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懲りない心

※少しだけ流血表現あります。



 初めて付き合った男はDV野郎、二番目の男は浮気三昧で、そうして三度目の男でトラウマが出来た。

『恋人? まさか! タダでさえ暗いのに、あんなセックスですら退屈な奴ゴメンだよ』

 恋人だと思っていた男の部屋から聞こえた嘲笑う声に、俺の心の傷は大きく開ききると、そのまま治ることなく今もずっと膿んでいる。

「ねぇ、僕ら凄く相性が良いよ。一晩だけだなんて勿体無いと思わない?」

 だから、幾ら目の前で驚く程可愛らしい子が微笑んで見せたとしても、俺はそれを受け止める気になどなれないのだ。

「付き合っちゃおうよ、ね?」
「はは…、考えてみるよ」

 そうして今日も、私はその甘い誘いに背を向けるのだ。


 ◇


「ねぇ、僕と付き合う決心ついた?」

 隣で一回り…いや、それ以上歳の離れた少年にも見える青年が、バーカウンターに凭れかかり微笑む。
 歳は二十代前半だと言っただろうか、今年四十を迎えた私が何故これ程まで若い彼に言い寄って貰えるのか、正直謎である。謎であるのだが…。

「キミとは歳が離れすぎてるから」
「でも、僕と寝たじゃない」

 そう。関係を持ってしまったこともた、事実なのである。

「…よ、酔っていたから」
「そんな逃げ方ズルいよ。貴方はその場で振ることをせず『考える』と言った。誠実だと思ったのに…ちゃんと守ってくれなきゃ酷いよ」

 若いのに、言う事が随分としっかりしている。ふくれっ面をしてお酒を煽る彼をチラリと盗みみると目に付く、その美しさ。
 女性にも男性にも好まれそうな中性的な顔は、まるで人形の様だ。身体つきだってまだ未発達に見えるくらい華奢だし、背丈だってそれ程背の高くない私と大して変わらない。
 だが、そのカラダに私は抱かれたのだ。見た目よりもしっかりと男の子であるそのカラダに、私は…。

 彼と一晩だけでも共に過ごしたいと思う人は、きっとたくさん存在する。その証拠に彼の肩には代わる代わる別の誰かの手が置かれていく。何度目か分からない誰かの手が彼の肩に乗ったのを見て、私の心の奥がツキンと痛んだ。
 恋人を作らないと決めてからも、欲を吐き出すために名前も知らない相手と肌を重ねて来た。変な性癖を持った相手でない限りは気持ちよく済んできたし、そこに寂しさはあれど不満は無かった。
 だが、あれ程優しく抱かれた事はあっただろうか。あれ程心が満たされた夜があっただろうか。

 恋人にすら乱暴に扱われて来たこのカラダは、あの子の温もりに一目惚れしている。そう分かっていても一歩踏み出せないのは、これ以上あの傷口が膿んでしまったら、今度こそ私自身が死んでしまう気がするからだ。

「僕、貴方を大切に出来る自信があるよ?」

 思わず渇いた笑い声が出た。

「無理だよそんなこと。もう嫌なんだ、恋人に裏切られるのは」
「……どうして始めから裏切ると思うの」

 トーンの下がった彼の声にビクリと肩が揺れるが、両手でズボンをギュッと握りしめ耐える。

「だってキミは若いし、美人だから引く手数多だろう? 私の事なんて、直ぐに飽きてしまうよ」

 そう言った瞬間、何かが割れる音が響いた。隣を見れば彼の手にあったはずのグラスが砕けている。

「なっ、何して! 手がっ」
「歳はどうしようもないけど、顔なら変えれる。この顔がズタズタになれば、貴方は僕を信じてくれる?」
「やめっ!!!」

 叫んだ時にはもう、手遅れだっだ。振り上げた彼の右手は割れたガラスを握りしめ、そのまま陶器の様に滑らかで美しかった肌へと落ち切り裂いた。頬から鮮血が飛び散る。

「やめっ! 止めなさい! 止めてくれっ!!」

 彼の腕を掴むと、その手からは簡単にガラスが落ちた。店中が彼の凶行に言葉を亡くし騒ぐことすら出来ずにいる。ガタガタ震えながら彼にしがみ付くと、彼は血塗れの手で私の頬を撫で囁く。

「ずっと貴方が好きだった。相手にされないだろうと指を咥えて見てたのに、漸く貴方に触れられたんだ…手放したくないよ。貴方が僕を信じてくれるなら何だってする。だからお願い、他の男を理由に、僕を振ったりしないで」

 彼が零した涙が、頬を流れ血と混ざって落ちた。

 私は何も言うことが出来なかった。
 ただ首を縦に振ることしかできなかった。
 もう傷つきたくなんて無いのに、愚かな私は考えてしまう。また懲りずに、ずっと続く幸せを願ってしまう。

 今度こそ、最後にしよう。

 気を取り戻した店員と客が大騒ぎする中で、私はそっと、傷だらけの彼の手を握りしめた。


END


※ヤンデレじゃない、と言い張った作品。



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