BROTHERS×HOLIC:後編***
ホテルで散々な目に合わされ気を失ったあと、タクシーでも使ったのか気付けば俺は家に連れ帰られていた。慣れた景色にホッとしたのもつかの間、それから更に二日間、俺は飲まず食わずで貴春に抱かれ続けた。
「ケツと腰が痛ってぇ〜…」
目が覚めた四日目の朝。部屋の中に貴春の姿はない。
「いてて…てて…」
ヨロヨロと動きの鈍い体を引きずりリビングに出るが、そのテーブルの上には何も用意されていなかった。
「オイオイ、俺の朝飯は…?」
どんなに忙しい時だって、自分が食わないのにも関わらず用意されていた朝食。それがどこにも見当たらない。冷蔵庫の中を確認しても、そんなものは無かった。
むしろこんな時だからこそ、用意すべきじゃねぇの??
「ッだよ、貴春のやつ」
冷蔵庫を開いたついでに水を取り出し口をつける。リビングのソファにドスンと腰を下ろすと、使い過ぎた腰とケツに痛みが走った。
他の男を捕まえてホテルに入ろうとした俺を、寸でのところで引き留め、男を殴り倒した貴春。その後の貴春はいつもの余裕なんて少しも見られず、俺を蹂躙するその顔は苦渋の色に染まっていた。
俺が貴春に『抱いてくれ』と頼んだ時に言われた言葉を思い出す。
『千秋ちゃん、俺のことが好きでセックスしたい訳じゃないよね』
喉の奥から渇いた笑いが漏れる。
「マジか、アイツ俺に惚れてんのか」
抱く、と表すにはあまりに暴力的な行為は、俺の体にあらゆる痕跡を残している。俺とは絶対にセックスしないと断言し頑なに拒絶していたくせに、俺が他の男とセックスするのはどうしても許せなかったらしい。大体が、ホテルの前で俺を見つけるなんて偶然があるわけない。だとしたら、
「後をつけて来てたわけだ」
それだけ俺に惚れているのだと考えると、今まで俺を甘やかしてきた理由も、頭がいいくせに俺と同じ高校や大学を追っかけて来たのも頷ける。
「なぁ〜にが一緒にいた方が楽しいだよ、俺にメロメロなんじゃねぇかよ!」
面白過ぎて、俺は大笑いする。こんな面白い事実が、まさかこんなにも近くに転がっていたなんて。アイツの歴代の遊び相手を嬲るよりも断然、面白い。
「ちっと早いけど、俺も行くか」
大学で俺の顔を見て、貴春はどんな反応を見せるだろうか。起き上がることも大変だった俺の体を気遣って、走り寄ってくるだろうか? その時、もしもアイツの遊び相手が腕に絡んでいたら? その腕を、振り払って俺の元に走ってくるのだろうか? では、その振り払われた相手の顔は?
「あ〜! やべぇ! 楽しみ過ぎてたまんねぇ!! て、あれ、着替えも用意してねぇじゃん」
今日の貴春は、いつもの作業が全てすっ飛んでいる。それだけ、俺を抱いたという事実に動揺しているのだろう。可愛い可愛い弟め。もっともっと遊んでやるから、楽しみにしておけよ。
*
*
*
「なんだ…?」
勢い勇んで大学に向かったのはいいが、そこで待っていたのは、俺が予想したものとは全く違う世界だった。
まず、すれ違うやつすれ違うやつ、みんなが俺を冷たい目で見ていた。今までだって、そうした視線を受けることは度々あったが、それは貴春の相手を弄ったその日だけだった。
だが、変化はそれだけじゃない。
「あ、おい、おはよう!」
いつも学内でつるんでいる奴らを見つけ、声をかけたのに。そいつらは慌てて俺から目を逸らし、逃げるようにして去っていく。
「チッ、なんなんだよ!?」
そうして困惑しあたりを見回していると、カフェテリアの前の芝生に漸く探していた姿を見つけた。
「はぁ、こんなとこに…」
漸くホッと息を吐く。その姿は、絶対的に俺の味方であると断言できるものだったから。だがその隣には、小柄な男の姿があった。
「はぁ!? 誰を連れてるんだよアイツ! おい! おい! 貴春!」
手を挙げて呼べば、そいつは俺の方へと顔を向けた。
「貴春! きは……」
俺が手を上げ、貴春と目が合い。いつもなら、そんな俺ににっこりと笑んでくれるその美貌は…。
「ッ、」
冷たく鋭い視線で俺を射抜いたかと思うと、直ぐに感情の無い顔に戻り、フイと俺から視線を逸らしてしまった。それどころか、その貴春の腕には以前ここで顔を足で踏みつけられた男が絡んでいたのだ。
俺に、世界中探したって需要が無いと言い放った男だ。何でそんな奴を連れてんだ…?
