がましいぞ。さっさとプライマスの元に行け」
「何度殺されても、必ず蘇るさ。お前を殺すまでは……」

過去のメガトロンは呆れた。これから死ぬと言うのに、最後に言う言葉がそれか。
やはりつまらぬ。興味を無くした過去のメガトロンは抜刀して戯言をほざく若僧を切り捨てた。
まだやるべき事は残っている。
撤退するオートボット共を一匹残らず始末せねばならない。完全な殲滅戦だ。
最後は本部を制圧して、今度こそウルトラマグナスに降伏を迫らねばならない。
我々の勝利は目前だ。
そう確信する過去のメガトロンがふと地平線の彼方に見たものは、ブラックアウトよりも巨大な何かから放たれた閃光だった。
大地が巨大な火に灼かれた。



鈍い音を立てて地上に崩れ倒れたその若僧のそばにメガトロンは立っていた。
周囲はオートボットの最終兵器オメガスプリームの攻撃によって、大半のディセプティコン兵士が一瞬で蒸発して死んだ。
過去のメガトロンは姿を消している。おそらくは逃げたのだろう。その記憶はある。しかしこの若僧を殺した記憶は、無い。

「…貴様は誰だ?」

メガトロンは問い掛ける。
うつ伏せに倒れている若僧は、最後の力を振り絞ってメガトロンの方に顔を向けた。
メガトロンは絶句する。

「おっ……前は……!」
「やぁ…メガトロン…やっと、会えたな……」






だから夢は嫌いだ。

悪夢なぞ好き好んで見るものではない。ましてオプティマスを殺した夢など。
淡々と言うメガトロンの言葉に、オプティマスは少し呆れたようだった。
ムッとしてメガトロンが呟く。

「何だその顔は」
「お前がいつもキスしたくて堪らない顔だよ。私はオプティマス・プライムだ。分かるか?」
「そんな事は分かっとるわぁ!」
「ならば、400万年前に私はまだ生まれていない。それもちゃんと、」
「分かっとる!あれは夢だ。疲れた我が見た夢だーー」

内心の動揺を悟られたくはない。そんなプライドなど、こうしてオプティマスを片時も離さないほど怯えているなら意味が無いだろうに。オプティマスもそう言いたいのだろう。
ただそれをメガトロンが絶対に認めたく無いだけで。

「…私はちゃんと分かっているよ」

項垂れたメガトロンの頭を優しい抱擁が包んだ。
視界が塞がれ何も見えなくなるが、不思議と安心感が生まれる。
メガトロンは細い腰を掴んで引き寄せた。その存在を確かめたくて、キツいほど抱き締める。

「我は弱くなったな…」
「誰かを愛する勇気を、私は弱いなんて思わない」
「なら今夜は傍にいてくれ」
「うん。ーーおやすみ。今夜こそ夢を見ないで……眠ってくれ。傍にいるから」
「ああ」
「ずっと傍に…」

言葉の最後はどこか涙ぐんでいた。


(終)

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