『同棲』はじめます!(木瀬と奈々見)


短編『わびさび』暮らしより
木瀬+奈々見



「……よ、……っと、」



荷物をあらかた片付けたあと。俺は木瀬に見つからないように、こっそり玄関に出、やっぱりこっそり用意した改札をドアにかける。



『KISE & NANAMI』



ローマ字で打たれた俺たちの名字。俺のが女みたいな姓だからか、まるで新婚カップルの部屋みたいでナンだが、逆にそれがよくて俺は心中ニヤケが止まらない。



……ああ!俺ってば、あの木瀬と同棲だよ!今日から!



あいつと同室になった二年の春には、こんな事になるだなんて想像もしてなかったし、……実は木瀬自体が、ここまで俺が奴への想いをコンプリートするとは思ってなかったようだが、



……恋する男なめんな!って感じで、俺はあいつと同室でなくなった三年になった一年間、勤勉・皆勤・禁欲と、いわゆる『サンキン』を果たし、大学受験に成功したあと、真っ直ぐ木瀬のところに言って告白した。



「どーよ木瀬!?俺ぁ一年お前の事が好きなまんまだったぞ!?だから、同棲決定だよな!!」
「……」



木瀬は俺の言葉に目を見開いた後、苦笑いしながら言った。



「……情緒もへったくれもないな」
「……るせぇな、わかってんよ!けど今更じゃん、それこそ一年前、俺の気持ちって奴をお前わかってんだからさ、……これでもテンパってんだ、察しろ」
「……」
「で、どうなんだ、木瀬。イエスかノーか」



なるべく余裕ぶっこいてると見えるように、俺は不敵に笑いながら木瀬に迫る。……心中はかなり不安だったが。なにしろ三年の一年間、特進のコイツと単なる理数選択の俺ではクラスも違ったし、あいつの勉強が大変なのもわかってたから、あまりちょっかいもかけられなかった。その間に心変わり、……なんて、ないとは言えないし。



だが、もしそうだとしても、俺は木瀬を責める気はなかった。……いや、責めたい気はぶっちゃけあったが、……初恋に泥を塗るような真似はやっぱりしたくはない。つか、初恋を初恋のまま終わらせたくはない。



……だから、俺を振るな、木瀬!こういっちゃなんだが俺は努力した!セフレは切ったし、お前志望の国公立大に近い私大に受かるために頑張った!ついでに美貌にも磨きをかけた!ダイエットもした!そんじょそこらの女子に負けない努力はしたんだ!お前好きな言葉は『努力』だったよな!?だったら今の俺はお前からすりゃどストライクだろう!



……と、心は叫んでいたが、それは口に出さずに俺は静かに木瀬の言葉を待つ。すると木瀬は、何も喋らず俺にそっと近づくと、



――ちゅ、



「……!」



突然の木瀬のどアップ、そして唇に触れた柔らかい感触に、俺は一瞬何をされたかわからなかった。が、微笑しながら木瀬が離れていったとき、俺はこいつにキスをされたとやっと理解し、



「……そうだな。同棲しようか、奈々見」
「……!」
「俺もお前が、……ずっと好きだった」



……なんて言われて、力強く抱きしめられちゃったりしたら、……嬉しさのあまり失神した俺を誰も責められまい。……だって一年だぞ!?一年片想い状態だったんだぞ!?しかも昔俺は男相手でも入れ食い状態で、相手に不自由したことない超イケメンなんだぜ?この、今までにない『待つ』という苦行、そしてそれを成し遂げた俺の気持ちは俺にしかわかるまい。



……まあ、そんなわけで俺は今幸せでいっぱいだ。親には木瀬と会う前から『高校でたら独り暮らしする!』と宣言していたので、説得はそんな難しくなかった(まーあの時の動機は『大学生になったら女と遊びまくるため』だったんだが)それに木瀬が両親に挨拶に行ったのがかなりポイントが高い。親から見てもチャラかった俺が、誰が見ても真面目そうな男を連れてきたのだ。これが決めてとなり、俺はむしろ親に背中を押されて木瀬と同棲できることになったのだ。そんな、つい一ヶ月くらい前の事に思いを馳せていると、がチャリ、と扉が開いて木瀬が顔を覗かせた。



「……奈々見、片付けが終わったら一息つくか」
「ん、そねー。今日はようかん買っといたんだ、渋茶でいくか」
「そうだな。そう思ってもう茶葉は用意したぞ。……ところでお前は、玄関先で何をしてるんだ」



木瀬の問いに、俺はニンマリと笑みを浮かべた。



「ふふーん!見るか、木瀬?」
「ん?」



俺は木瀬の腕に腕を絡ませ、強引に玄関先まで引っ張っていく。そして表札を見せると、木瀬は目を見開いた。



「……ほう」
「いいっしょ!?いいっしょ!?いかにもTHE・同棲!みてぇな感じ、……いや、新婚カップル的な感じがさ!」
「そうだな、……新婚、か」
「そうそう、なんなら新婚ゴッコでもやってみるかー?『おかえりなさいあ・な・た』ってかぁ?」



そう言いながら、俺は木瀬に抱きついた。



「『ご飯にします?それともお風呂?』それとも、」



―――俺?



そう、木瀬の耳元に囁くと。



「……そうだな、」



木瀬はにやり、と笑って俺の腰を引き寄せて、



―――それは、夜に、な。



木瀬も、俺の耳元で囁いてくる。いつもは真面目こじらせた木瀬の、見たこともない色っぽい声と顔に煽られて、俺は思わず顔に血が上る。



―――ああ、今日、木瀬と初夜だよ、俺!……やっべ、今日念入りに風呂で体洗っとかないと!つか、セックス自体ちょー久しぶりじゃん、しかも相手が木瀬なんて、うわ、おかず相手と初、……いやその前に当然俺が女役だよな、……うわケツは俺はじめてだよ、……わー、なんかキンチョーしてきた!



そんな、相変わらず不純な事を思いつつ、俺は木瀬の顔を見上げる。それは相変わらず、頼りがいあるまじめ風紀副の、俺の一番好きな顔があって。



――まー、いいや。



木瀬なら、俺がどんな醜態を演じたって甘えたってゆるしてくれるだろ。――なんせ、俺に惚れてんだし!



そう、根拠のない判断を下して、――俺は木瀬の体にぎゅ、と抱きつき、



「……今日からよろしくな、木瀬」



と言うと、木瀬は返事の代わりに、俺を強く抱きしめ返してきたのだった。



・END・
お題・短編の『わびさび』の二人が同棲しているところ


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