恐ろしく巨大な医療機器に囲まれベッドに伏せる彼女の姿は、まるで森の奥深くに眠るお伽話の姫君を模倣した、悪趣味なパロディのようだった。ならば、彼女のもとを訪れた自分は、さしずめ姫を救いに来た王子様、と言ったところか。そんな風に考えて、自嘲する。彼女が待ち焦がれる“王子様”は、俺なんかじゃあない。

「…ヒナタ」

透き通るように白い肌の、至る所に夥しい数の痛々しい傷を付けている様は、数年前のあの日を思い出させる。俺達にとって、初めての中忍試験。当時から天才と呼ばれ始めていた従兄弟との対戦で重傷を負った彼女は、今と同じこの病院に運ばれて来た。

「本当、無茶するよなぁ…」

無茶、は彼女自身が一番承知しているのだろう。あの時だって、今だって、きっと。
理由も動機も希望も、彼女の全てはアイツにだけ向けられているのだ。今も昔も、そして恐らく、これからも。どれだけ追い掛けたって、どんなに足掻いたって、俺は傍観者にしか成り得ない。それでももし、その隣に居続ける事が許されるのなら。願わくは彼女が目覚めるその時、一番に出会う人間は、自分でありたい。
包帯に隈無く巻かれた手を取り、出来るだけ優しく握る。名前をもう一度呼ぶと、ひくり、と僅かに指先が動いた気がした。


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