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「いや、本来なら転校生のためにそこまではしない。今回は特例だ」
「特例?なんだそりゃ」



爽は門田の言葉に首を傾げる。それに少し肩を竦めつつ、門田はため息をつきながら言った。



「今回の転校生が規格外、という扱いなんだ。……お前たち、転校生に関する噂は聞いているか」
「ああ、なんか金持ちだとか帰国子女だとかは河相から聞いたけど」
「あと、絶世の美形だとかねー。でも噂なんかアテになんないよ、って話をしてたんだけどさ。でもさ、特例って事は、御大層な噂のうちどれかは本物だったりするわけ」



爽の言葉を受け、茶化すように石川は笑う。それに門田はまた重くため息をつきながら言った。



「残念ながら、噂は全て真実だ。今度来る転校生は帰国子女、しかも有名財閥出身だからな、金持ちと言うのも間違いじゃない」
「そして外見レベルも並みじゃない。俺もひとかどの人間を見てきたつもりだけれど、あれ程のルックスの人間は中々見た事がないね」



門田の言葉を受け、マモリも苦笑めいた笑みを浮かべながらそう言う。そんなマモリに伊代は眉を上げながら言った。



「へえ、守くんがそう言うなら、その人は相当かっこいい人なんだね」
「……まあ、ね。とにかく、そんな生徒を放置するのは危険だと生徒会は判断し、風紀にも要注意人物と通達を出した。それを風紀も妥当だと支持したから、急遽だけれど転校生に生徒会親衛隊と風紀を付けることになったんだよ。あれだけの人物だ、親衛隊はすぐにできると思うけれど、その間は、ね」



肩を竦めつつマモリはそう言う。それに石川はわざとらしく大きく息を吐いた。



「……ふーん。金持ちの上に美形なら、生徒会も風紀も『とくにご配慮』してくれちゃうわけ。……全く、何のかのと上級民は守ろうとするよね、アンタら」
「……い、石川くん」



少し険を含んだ視線で石川はマモリと門田を見やり、伊代は慌てて石川を止めようとする。そしてその言葉にムッとしたのか、門田は少し肩をいからせながら石川に言った。



「誰かを特別扱いをするつもりはない、東風紀はな。守るべき者を守るべき時に守る、それが我々のポリシーだ。……まあ、西はどうだか知らないが」



憎々しげに門田はそう言い捨てる。するとまた背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「言ってくれんじゃん、門やーん?つーか、職務放棄するヤクザを上に抱えたオマエラに言われたくねーし。そのせいでオレらがパツ金の面倒見なきゃなんなくなったんだかんな」
「!」



明るい声、と共に、鼻を掠める妙に甘い香り。俺がその声の主の名前を呼ぶより早く、俺の肩に腕が回される。そして俺の首筋に顔を埋めながら、その男、――関賀は大きく息を吐いた。



「はー、やーーっとレイちゃんに会えたー!もうデビル三匹にあてられて死にそーだからさー、レイちゃんのエロエンジェルパワーチャージさせてー!」
「……何を言ってるかわからんが、関賀、いい加減離れろ」



フンフン、とまるで犬のように関賀は俺のワイシャツに顔を突っ込んでくる。それを押し退けようとする前に近くにいたマモリ、そして石川が眉をしかめながら関賀の体を俺から引き剥がした。



「関賀!君という男は!また懲りずに名倉くんに!いい加減離れろ!」
「そうだ、ふさげんなタチ食い!いい加減ウドに関わるのは止めろ!つーか、今度来た転校生が美形だって話じゃん!ウドなんか構ってないで、そっちに鞍替えしろよ!」



石川がそう叫ぶと、関賀はいよいよ嫌そうに顔をしかめた。

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