※虫の表現があります。苦手な方は注意してください!
同じクラスの犬塚くんは、とても意地悪だ。
教室の床を箒で掃いていると、目の前に突然人が立ちはだかった。ふわふわの栗毛、鋭い目つき、にやりと笑う口には、白い犬歯が覗いている。犬塚くんだ。
「なぁ、いいもの見せてやるよ」
そう言って突き出されたのは、虫の死体だった。名前は分からないけれど、まだら模様の細長い体に足がいっぱい付いていて、怪獣みたいな口がとても気持ち悪い。
周りの女の子達から悲鳴が上がる。それを見た男の子達が、口々にはやし立てる。クラスはパニック状態だ。それでも黙ったままの私に、犬塚くんがつまらなさそうに尋ねる。
「怖くねーのかよ」
「うん、あんまり…」
好きではないけれど、他の女の子程に苦手という訳じゃない。それに、唐突に意地悪を仕掛けてくる犬塚くんの方が、私にはよっぽど怖い。
「コラーっ!誰だいたずらしてる奴は!」
騒ぎを聞きつけたらしい先生が教室に入り、犬塚くんの姿を見つけるなりげんこつを落とした。ごちん、ととても痛そうな音が響いて、それでとりあえず騒ぎは収まった。
渋々掃除を始めた犬塚くんは、器用に足で雑巾がけをしている。箒で掃き集めたゴミを集めようとちりとりを手にすると、横から伸びた手にひょい、とそれを奪われた。
「持っててやるよ」
仏頂面の犬塚くんが、掃きやすいようにちりとりを支えてくれている。意外な人物からの親切が素直に嬉しくて、ありがとう、とお礼を言うと、いいから早くしろ、と顔を俯かせた。
同じクラスの犬塚くんは、とても意地悪だ。けれど、時々、ちょっとだけ優しい。
▽アカデミー時代?小学校パロ?ちびっこキバヒナが書きたかった