「オイッ!」
あまりにムカついて、貴春に駆け寄り肩を掴んで振り向かせようとした。が、
――――バシッ
「触らないでくれる?」
振り払われた腕、冷たく落とされた声。それは、確かに貴春のものだった。
「え…、」
貴春はこちらを見もしない。そのまま、俺を小馬鹿にした目で見てくる男の細い腰を大切そうに抱いて、エスコートするように俺に背を向けた。
は? …なんで? なんでそんな奴の腰抱くんだよ。
呆然とその背中を見送る俺の後ろで、誰だか分からないやつが聞こえよがしに言った。
「信じらんねぇよな、弟を襲うなんてさ」
「この間の騒ぎだって、やならいとあの子を犯すとかなんとか、脅してたらしいじゃん」
「頭、可笑しいんじゃね?」
どう…、なってんだ?
あの空気の中ではそのまま大学にいられなくなって、俺は慌てて家に帰った。今までバカにしてきた奴らのあの視線が怖くて、どうしても怖くて。無様にも足が震えて、歩くのもやっとだった。
家に戻って鍵をかけると漸くいつもの自分を取り戻したようで、頭に血が上る。
「なんなんだよ! なんで貴春はっ、俺を無視してあんな奴の腰抱いてんだよ! だいたい!」
大体、俺が脅してたってなんだよ!? 俺が弟を襲ったって、どこから出た話だよ!?
「俺が襲われたんだぞ!? あんなっ、何回も何回もちんこ突っ込まれて! ふざけんなよ!」
手の届く範囲、目につくもの全てをなぎ倒し部屋の中で暴れた。どうせ片づけるのは、帰ってきた貴春なんだから。
「クソッ! クソクソクソクソ!!」
お前がその気なら、俺だって好きにしてやる! 散々部屋をぐちゃぐちゃにした後、俺は財布とスマホだけ手にして部屋を飛び出した。
「えっ、なんで!?」
数日前、俺を抱いてくれる相手を探しに行った店へ出向くと、渋い顔をしたママに入口で追い払われた。
「アンタ、もうウチには来ないでちょうだい」
「は…?」
「ユウくんに何したか、忘れたとは言わせないわよ」
「でもあれはっ!」
「いまこの辺一帯、アンタは出禁になってんのよ。ユウくんは人気があるし、アンタのこと恨んでる子も多いわ。下手にうろついてると、冗談じゃなく輪姦されるわよ。これに懲りたら、もう変な遊び感覚で男漁りをしないことね」
「そんなっ、」
「悪いけど、ウチも揉め事はごめんなの。じゃあね」
「ちょっ!」
目の前で、バタンと扉を閉められ、暫く立ち尽くす。だがそれも、通り過ぎていく中の『あれ、アイツって…』の言葉に体が跳ね上がり、逃げるようにして家まで帰った。
玄関を開けば、片づけられていない、滅茶苦茶になった空間が広がっている。もう時刻も20時を過ぎているというのに、貴春の姿はどこにも見当たらない。だからといって、あんな態度をとった奴に自分から連絡するのも腹立たしい。
「どうせ、明日には帰ってくんだろ!」
ぐぅ〜、と腹の虫が鳴ったが、俺には料理というスキルは備わっていない。風呂に入るどころか着替えることさ億劫で、そのままベッドに横になって、子供みたいにふて寝した。そうさ、戻ってくる。たった一日ですら俺から離れることを嫌って、塾や学校の合宿を疎んでいた貴春のことだ。戻ってくるに決まっている。戻らないわけがない。
