TF 100題 | ナノ





0020:いつ、どこで泣いた?(娼婦ププパロ@)



*パラレルです。ププがディセプティコンになってメガトロンの専属娼婦になるまでの話。続きます。



微かな寝息が聴覚センサーに届いたーー瞬間、オプティマスのCPUがゆるやかな速度でオンラインになる。
閉じていたオプティックに淡青色の光が灯ると、ふと自分が銀色の逞しい胸板に寄り添って眠っていることに初めて気がついた。
ああ、またやってしまったのかとオプティマスは少し身動ぐが、腰にしっかりと回さられた大きな腕の抱擁からは逃れられそうにない。
オプティマスは諦めて嘆息した。
ライトを最小限に消したメガトロンの部屋は、微かな金属の擦れ合いもはっきりと分かる程に静寂であった。頬を胸に当てると規則的な動力源とその最奥納められているスパークの鼓動が酷く心地よい。
メガトロンはまだスリープモードのまま眠っていた。ふと悪戯心が鎌首を上げ始めたオプティマスは顔を上げてじっと見つめてみたり、手を伸ばして唇の周りを撫でてみたりと弄ってみるが、やはり起きる様子は見られない。
あの、メガトロンがこんなにも無防備な姿を自分に見せるなんて。
アカデミーにいた頃は夢にも思わなかった。今こうして腕に抱かれて同衾している事実も未だに悪夢のようで現実味が全くない。
けれどもこれは現実なのだ。
オプティマスは自らの肩の装甲を見た。そこにあるマークはオートボット……ではなくディセプティコンのマークだった。
オプティマスはディセプティコンになったという紛れも無い証。
役割はメガトロン専用の娼婦だった。
彼だけを満足させるための性的な奉仕を役割とし、身の回りの世話をする。
それがディセプティコン・オプティマスの仕事だった。
もっと言えばならざるを得なかったと言うべきか。
今のオプティマスにとって帰る場所などもうどこにもないのだから。



***


最初の悪夢はエリータ1を喪ったあの日からだった。
ウルトラマグナスやオートボット評議会は、未成熟で無鉄砲な士官候補生達が禁忌の惑星に秘密で出向いた失態を責めた。
センチネルは無言で俯いていた。反論する気力も無いらしい。
その気持ちはオプティマスにも痛いほどよく分かる。
無断外泊。エリータ1の喪失。それらは長年築き上げたキャリアが全て崩壊してもおかしくない程の失態だろう。
最後の法廷に強制連行されたオプティマスは全ての責任を負うつもりでいた。無謀な冒険のきっかけを作ったのは隣に立つセンチネルだが、それを止めなかった自分にも責任はあるに違いないと認めていたからだ。
しかしセンチネルはそうは思わなかった。思いたくもなかった。長年の友人を喪った悲しみよりも、輝く未来の栄光を永遠に失う事の方が恐ろしかったのだ。
センチネルは沈んだ表情でブツブツと呟いている。
『もう終わりだ…嫌だ、俺はこんな所で終わりたくない…』
『…センチネル?大丈夫か?』
様子が変だ。そっと気遣うようなオプティマスの言葉にビクリとセンチネルの肩が震えた。
ゆっくりと顔を上げたセンチネルを見たオプティマスはぞっとした。センチネルは無言無表情でただじっとオプティマスを見ていた。
暗い影を宿したオプティックは困惑と恐怖とーーぶつけようのない怒りとが混ざり合ってドス黒い色をしていたから。
長年の付き合いからどう見ても今の彼は正常ではない。
そして嫌な予感は的中してしまう。
その直後に彼はオプティックを吊り上げオプティマスを指差したかと思うと、憎悪を込めて【真実の罪状】を叫び始めた。
それは津波のように法廷中に響き渡った。
自分に非は無いと必死に訴えるセンチネルを呆然とした顔でオプティマスは見つめていた。
周囲から突き刺さるような無言の視線を感じた瞬間…あの瞬間に感じた絶望感をオプティマスは今でも忘れることが出来ない。

そして。


: 判決。

: 士官候補生オプティマスはオートボットアカデミー追放に処す。同時にランクを最下級に降格、またオートボット入隊資格並びにアイアコンの入国を禁ず。
:士官候補生センチネルは証拠不十分により無罪とする。本人の反省も踏まえ、留年ののちアカデミー復帰を許可するものとする。
:ーーーなお、裁判記録は永久に保存され修正されることはない。再審も認めず。

:以上、オートボットアカデミー学長ウルトラマグナス。




その後の生活は地獄に叩き落とされたような生活、と言っても差し支えないとオプティマスは断言する。
アカデミーから追放され、当然学生寮からも身一つで追い出されたオプティマスは行く当てもなく下町を彷徨った。
ベッドも温かなシャワーもない生活がこんなに辛いとは想像もしなかった。艶やかな装甲は次第に薄汚れ傷も増えていく。
身分を剥奪され、アカデミー追放処分は生涯に渡って不名誉な事実としてオプティマスを苦しめる羽目になった。
つまり、まともな職業には絶対に就けない。
社会的信用も無い。身分証すらなく、屋根のある鍵がついたワンルームにすら住めない。
健康で文化的な生活が送れない辛さを嫌という程味わった。オプティマスは未だに信じられなかった。ついこの間までは居心地の良いアカデミーで友人達と笑い合っていたのに…今はホームレスになってしまった。
ある日、穴だらけの布切れを頭から被っているオプティマスは路地裏の片隅にそっと座り込んだ。
すっかり錆まみれになった両手をまじまじと見つめながら今後の事を考える。
ここではただ待っても誰も助けてはくれない。
自分の力で生き抜かなければ単純に死ぬ。
そんな単純で分かりやすい真理を前にして、今さら羞恥心やプライドなどなんの役に立つだろう。

「私はもう、失うものなど何もないから」

生きたい。
ただそれだけ。正義も悪もなく。
ゆえにして、元士官候補生のオプティマスは売春婦に身を落とすことになろうとも絶対に後悔はしないと決めた瞬間だった。


(Aに続く)

22



目次 MAIN




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -