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「失礼します」

 会長とふたり風紀室へと赴けば、そこには委員長の藤原さんの他に、何故かまだふくれっ面をしたままの宮部と不機嫌全開の岩佐部長が立っていた。

「あ、弥ちゃん待っとったよ」

 違和感満載のメンバーに驚きつつも、いつも以上に優しい声を出す藤原さんに少しだけ体の力を抜く。

「あの、」
「うん、まぁ取り敢えずそこ、座ろか?」

 促されたソファに腰掛けると、その隣に会長も座った。だがその瞬間ふと、岩佐部長から黒いオーラが漂った気がした。
 何故だ…。怖いので見なかったことにしよう。

「どこも怪我とかしてへん?」
「あ、はい。本当に助かりました、ありがとうございました」
「いや、アレらを放置したんはボクのミスや」

 どう考えても俺が言うことを聞かなかったことが原因なのに、藤原さんは痛々しい顔をして俯いた。けど直ぐにその顔を元に戻し、話し始める。
 俺を襲った覆面野郎ども。あれは予想通り、以前宮部を襲った奴らだったそうだ。

「こいつら、前キミを襲った奴らと同じか?」
「はい、間違いありません」

 覆面をひっぺがし顔を晒させ、宮部の証言を取ると奴らは直ぐに生徒指導室へと連行された。何かあるとまず風紀室に連行されることから、みんな風紀委員達が問題を起こした生徒を裁いていると思っている。
 だが、本当の地獄は生徒指導室に待ち受けているのだ。

 彼らは、生徒会副会長の親衛隊だった。
 俺の書いた記事によって、憶測だった生徒会役員達の仕事放棄は正しく明らかとなり、ひとり残って仕事をしている会長を応援する生徒たちが増えた。
 その中には嘗て他の役員の親衛隊だった者も含まれており、今回はその件について一番の不満を持っていた副会長が、会長を陥れる為に動いた事が始まりだった様だ。
 逆恨み…正にその一言に尽きる。

「そうですか」
「弥ちゃんは完全に巻き込まれ事故やな」
「自分の行動を棚上げして逆恨みとは…彼ら、死にたいのかな?」

 え? と全員が一人を見た。

「三澤」
「はっ、はいぃ!?」

 あ。声裏返った…

「今日何があったのかは、藤原くんに大体聞いたよ。本当に未遂なんだね?」
「あ…はい。委員長達のお陰で未遂で済みました」
「そう。でも、怪我はしたね?」
「え?」

 怪我も無いと言ったはずなのにと思っていると、突然近付いてきた部長にグイッと腕を掴まれる。

「ほら、ここ」

 掴まれて見せられたのは、自分の右手の掌とも手首とも言える曖昧な場所。言われて漸く注目してみると、確かにそこには擦り傷が出来ていた。たぶん、突き飛ばされた時にでも出来たのだろう。

「あ、」
「きっと他にも細かな傷があるはずだよ。きちんと全部手当するんだよ? じゃあ、僕はやる事が有るから部室に戻るね」

 掴んでいた手をパッと外したかと思うと、誰の話を聞くでもなくそのまま部屋から出て行こうとする岩佐部長。だが、ドアを開く前にもう一度振り返った。

「楢崎くん」

 勘違いで無ければ、先輩からは先ほど見たようなドス黒いオーラがダダ漏れている。

「三澤のこと、あまり独占して貰っては困るよ。“所有権”などと言ってしまえば、それこそこちら側に有るんだからね。今回の事も、大元を辿れば君が原因なんだ。もしもの事があったら、絶対に許さないからね」

 部長はそこまで言うと今度こそ出て行ってしまった。会長、アンタ一体何したの。疑問を口に出そうとすると、それよりも先に周りから声が上がる。

「怖ぁっ」
「意外なとこにダークホースがおったなぁ」
「……」

 自身の肩をさする楢崎会長と藤原さん。そして、何故かじっとりと俺を睨んでくる宮部。何なのよ、一体…。

「どう言う事ですか?」
「あぁ、まぁ…ちょっとな」
「ええねん、弥ちゃんは分からんでも」
「アンタって、本当変な奴!」

 えぇ〜…。何か納得行かない間に宮部にまで責められてるし。

「まぁそれは置いといて、本題に移ろか」

 これまで、転校生の尻を追いかけて少なからず問題を起こして来た生徒会役員達。
 影で起こして来た細々したものは、家の力や金にモノを言わせて揉み消していた様だった。だが…、今回の様な暴行や強姦未遂なんて大事は流石に隠せない。その上相手が“俺”なんだもんな。

「バレなきゃイケるって思ったんですね、きっと」
「弥ちゃんの家柄言うよりも、舐めたんは弥ちゃんそのものやった…って事やろな」
「それが仇になった訳だ」
「え?」

 何だか更に訳の分からない話になってきた。俺を舐めたら、何で仇になるんだ? 考えそのものが顔に出たのか、会長が俺の髪をくしゃりと混ぜて笑った。

「ほんと、お前には驚かされるっつーかなんつーか」
「はぁ?」
「不思議に思わんかった? ボクらがあんなに早く弥ちゃんの居場所、分かったこと」
「あ、それは確かに」

