何だって海外留学なんか行くんだと未練がましくぼやく俺に、彼女は可笑しそうに微笑んだ。

「うん…海外でなきゃ駄目って訳じゃ、ないんだけれど」

遠ければ遠い程、良いと思ったから。飛行機が飛び交う空を仰ぐその瞳には、僅かの悔いも迷いも見られない。俺の知らない間に、そんな重大な決意を独りで固めてしまった彼女を、どうして引き止める事が出来るだろう。

「…待ってなんか、やらねえからな」

今までだって、散々待たされてきたのだ。女々しく再会の日を指折り数えて、ただ待ちぼうけを食っているつもりはない。

「お前がびっくりする位のスッゲー男になってる!だから、…」

早く帰って来い、というその言葉だけが、やたらと弱々しい響きになってしまった。強がる事さえ出来ないそんな俺を、優しく温かい、誰よりも何よりも強い彼女が、彼女だけが、奮い立たせるのだ。

「じゃあ、またね」
「おう、またな」

泣き笑いながら手を振り合う俺達の間に、別れの言葉は存在しない。


▽犬塚は意外と女々しいってのが言いたいだけなのに、やたら長い話に…


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