「メガトロン様!やったっつ!オプティマスを捕まえて来たっつ!」
ドスドスと地響きを立てながら、ラグナッツが嬉々として敬愛する主の前にやって来た。
「おお…!よくやったラグナッツよ!お前には後でたんまりと褒美をやらねばなぁ。さぁオプティマスを我の前に差し出すのだ!」
「ああありがたき幸せ!おいお前!メガトロン様がお呼びだっつ、早く前に出ろっつ!」
「………」
ラグナッツは背後に控えていたオプティマスの腕を乱暴に引っ張ってメガトロンの前に押し出した。
よろけながらも無言で立ち尽くすオプティマスを満足そうにじっと見下ろすメガトロンだったが、だんだん怪訝そうな表情へと変わってゆく。
いつもの鮮やかな青と赤ではない、黒を基調としたダークカラー。
そしてディセプティコンのような真っ赤なオプティックが、何の感情も浮かべずにメガトロンを見つめていた。
「黒…機体の色が黒い?貴様、本当にオプティマスプライムか?」
「……違う」
ふるふると首を横にするそれ。
ええ!?っとラグナッツが驚愕する。
「お前オプティマスじゃなかったっつか!?じゃあ誰だ!…あ!ひょっとして生き別れの双子っつか!?感動の再会!?」
「んなわけあるかい!……ってまさかまさか本当に貴様オプティマスの双子だったりするの?」
「違う。私はクローンだ」
「はぁ?奴のクローンだと?」
「そうだ」
「ほう…」
きっぱりと自分をクローンだと言い張るオプティマス(黒)を興味深く眺め回す。
どういう経緯でオプティマスのクローンなど作ったのか不明だが、見た目は当たり前だが彼と瓜二つだ。ただ感情が希薄なのが気に掛かるが、おそらく誕生してから間も無いためだろう。
つまりブレインの中身はまだ真っさらの幼子と同じなのだ。
そこまで考えて、ふと兼ねてからの野望が膨らみ始めた。
「これは使えるな…」
メガトロンはニヤリと笑う。
そして玉座から立ち上がるとクローンの方へ近付いた。真正面に立って見下ろす。クローンは戸惑う様子も見せずただじっと見上げていた。
いや、これはただボーッとしているだけかもしれないが。
おもむろに顎を手に取って覗き込む。顔と顔が触れ合う寸前にまで近付いてもやはり逃げようとしない。
クククとメガトロンが笑う。
「気に入ったぞ。貴様、名は?」
「クロ…」
「クロ?ふん、まんまだな。誰だそんなセンスのカケラも無いダサダサな名前を付けたのは?」
「オプティマスだ」
「いやいい名前だ。さすがは我の未来の妻だ!ハッハッハッ!」
「…メガトロン様…」
ラグナッツはポカンとした顔で呵呵大笑する主を見ていたが、部下に見られていたメガトロンは我に返って「ラグナッツ、下がれ」と命令する。
ラグナッツは素直に命令に従い、地響きを立てながら退室した。
残されたのはメガトロンとクロのみである。
メガトロンはしばらくの間じっとクロを見つめていた。愛おしいオプティマスのクローン。本来ならオリジナルを手に入れたいが、これはこれで悪くはない。
可愛らしさに我慢出来ず、とうとうギュウウと抱き締めてしまった。
「あっ…」
抱き締めた感触。戸惑う声。やはりオリジナルと同じだった。
驚くようなクロの声をスルーしてそのまま腕の中に閉じ込める。
「オプティマス…いや、クロよ。貴様のカラーリングはむしろディセプティコンのそれに近いぞ。容姿も愛らしい、手放すには惜しい。このまま我のものになれ」
「…私がお前の、もの?……ダメだ。私はオプティマスと共にいたい。だから彼の元へ帰る…」
「そのオプティマスもいずれ我のものになる。お前とオプティマス、両方我の傍に侍らせてやろう。そうなる運命なのだ」
「おぷてぃますが…メガトロンのものになる?私もメガトロンのもの……?」
「そうだ…」
驚くクロの顔に影が覆い被さる。
無垢なスパークを侵食する鮮やかな赤色のオプティックが酷く近い。何故、と疑問に思った瞬間唇を塞ぐ感触がした。
オプティマス以外と口付けをしている。他人とする行為がこんなにも違和感を感じてしまうなんて想像もしなかった。
ビリビリとブレインが痺れて指一本動かせない。
貪るような激しい口付けがクロの全てを飲み込んでゆく。
「ん、んんっ……はぁ…」
「我から逃げられると思うな」
「っ……」
微笑むメガトロンにクロはゾッとした。
始めて感じた恐怖と歪んだ狂愛にクロは怯えるしかなかった。
(終)