だが次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。貴春が部屋に帰ってくることはなかった。
シンクに小さな虫が、たくさん飛んでいる。部屋の中のいたるところに虫が飛んでいる。そりゃそうだろう、シンクの中は、洗っていない食器が山積みだし、ごみ箱からはあらゆるゴミが溢れている。
床にはゴミの詰まったコンビニ袋が所狭しと転がっていて、中から汁が零れているものもある。テーブルなんて、今は物置でしかなく。
唯一ゴミに埋もれていない場所は、俺がベッド代わりに使っているリビングのソファくらいだ。部屋からの悪臭に、日に何度も大家が怒鳴りにやってくる。それを俺は、ただソファの上で聞き流していた。
風呂には、お湯の出し方が分からなくて暫く入っていない。数回冷水のシャワーを浴びたが、真夏でもない今は流石に寒くて嫌だった。それなら入らない方がマシだ。
貴春が返ってこなくなって、一ヶ月が経った。大学には、あれから怖くて行けていない。
俺が大学に行かなくなっても、誰からも連絡は来ない。あれほど貴春をネタに一緒に楽しんできた、友人だと思っていた奴らは、あの日俺から目を逸らしたまま、音信不通になってしまった。
貴春に頼り切っていた生活は、貴春がいなければ何も上手く回らなくなった。自分ではやかんで湯を沸かすのが精一杯で、それ以外なにもできない。日に日に増えていくカップラーメンとコンビニ弁当のゴミを、いつ出せばいいのかすら分からない。
隣人に聞いてみようと思っても、今までの俺の態度が悪すぎて誰も相手にしてくれなかった。
貴春が隣からいなくなったら、俺の側には誰もいなかった。誰も、いなかったんだ。
――――ダンダンダン! ダンダンダン!!
「ちょっと! 嘉島さん! 居るんでしょう!? ゴミ、いい加減にしてくださいよ! 本当に追い出しますよ! 嘉島さん!!」
そうこうしているうちに、大家が怒鳴りに来るようになった。そのうち、俺はここを追い出されるんだろう。
「きはる……うっ、うぅぅぅ…」
貴春に腹を立てていられたのは、最初の一週間だけだった。腹は減るし、人恋しいし、できないことだらけでイライラして、腹立たしいままに暴れればまた、部屋は汚くなる。
自分がいま何のために生きてるかも分からなくなって、でも死ぬ勇気すらない。
毎日コンビニで買い食いしているから、手持ちの金もそろそろ底をつきかけている。でも、俺の口座には一円も入ってはいない。今までずっと、貴春に金をもらっていたからだ。バイトなんて、したことはない。雇われる勇気もない。
「うっ、うぅっ、ぅうぁあああぁ、うっうっ」
二週間目から、毎日毎日無駄に泣いている。悲しいのか、ムカつくのか、どうしたいのかも分からなかった。
貴春の存在が、こんなにも俺にとって重要だったなんて知りもしなかった。いつも勝手に身の回りの世話をしてくれる、便利な存在としか思っていなかった。俺の、都合のいいオモチャだと思っていた。
