猫になりたい(王道・名倉と石川)


注・こちらは石川視点でお送りします。



「しゅうたくーん、あそぼー」
「しゅうたくーん、こっちには『ちゃーる』があるよー、おいでー」


猫じゃらしをふりふり、にこやかに誘う多田。そして文字通り餌付けによる懐柔を図る志野。……しかし、


「……」


猫、――しゅうたは名倉澪汰の膝の上に乗ったまま動かない。ひたすら名倉の腹に顔を寄せじっとしたままだ。それを見、二人は大きくため息をつく。


「えー、ここまでしてそれ?普通、猫なら『ちゃーる』でみんな陥落するもんなんじゃないの?」


志野の嘆きに、河相は笑いながら言った。


「『ちゃーる』より、しゅうたくんは澪汰くんが好きなんだよ。……というか、今のところ澪汰くんと書記様しか好きじゃないのかも」
「わかってるよー、だから仲良くなりたいんじゃん。しゅうたくんを生徒会棟で飼う事になった以上、親衛隊の僕らだってお世話する事になるんだし……それに僕、猫飼うの憧れだったからさー、仲良くしたいのになぁ」


志野は頬を膨らます。


書記の秋田がひそかに匿い、名倉が連れてきた猫、『しゅうた』は、生徒会長である阿久津と副会長の真野の特別の計らいで生徒会棟で正式に飼われる事になった。唯一会計の人見だけ『飼うのはいいけど世話はしないからね、ぶー』と反対意見を述べたため、匿っていた張本人の秋田、そして補佐として真野の隊がしゅうたの世話をする事になったのだが。……ものの見事に、しゅうたは秋田と名倉にしかなつかなかった。秋田はしゅうたは自分と名倉が飼えばいい、と強硬に主張していたが、阿久津と真野の説得により、とりあえずメイン飼育は秋田、後々のためにもしゅうたを真野の隊にも慣れさせ、名倉をその補助につけるという着地点で落ち着いた。そのため、名倉は生徒会棟に入り浸り、今日は河相と石川がそれを手伝うために生徒会棟副会長控え室でしゅうたと相対していたのだ、が。


「あー、やっぱダメだなぁ。最近は僕を見ても隠れなくなったから、少しは慣れてくれたと思ったのに」


嘆く志野に、守は笑いながら肩を叩いた。


「まあ、気を落とすな。しゅうたくんは外にいた子だからね、警戒心が強いんだろう。そういった子にあまりに構うと逆効果らしいから、少しずつ歩み寄ったらどうだい。まだ二週間しか経っていないんだし」
「そうだねー、残念だけど。……じゃ、まだ当面、しゅうたくんの面倒は名倉くんにも付き添ってもらうことになるけど、いい?」


志野がそう言うと、名倉は頷いた。


「ああ、それくらいは構わない。俺もしゅうたの様子は気になるからな。だが、これから先も部外者の俺たちが生徒会棟に入り浸る事は大丈夫なのか」


軽く名倉がそう言うと、守は目を輝かせながら言った。


「それは大丈夫。親衛隊たちに通達は行ってる。しゅうたくんも君がいてくれた方が安心だろうしね、俺は大歓迎だ」
「……そりゃあ、守様は大歓迎だよね。……色々な意味で」


今までのやり取りを聞いていた石川はぼそり、とそんな台詞を漏らす。それに河相は苦笑した。


「まあまあ、石川くん。しゅうたくんの事を考えたらそれが一番いいじゃない。でも、僕らもしゅうたくんの事気になるから、お世話させてもらっていい?守くん」
「もちろんだ、河相くん」
「……だってさ、石川くん」


河相の問いに、守は頷き、そして河相は石川の方に視線を向ける。そんな河相に、石川は眉をしかめながら舌打ちした。


「……は?何で僕に振るのさ?言っとくけど、僕はそんな野良猫になんか興味ないからね」
「……またそんな……」


予想はできたが、相変わらずの態度に河相はため息をつく。あんな悪態をついてはいるが、石川がしゅうたをそれなりに気にかけていることを河相は知っている。そっぽを向きつつ、ゲージ越しに猫じゃらしでしゅうたと遊んでいたのも見たことがあるし、必要以上に構いはしないが気にかけていた。……生徒会棟で飼う、と正式に決まった時は安堵の表情を浮かべていたのも河相は見逃していない。


……本当に、石川くんは損だなぁ。いいとこもあるのに。


河相が石川を見ながらそんな事を思っていると、その横で多田が守に向かい言った。


「あ、そうだ、しゅうたくん用のキャットタワーとベッドが届いてるんだよ。どこに設置するか決めたっけ?」
「ああ、それは確か書記控え室だったと思うけど、……真野様に確かめてこよう」
「あ、僕も行く。真野様にお伺いしたい事があったんだ」


多田の言葉に守が答え、それに志野が追随する。それに守は頷くと、名倉の方を向きながら言った。


「名倉くん、俺と志野はちょっと真野様にお会いしてくるから、しゅうたくんをお願いできるかな。すぐ戻るから」
「ああ」
「じゃ、俺もキャットタワー出してくる。誰か手を貸してくれる?」
「あ、じゃあ僕が行くよ」


多田の言葉に、河相は立ち上がる。そして名倉に向かい微笑した。


「名倉くんはしゅうたくんを見てなきゃいけないしね。僕と石川くんじゃ、しゅうたくんが隠れちゃうかもしれないし」
「そうか」
「石川くん、後はよろしくね」


そう言いながら、河相は少し石川に向かい笑いかける。それはいかにも『うまくやれ』と言わんばかりの笑みで、それを見た石川は眉をしかめる。


……こんな短時間で、何をうまくやれって言うんだ。


だが、河相の意図もわからないではない。名倉という男の回りには、なぜかとかく人が集まる。しかも校内でもヒエラルキーが高いと思われる人間ばかりだ。だから10分程度短時間でも二人っきり、という時間があるということが稀有に等しい。石川の気持ちを知る河相としては、これで少しでも名倉とコミュニケーションをとってほしいと願っているのだろう、が。


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