TFA短編 | ナノ

そして4シーズンへ…(メガ→ププ)

騙そうとか尋問しようとか、そんなつもりは毛頭無い。
寒くて暗い牢屋の中でじっと座っている男に何かしてあげたいからオプティマスは今日も彼の元を訪れる。
本当にただそれだけだった。

「やぁメガトロン。元気か?」
「…また来たのか。下っ端部隊長はよほど暇を持て余しているようだなァ?それとも我を笑いに来たか」
「そんな憎まれ口が叩けるなら大丈夫そうだな」

チッとメガトロンは忌々しく舌打ちする。
威嚇しても朗らかに笑う憎たらしいオートボットの神経が本当に理解出来ない。
地球で捕らわれて以来からこんな奇妙な面会が続いている。
ここオートボット刑務所に収容され、厳戒体制の囚人生活が始まってから何故か目の前の若きオートボットが頻繁に来るようになった。
何の意図があってわざわざ会いに来るのか。善意に隠れた悪意を察する能力に長けたメガトロンはオプティマスの真意を探ろうとするものの、彼の話す内容はやれ今地球では冬と言う寒い季節を迎えただの、クリスマスと言うイベントを知っているかい?などと、取るに足らないくだらないものばかりでいつしかそれも止めてしまった。
何百万、何千万年もの悠久の時を過ごしたがこんなにも退屈でくだらない時間は生まれて初めてだ。

(分からぬ。貴様は何だ。何なのだ。企みも無く野心も無い癖に、何故わざわざ我に会いに来る?)

怠そうに胡座をかいて頬杖を付きながら、オプティマスのどうでもいい話を聞き流す。あまりに退屈だから、いつしかメガトロンは楽しそうに話すオプティマスをじっと観察するようになった。
最初は捕まる原因になったオプティマスに復讐する事ばかり考えていた。必ず脱走し、奴をこの手で引き裂いてくれると、何度ブレインの中で破壊したか。想像の中のオプティマスは恐怖と哀れな命乞いをしながらメガトロンに殺されるのだ。
そしてスパークを握り潰す瞬間はさぞかし極上の快楽を与えてくれるのだろう。
そんな薄暗い欲望を思い描きながらオプティマスを見ていたはずなのに。
今は何も考えずに、ただじっと彼を観察している妙な自分が理解出来ない。

(囚人生活が退屈なだけだ)

それだけだ。
そもそも、オプティマスが大した用も無い癖に頻繁に来るせいだ。
くだらない話のせいで、メガトロンはオプティマスを脱走に利用する事も出来ない。
ただくだらない話を延々と聞かされるだけなど、ある意味戦いと破壊しか知らないメガトロンにとっては拷問に等しい。
思わず疲れたように排気をしそうになるが、慌てて喉奥に引っ込める。

「メガトロン、どうした?」
「貴様には関係ないわ」

不思議そうに尋ねるオプティマスを睨み付けて、メガトロンはまたそっぽを向く。
オートボットの前で溜息などついてたまるか。
そんなメガトロンの態度に首を傾げるオプティマスだったが、ふと思い出したような声を上げた。

「そうだ、メガトロンに渡したいものがあるんだった」
「…急に何だ」
「さっきも言ったが、今の地球は冬何だ。と言っても私達の居る街がだけど、記録的な大雪のせいで寒くて堪らなくてね。昨日サリが皆にマフラーを編んでプレゼントしてくれたんだ」
「マフラー?何だそれは」
「マフラーというのは寒い日に人間が首に巻く防寒具だ。毛糸で模様を作って編み込んでとても暖かいんだ。で、その編み方をサリから教わってメガトロン用に作ってきたからはい、これ」