そのうえ更に深刻なのが、あの日酷く抱き潰された三日間で、俺は完全にケツで感じる体になってしまったということ。
やることもなく、イラついてオナニーをすれば、どうしてかいつものようにスッキリしない。まさかと思って後ろに手を持っていくと、俺の体は驚くほどに熱を持った。
「ひぃぃ、やだ、ぃやだぁあぁ〜ッ!」
俺の後ろは奥の方まで開発されているようで、自分の指では慰められなかった。持て余した熱もそのままにするしか術はなく、ただ泣きながら自分の体を慰める。だが、それももう限界だった。
相手をしてくれるゲイを探そうにも、あの辺一体出禁にされてしまっては、どうやって相手を見つけたらいいのか分からない。男専用のデリヘルと頼むにも、金がもうない。
「貴春…きはるぅぅぅッ!」
自分からは、絶対に連絡したくなかったけど。どうしても、それだけはしたくなかったけど。もう、そんなことも言ってられない。電話は怖かったから、俺は震える手で貴春にアプリで連絡を取った。
『たすけて』
その一言を打ち込むのに半日かかった。だが、それを送ると意外にも貴春からはすぐに返事が返ってきた。
『芝生においで』
どこの事かはすぐに分かった。時刻は16時50分。まだまだ人が多い時間帯。だけど、そんなこと気にしている場合ではない。もう、心も体も、生活環境の全てがもう限界なのだ。
俺は着の身着のまま、部屋を飛び出した。
「はは、凄い恰好」
俺を見て笑う貴春。そりゃそうだ、禄に風呂にも入らず、整えられていない固い黒髪はボサボサ。Tシャツはあれから数回変えた程度でヨレヨレだし、下は貴春が帰って来なくなってから一度も洗っていないパジャマのままだ。急いできたせいで、足は片足ずつ別のサンダルを履いている。
「おいで、千秋ちゃん」
呼ばれるままに、俺はふらふらと貴春に近寄った。貴春に手を伸ばし、触れようとすると避けるように一歩下がる。
「きはる…」
「どうだった? 俺のいない生活は。楽しかった?」
そう聞かれて、この一ヶ月を思い出して、俺の瞳から涙が溢れた。
「やだ…ぃやだ…帰ってきてくれよ……貴春、きはるぅッ!」
「そんなに辛かった? 一緒にいるときは、俺に見向きもしなかったくせに? 俺なんて、要らないんじゃない?」
「ヤダァァァア!」
うわぁぁあ、俺は芝生の上に泣き崩れ、貴春の足にしがみついた。奇しくも俺が、あの男の頭を踏みにじらせた場所だった。
「ヤダヤダヤダ、貴春、帰ってこいよ、頼むからぁ!」
「うーん、どうしようかなぁ」
「なんでもするっ、貴春の言うとおりにするから! だからぁ〜ッ」
「へぇ、俺の言うこと何でも聞いてくれるの?」
「きくっ、きくからぁ〜!」
見上げた先の、貴春の顔がにっこりと笑んで言った。
「じゃあここで、オナニーしてみて」
「え…」
「いままで、俺の足にすがってきた子たちに色んなことさせてきたよね? 今度は、千秋ちゃんの番だよ」
「あ……ぅ…」
「なに、できないの? 千秋ちゃんの俺への想いって、そんなものなのか」
じゃあ俺は、また別の子を選ぼうかな?