 今回俺が連れ込まれたのは、以前宮部が襲われた部屋だった。駆け込んできた時に宮部が居たことから、直ぐに“それ”が理由だと思った。

「でもそれ、宮部のお陰なんだろ?」

 振り向いて見た先に、真っ赤な顔の宮部がいた。
 宮部アキ。散々俺を邪魔者扱いして、会長の手伝いをする前には頬が張れるようなビンタを喰らわしてきた男。いや、ついさっきも喰らわされたか。

「実はさ、お前の場所を特定したのは宮部じゃないんだ」
「え? でも…」
「俺がお前のことで宮部に電話したらな、」
「会長様ッ!!」
「ぐぇっ」

 あの会長至上主義の宮部が、楢崎会長に飛びかかり首を絞めている。オイオイ…会長白目むいてるけど大丈夫か? 止めに入ったほうが良いかと見ていると、藤原さんがこっそり耳打ちしてきた。

「あんな、宮部くん。会長から弥ちゃんのこと聞いて気が動転してもうて、慌てふためいて話にならんかったんやで」
「え!?」

 あの宮部が!? 今までブサイクブサイクと俺を足蹴にしてた彼奴が!? 救出しに来た時に氷みたいに冷たい目で見て俺を殴ったあの男が!?

「そんでな、取り敢えずマー君が宥めて、親衛隊に連絡してもろたんよ。そしたらな、親衛隊の子等、もの凄いスピードで情報収集してくれたんや」

 緊急連絡として連絡網を回した会長の親衛隊。授業中だったにも関わらずその情報はあっと言う間に広まり、まずは授業に参加していない生徒が判明した。いつも割りとサボる生徒が多い中、今回はそれが少なかったことも功を奏した。
 その中から宮部が例の覆面男たちの名を見つける間に、親衛隊たちはそれぞれの学年の階の怪しい場所をしらみ潰しに捜索。
 そのメンバーの中には会長の親衛隊では無い者、言ってしまえば、他の生徒会役員の親衛隊も混ざっていたのだという。

「弥ちゃんはさ、嫌がらせが少なかったんはバック(実家)の力やと思っとるやろ?」
「そう、ですね。だって俺の家、敵に回したら怖いですよ?」

 まぁそらそぉや! と藤原さんが豪快に笑う。

「弥ちゃんは自分のことちっとも分かっとらんね」
「俺のことですか?」
「そ! 君が思うよりもずっと、周りは分かっとるんやで。君がどれだけマー君を助けとるのかも、そこに下心が全く無いこともな」

 それに、バックがデカい事を鼻にかけもせんし悪さもせんし? えっへん! と何故か藤原さんが偉そうにする。

「実際、弥ちゃんのことを尊敬しとる奴もおんのやし。ホンマもうちょい自分こと大切にしたって。な、」
「藤原さん…」

 嫌がらせを知った時、自分をもっと頼れと言ってくれていた藤原さん。

「こらこら、お前らもうええかげんにせぇよっ」
「うげぇっほげほっ」
「やっ、やだっ、大丈夫ですか!? 会長様ッ!!」

 多分、会長の親衛隊から嫌がらせを受けなかったのは宮部のお陰。

「おまっ、げほっ、お前がやったんだろっ!」

 暴言も多いけど、いつもさり気なく優しくしてくれる楢崎会長。多分、この人ほど見た目や家柄無しで俺を見てくれてる人は居ない。俺のことを分かってくれてる人は……居ない。

「ごめんなさい」
 
 ごめんなさい。見た目で判断して、自分に壁作って、閉じこもって。周りからの好意や善意を捨ててきたのは俺自身だ。
 昔の経験がなんだって言うの。小さいことに囚われて何も見えなくなってた愚かな自分に、この人たちのお陰で気付くことができた。

「ごめんなさい、俺…ほんと迷惑かけて…」
「ほら、そこがもう間違ってんだよ」

 会長がまだ息苦しそうに噎せながら、それでもまた、俺の髪を混ぜた。

「誰も迷惑だなんて思ってねぇの。ただ、心配だっただけだ。みんなお前の事が可愛いから、心配してただけなんだ」
「僕は可愛いなんて思ってませんよ!?」
「はいはい。あんなにテンパってた癖にな?」
「かっ、会長様!!」

 宮部を含めた掛け合いに、「可愛いとかキメェっすよ」くらいは何時もなら言えるのに、今日は何か上手く口が動かない。ワーワーと言い合いしながら、会長はずっと俺の髪を混ぜる。

「………」

 混ぜすぎてもう髪の毛は爆発している。何時もなら…そう、何時もなら。そんな乱雑に動く手だって振り払えるのに。

「会長…それ止めて下さいよぉ。俺ガキじゃないんすからぁ」

 そしたら会長が俺の頭をそのまま抱き込んで、背中をポンポンしてきた。

「うっうぅ、うぇぇぇ」

 俺、どんだけ涙もろくなったんだろう。生徒会室で感じた思いとはまた別に、何だか急に暖かくなって安心してしまったのだ。

「しっかしなぁ、まさか弥ちゃんが『助けてぇ(ハート)』何てなぁ? あない可愛く呼ばれたら、そらマー君も全力疾走するわなぁ」
「だろ?『会長っ(ハート)、会長助けて(ハート)』なんて言われればなぁ」
「しょ、しょーがないでしょっ!? 会長の事しか思い浮かばなかったんだからッ!!」
「ひゃはっ! そーそー! 弥ちゃんがそないなこと言うわけ……えっ?」
「え?」
「え?」
「え?」

 ………。

 会長に抱えられていたはずの頭が急に外され、ボロボロになった顔を全員に凝視される。え、俺なんか変なこと…言った??

