戯れにキス(サト+名倉)

『王道くんになりたい!』
サト+名倉

注・こちらは名倉中学時代のひとこまになります。ちょっと流血表現があるのでご注意ください。




飲み屋や風俗店の派手なネオンが立ち並ぶ表通りから派生する、脇道の奥の路地裏の奥。ちょうどバーか何かの裏手の、少し広い広場のようになった荷物置き場が、俺と澪汰が合流する、暗黙の約束の場所だった。ビールケースが積まれたそこは、時おり酔っ払いが紛れ込んだり店の従業員が出入りするくらいで、人が来ることはあまりない。まあ、以前はカツアゲ目的で哀れな羊を連れ込む奴もいたみたいだが、今やそれもない。……ま、俺がそう仕向けたんだけど。



初めて澪汰と会ったこの場所は、俺にとっては聖地にも等しい。掃き溜めのようなこの街の一角に相応しく、ここはゴミにまみれて薄暗い、昼だろうが日の光すら当たらない場所だったが、太陽なんざ大嫌いな俺にとってはここは酷く落ち着く。この路地裏の、高く積まれたビールケースに腰かけて、遠く聞こえる暴力と、欲望と、そして人の憎悪と苦しみが満ちた裏側の声を静かに聞くのが、俺の安らぎのひとつ。――そして、



「……サト、待たせたか」



今、最大の安らぎを与えてくれる声が闇から響く。その声に、俺は心からの笑みを返した。



「ううん、それも楽しいから構わないよ。……こんばんは、レーたん」
「……ということは、待たせたんだな、すまない」



そう言いながら、いつものように黒一色に身を包んだ澪汰が闇から姿を現した。それはいつものようにやっぱり俺好みのきれいな顔でしなやかなイイ躰つきで、それを見るたび俺はまた笑みを浮かべてしまう。



ひょんなことから澪汰と出会い、夜の街で遊ぶようになってから、俺は毎日が楽しくて仕方ない。自分のことながら、俺は面食いで人に対しては食わず嫌いをするトコがあるから、どんな奴だろうが、つるむことなんか滅多にない。けど、澪汰はすべてにおいてストライクだ。顔も、躰も、その嗜好も、まるで俺のために生まれてきたかのような子だ。だから俺は、夜が来て、澪汰に会うのが何よりも楽しみで、そして澪汰に会うまでの時間も、あの子を思っていられて何よりも楽しみだった。



「だから、それもいいんだよ、待ってる楽しみもあるんだからさ」
「……ならいいが」
「そうそう!……さぁて、今日はドコ潰して遊ぶ?」



本心からそう言いながら、俺は積まれたビールケースタワーから飛び降りようとする。大した高さではないし、大丈夫だと思った、が、



「……あれ?」
「!」



今日は何故か、俺はバランスを崩し、着地体制を取る前に体が地面に投げ出された。ガシャガシャガシャーン、とけたたましいビールケースの崩れる音と一緒に。……ああ、やば。今日は酒、飲んでなかったはずなのに。そう思いながらも、俺は地面に激突してもいいよう受け身をとろうとした。が、



「サト!」
「…、」



落下地点では、澪汰が俺の体を抱きとめようと腕を伸ばしてきた。……あ、なんか少女マンガみてぇだなぁ、みっともない。そう思いながらも、やっぱり俺自身は痛いのは御免なのでおとなしく澪汰の腕に収まる。……が、



―――ふにゅ、



唇に、なんか柔らかい感触がして、



「、」



澪汰の顔がアップになって、俺は一瞬目を見開く。唇に感じた感触は、ほんの一瞬、一瞬だったけれども、確かに感じた柔らかい感覚に、俺は澪汰に馬乗りになりつつ、その顔を凝視する。



……あの感触、たぶん。



その可能性に、らしくなく俺は頭が沸騰したが、澪汰は顔色も変えず俺に尋ねてきた。



「サト、大丈夫か」
「あ、……うん、まー、」



答えながら、なんか左手に違和感を感じたが、俺は『可能性』に気をとられてたので、煮えきらない返事をした。が、澪汰はそれに気づかないのか言葉を続けた。



「重いビールケースとはいえ、何かで安定性が悪くなってたんだな。怪我はないか」
「ま、怪我はないけど、……事故った、かなぁ」
「……事故?まあ、確かにこのビール瓶を片付けるのは手間そうだが。……ここの従業員を呼ぶか?」



相変わらずくそ真面目に、澪汰は俺に馬乗りにされたまま割れてしまったビール瓶を眺めている。さすが鍛えてるだけあり、澪汰は俺を抱き止めてもちょっと尻餅をついたくらいで終わった。けど、辺りはビールの破片だらけだ。俺たちを囲うようにそのガラス片は辺りに散らばってる。そしてそれは、夜闇の中でネオンの光を反射してキラキラ輝き、妙に美しく思えた。そして辺りを漂う、ビールの安っぽい匂いと、俺自身から漂う血の匂いは、酒を飲んでいないはずの俺の頭を酩酊させる。



……ああ、なんか、



「サト、起きれるか。ここは危ないようだから、」



澪汰が俺の肩を掴んでなん言ってるが、酔っぱらった俺の頭には響いちゃいなかった。俺は、話しかけている澪汰の頬を右手で包みこんで、



―――ちゅ、



『したい』と思うままに、俺は俺の唇を澪汰に重ねた。



「……」



澪汰は言葉を止め、まじまじと俺を見つめた。そこには照れも怒りもなく、ただ俺をじっと無感情で見つめる瞳がある。それに笑みを返しながら、俺は澪汰に微笑した。



「……今日は、これで遊ぶ?……澪汰」
「…は?」
「ちょっと今日は、こうして遊びたい気分でねぇ」



そう言いながら、俺は澪汰の唇を俺の唇で弄びながら左手を澪汰にかざす。……飛んできた割れたビールの破片で、どうやら手を切ってたらしい。ガラスだからずばっと切れて、結構血が出てる。それを見、澪汰は顔色を変えた。



「……おい、どこが『怪我をしてない』だ」
「えー、かすり傷だよ、こんなの」
「馬鹿言うな、ガラスは深い傷になるんだぞ。……すぐ病院に、」
「あはは、レーたん、野暮だなぁ?こんな掃き溜めでさぁ、ガラスの星に囲まれて、……ロマンチックだと思わない?」
「……お前な、」
「……もーいい。黙ってなよ、澪汰」



俺は切れた左手をぺろり、と舐めた後、もう一回澪汰の唇にキスをする。……それは当然、血の味しかしなかったけれども。



「……遊ぼーよ、澪汰」



うっとりしながら、俺は澪汰に囁きながらキスを続ける。そんな俺を困惑げに、……澪汰はただ、俺の姿を見続けていた。



・END・
・王道で「事故(不意打ち)でキスした反応」
『相手指定なし』とのことでしたので、あまり出番がなかったサトにさせていただきました

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