「やる! やるからっ、やるからぁ!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった俺を、楽し気に貴春が見下ろしている。見ているのは貴春だけじゃない。いつも俺と一緒に、貴春の遊び相手の無様な姿を傍観していた奴らが集まっていた。
その視線に晒されて、俺は震える手でパジャマの中へと手を滑らせる。
「う…うぅぅ…」
なんで、こんなこと、おれが…。頭の片隅ではそう思うけど、この一ヶ月を思いだすと、酷い震えが全身を襲う。中身は見えないとはいえ、衆人環視の中、ぐちゅぐちゅと音を立てながら硬度を増していく自身に絶望する。
まるで子供の様に泣きじゃくりながら、必死でそこを昂らせる。昂らせながら、俺は無意識にもう片方の手を後ろに回していた。指一本が、簡単に滑り込んだ。
「ひっ、う…あっ、あっう…」
「凄いね、アナニーまで覚えちゃったの?」
バカにしたように鼻で笑われたが、もうどうでも良かった。貴春が家に戻ってきてくれるのなら、恥も外聞っもない。ただひたすら自分が気持ちいと思えるオナニーを、貴春に見せつけてやりたかった。
「そこ、解して何を挿れるつもり? また他の男でも探す? あ、出禁になってるんだっけ」
そう言って笑われた瞬間、頭にカッと血が上る。俺は貴春の股間へと飛びついた。
「あっはっはっはっは!」
だが、飛びついてソレに触れようとした手を貴春に取り上げられる。
「可愛いね、千秋ちゃん。そんなにしてまで俺が欲しいのか」
「貴春…う…ぅ」
取り上げた俺の手を、貴春が躊躇いなく舐め上げ甘噛みをする。その手は、俺の先走りでベトベトなのに。
「参ったな、ここまで堕ちてくれるなんて予想外」
「きはる…きはるっ」
「分かったよ、千秋ちゃん。一緒にお家に帰ろうか」
「うっ、うぅぅううっ、うぅうううう」
貴春の帰る≠ニいう言葉に、こんなにも安心を得られるなんて。俺はあまりの嬉しさに、また、子供の様に泣きじゃくった。
まともに歩けなくなった俺は、貴春と共にタクシーで家に戻った。玄関を開ける前からする異臭に貴春が苦笑して、玄関を開けて、ついに頭を押さえた。
「さすが千秋ちゃん。よく一ヶ月でここまで汚したね」
「ぎあるがっ、ひっ、ぎはるが悪いんだぁ!」
「ハイハイ、ちょっと待ってな」
一ヶ月前の優しい貴春が戻ってきた。まだ泣いている俺のボサボサ頭を優しくかき混ぜて、使ってないからあまり汚れていなかった風呂に、俺を押し込んだ。
俺が久しぶりに暖かい風呂を堪能し、小汚い顔を綺麗にしている間、あっという間に貴春がそこらじゅうのゴミを纏めてくれた。ちょうど明日がゴミの日だから、朝までベランダに仮置きするんだとか。
風呂から上がったら、リビングがほとんど元通りになっていた。
「ちょっと今すぐは全部綺麗にできないから、また明日ね。飯も、今日はインスタントで我慢してくれる?」
そう言って振り返った貴春に、俺は風呂から出た全裸のまま飛びついた。
「千秋ちゃん…んっ、ん…」
「ンぅ、ん…んぅ」
噛みつくようなキスをした。しつこく舌で唇をなぞってやれば、貴春の唇が薄っすらと開く。その隙間から舌を滑り込ませると、俺の舌はまるで罠にかかったかのように、貴春の舌に絡めとられた。
「あぅっ、んうっ!」
俺の口端からは飲み下せなかった唾液がダラダラと零れ、勿体ないとでもいうように、キスの合間に貴春がそれを器用になめとっていく。
「あンぅぅううっ!」
ただ、キスを深くされただけなのに、俺のアソコはそれだけでイってしまった。
「俺の知らない間に、随分エロイ体になっちゃったね。誰かに仕込まれた?」
「ちがっ! ちが…」
「うん? 俺以外の誰かを、ここに咥え込んだ?」
「してないっ! きはるっ、きはるだけ…」
「本当に? 確かめてもいい?」
俺の体が、期待に熱を帯びた。
恥ずかしげもなく上を向くソコと、期待にヒクつく後孔。前からの先走りで、まるでいつでも挿れられるように準備したかのように濡れている。
ちゅぷ、と音を立てて貴春の指が一本入った。