唖然とするメガトロンに構わず真っ赤なマフラーを差し出すオプティマス。

「いらん」

何が楽しいのかニコニコと笑うオプティマスとマフラーを交互に見ながら、メガトロンは心底呆れて言い放った。
すると、拒絶されるのを予想していたらしくしょぼんとオプティマスの顔が項垂れた。
当たり前だ。しかし破壊大帝ともあろう男が青二才にここまで舐められるとは…なんという屈辱だ。

「こんなくだらないものを寄越すなら我を此処から出せ、オートボット」
「…やっぱりこんなもの、いらないか。ははは。でもさすがに脱走は駄目だ」
「役立たずめ」
「お前はメガトロンだからな。………でも」
「?」
「二度と来るなとは言わないんだな」
「………!」

笑顔で言うオプティマスを絶句したままメガトロンは見つめた。
そしてふと気が付く。
オプティマスの来訪がそんなに鬱陶しいなら、何故「二度と来るな」と言わなかったのだ?
まさか……まさかあまりにも此処が退屈だから、オプティマスがやって来るのをスパークのどこかで待ち望んでいたとでも言うのか?

(一人が寂しいなどと、そんなくだらない感情をこのメガトロンが…!)

「……本当は分かっていたんだ。それでもメガトロンの顔が見たかった。何でかな?私も私自身がよく分からない」

寂しそうに笑うオプティマスの体に、ふとメガトロンは今は何故か無性に触れたくて堪らなくなった。
この手で押し倒し、組み伏せればどんな怯えた表情を見せるのか…見てみたい。
一度火が点いた欲望は二度と消えはしない。それはかつて全宇宙の支配者たらんとしたあの頃のように、冷え切ったメガトロンのスパークを燃え上がらせた。
ギラついた赤いカメラアイを一瞬輝かせながらオプティマスを見たメガトロンだったが、次の言葉に今度は愕然とした。

「ついさっきーーー私が内緒で此処に来ていたのがセンチネルにバレたようだ。その罰で私も尋問のために拘留すると連絡が来た。
だからもう来れない」

呑気に話している場合ではない筈なのに、オプティマスは少しも後悔した表情は見せない。
ただ本当に残念で寂しそうな、切ない笑みを浮かべているだけだった。

(違う、我が見たいのはそんな表情ではない)

メガトロンが望むのは恐怖に怯えた顔だ。
なのに何故そんな顔をする。
マフラーをそっと牢屋の前に置くと、オプティマスは静かに立ち上がった。そして無言のままメガトロンに背を向けて歩き出す。

「待てオプティマスプライム!!」

呼び止めて一体どうしたいのだ。そんな自分が分からないまま咄嗟に名前を叫んだものの、オプティマスは振り返る事も無く歩き去ってしまった。
無機質な静寂の中で、メガトロンはただ訳の分からない怒りに震えている。
何故、とも。今さら、とも。

(こんな感情を我に残して去るなど、なんて理不尽なオートボットだ。いや、何より腹が立つのはこのマフラーとやらだ。何故微妙に手が届かない位置にわざわざ置く!?これでは取れんではないか…っ!?)

檻の隙間から手を伸ばして何とかマフラーを取ろうとするメガトロンだったが、あと少しという所で指先が届かない。
ああ、仮にも破壊大帝ともあろう男がなんと滑稽な真似をしているのか。無様で惨め過ぎる。
またふつふつと怒りがスパークの底から湧き上がる。
許さない。必ず此処から脱走してもう来ないなどと言った事を絶対に後悔させてやると、メガトロンは信じてもいないプライマスに固く誓った。
それにしても、目の前のマフラーが。

「取れぬっ!!取れぬわ畜生ぉがぁぁぁぁぁっ!!!」

そんな破壊大帝の絶叫が刑務所中に響き渡り、他の囚人達を震え上がらせた。
そしてーーーこの3日後。
メガトロンは捕らわれていた部下達と共に刑務所を脱獄した後、真っ先に地球へと向かった。
その首には何故か特大サイズの赤いマフラーが巻かれていたと言う。


(終)


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