「ちょ、弥ちゃんいま…なんて?」
「へ…? だから、あの時は俺も必死だったから、つい頭に浮かんだ人をですね」
「いや、え…おま、別に助けなんて叫んで無かったけど」
「ボクちょっと冗談言うたつもり…やってんけど」
「嘘でしょ…? アンタまさか…嘘でしょ!?」

 え…ちょ、俺………何言っちゃった!?
 藤原さんの冗談に乗せられたて、とんでもない失言をしたと漸く気付いた途端。俺の身体は着火剤の様に発熱して全身を赤く染めた。

「ちっ、違ッ!!」
「うわぁ…どないしよ…ボク立ち直れへんわ…」
「違うって言ってんでしょうが!!」
「なに頬を赤らめてるんです会長様ッ!!」
「やめてやぁ〜相思相愛とかやめてやぁ〜」
「黙れってんですよぉおっ!!」
「だってよ…あんなに嫌われてたのにそんなん…俺、俺照れちゃうって…」
「僕は認めませんからねぇ!!」
「やっ、違ッ! やめっ!」

 違うってば! 止めろってば!!

「あぁ…俺、岩佐に殺されるなぁ、三澤にこんなに愛されちゃって」
「愛してねぇよ!!」
「ツンデレだったんだな」
「違ぇっつの!!」
「好きの裏返しな」

 すっ! すっ!? すっ!!?

「アンタなんかっ、好きじゃねっつのッッ!!」


 会長以外の生徒会役員たちが、怒り心頭な岩佐部長の作り上げた記事によって『真面目に仕事しときゃー良かったー』と泣きを見る日はそれ程遠くない。

「デレつんな?」
「何だよデレつんて」
「照れてんの? 可愛い奴だな」
「アンタ最強のアホだろッ、おいそこ!! 生ぬるい目で見てんじゃねぇよ!!」

 そうして調子に乗った会長が岩佐部長の餌食になるのも、俺が会長以外の『生徒会役員リコール』に関する記事をつくる日もすぐそこまで来ている。だが…

「あー、ホント可愛いなお前」
「馬鹿じゃねぇの? 止めろって頭触んなよ」
「敬語どっか行ったな。それよりお前、来週のパーティ来んの?」
「は? あぁ、行きますけど」
「一人?」
「いや、瀬野も一緒に」
「ふぅん…」
「なんスか」
「いや、別に」

 俺がこの人相手に、どんな薬も効かない病にかかるのは…もう少し先の話になる。

「何ですかその顔、なんか不満なんですか」
「……」
「ちょっと!!」


おわり☆



↓↓おまけ↓↓


☆SIDE:岩佐☆

 今追いかけている学園内のスキャンダルを記事に纏めていると、見知った顔が部室に入ってきた。

「邪魔すんでぇ〜…て、あれ? 弥ちゃんはおれへんの?」

 うちの部員、三澤弥に付き纏う悪い虫の一人だ。

「はぁ、貴方もですか。三澤ならいま取材で居ませんよ」
「何やぁ、ちょっと付き合うて貰いたかってんけど…それ時間かかるん?」

 その言葉に僕は眉間に皺を寄せ、握り締めた拳で机を殴る。

「貴方たちねぇ! もう三澤は生徒会のお手伝い係でもなければ! それこそ風紀委員でもないんですよ!! 彼を連れ回しに来るのは止めてもらえます!?」
「わわっ、怒らんといてや! 何かなぁ…ついつい弥ちゃん頼ってしまうんやんなぁ…」

 しみじみとそんなことを呟きながら、謝罪の言葉を残して部室を去っていく。そんな彼の背中を見ながら、ふっと全身の力を抜いた。

 生徒会長である楢崎くんの補佐をするようになった頃から、何となく、彼に対する周りの見る目が変わっていることには気付いていた。彼は、彼自身が気付いていない魅力に溢れている。
 表裏のない性格、キツイ言葉の裏に隠された優しさ、暖かさ。でも、それを知っているのは、

「僕だけで…良かったのになぁ」

 思わず溢れた言葉には、自分自身で笑ってしまった。この部屋から送り出したのは僕なのにね。
 彼の世界が広がることは良いことだ。先ほど漏れ出た呟きには蓋をしよう。
 嘲笑気味に溜息をつくと、僕は疲れて帰ってくるであろう彼のためにコーヒを淹れに立ったのだった。

おわり☆


番外編1




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