「本当だ、キツイね。ここを指で弄りながら、欲しいと思ってくれたの? 他の誰でもなく、弟の俺を欲しいと思ってくれたの?」
「ほしっ、欲しかった…貴春…貴春が欲しいぃ」
「はは、可愛い……可愛いなぁ、千秋ちゃんは」
「あっ、あっ!」
「約束できる? これからも、ここは俺専用。他の男も、女も作っちゃダメ。それが守れるなら、俺が幾らでも相手してあげる。今まで通り、千秋ちゃんの側にいて、全部面倒みてあげる」
この一ヶ月の生活を思い出して、ゾッとして貴春にしがみついた。
「するっ、するから! もう、居なくなんねぇで貴春っ!」
抱き着いた、俺の耳元で貴春が微かに笑った。
「分かったよ。約束ね、千秋ちゃん」
◇
「千秋ちゃん、朝ご飯できたよ」
「ん〜」
「千秋ちゃん。今日はあさイチから講義あったでしょ? 休むと落第するよ」
「ッは! ヤバイ!」
俺はベッドから全裸で飛び起きる。
「待って、千秋ちゃん。一回だけしよう」
「え!? あっ! 貴春っ、やあっ、ひあぁああっ」
せっかく起きたのに、ベッドに押さえつけられ熱いモノを後ろにあてられる。昨夜、遅くまで散々使われたそこは、簡単に貴春のデカいのを飲み込んだ。
「あっ、あっ! あぁあっあっ、ひっ、ンあっ!」
「凄いね。千秋ちゃんのここ、完全に性器になっちゃったね」
「ンぅうっ、ンっ、はぁっ、あぁあっ! あッ!」
「ちゃんと約束守ってくれてる? 俺以外を咥えてない?」
「ちゃ…と、あッ、まもっ…てる…ぅンっ、」
「じゃあここ、俺の形になってるね」
不思議なことに、カフェテラス前の芝生で醜態を晒したあの日以降。大学内の人間はどうしてか元に戻っていて、音信不通になっていた友人たちも、何事も無かったように話しかけてくる。
兄弟が芝生であんな醜態を晒したというのに、それについては一言も触れてこないのも妙に感じる。が、ほぼ全てが元通りになっていた。
だが、ただ一つ元通りでないのは。
「貴春っ、貴春は…他に男……んっ」
「なにそれ。俺が他に? いるわけないじゃない、千秋ちゃんのお世話で手一杯だよ。ほら、集中して、時間無いから」
あの日、貴春に絡みついていたあの小柄な男。俺に需要が無いと、貴春にも求めて貰えないと喧嘩を売ってきたあの男の姿を、貴春の横で……いや、大学内ですら見かけなくなったのだ。
友人たちに聞いても、みな一様に『そんな奴いたっけ…?』と話を逸らしてしまう。
せっかく当初の予定通り貴春に抱かれたというのに、アイツが居なくなっちまったら一体誰に報告すればいいんだ? 大体、こんなに何度も抱かれるつもりはなかったのに、今ではほぼ毎日、一日2〜3回は貴春と…血の繋がった弟とセックスしているのだ。一度きりならともかく、何度も繰り返されるこの関係は…一体何なんだろう。
だがその疑問を、今更貴春には言えない。言ってはいけない、そう感じている。
「あぁッ! んっ、んぅぅ…ッ」
「くッ」
あさイチで、背中の上に弟の精液をかけられる。その後の深いキスを何度か受け入れたら、俺の朝の仕事はひと段落する。
「シャワー浴びたら、ご飯食べてね」
「うん、サンキュー」
もともと貞操観念の低い俺のことなんだ、弟とセックスしていることに罪悪感など一ミリもない。むしろこの体で貴春を繋ぎとめておけるのなら、幾らでも差し出してやる。
あんな酷い一ヶ月をまた経験するくらいなら、俺はこの先も貴春とセックスして、貴春のご機嫌をとって、そうして何不自由なく安定した生活を送る方を選ぶ。
例え、どうして俺があの場所で出禁になってることを貴春が知っているのか…とか、あの小柄な男があの後どうなったのか…とか。気になることがたくさんあったとしても、決して、気にしてはいけない。
「貴春、そろそろ遊ぶ金が無ぇんだけど」
「分かった、用意しておく」
今まで通り
多分それが、俺にとっても、きっと貴春にとっても。
一番幸せな未来に繋がる道に、違いないのだ。
END
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