▼ 柳蓮二が喫煙
「すまない。ライターを持っていないか」
「いいの?ここで吸って」
「生憎、今ここにはお前と俺しかいないからな」
「あっそ」
ブレザーの内ポケットから100均で購入した緑色のライターを、自分より何段か上の段に座っている柳に投げ渡した。一拍置いて、ライター独特なあの酸素を燃やそうと頑張る音が聞こえてきた。
「100均のか?」
「うん。…?」
気になって、振り向く。
「もうなくなってた?」
「…いや、明らかに入っているのだが、燃えない」
「所詮は安物だしね。てか、何でわかったの、100均のって」
「音が、違う」
「………はぁ」
んなマニアックな。
文句を垂れつつも、再度挑戦。しばらく、屋上から一番近い階段からライターの音が響いていた後、タバコ独特なにおいが香った。
「今日は誰から貰って来たの?」
「仁王だ。機嫌がいいときに頼むとな、一本だけだがくれる」
「あの人、他の人にあげるの嫌がるもんね。ケチなのかな」
あの派手な銀髪の兄ちゃんの姿を思い浮かべる。高校生なのにタバコの似合う男だ。
「いや、仁王はケチなのではなく、自分がくれてやったタバコの後処理が気になるのだろう」
何じゃそりゃ。
というような意味を込めて、柳の方を見る。吸っているタバコを挟む指が、映えて見えた。
「一応隠れて吸ってる身だからな。下手な奴に渡して、この学校でタバコの吸い殻を発見されるのを恐れてのことだろう。あいつらしい」
「ポイ捨てされそうな奴には渡さないってこと?」
「そうだ」
じゃあ、柳はその条件をクリアしてるんだね。
そう言おうと、柳の顔を正面から見据えたのだが。
丁度、柳はタバコを咥えていた。彼のその薄い唇に咥えられたタバコの一本が、酷く羨ましく思えた。
「……どうした?」
「いや……、ライター、返せよ」
「ああ、すまない」
いや謝りたいのはこっちだ。
ライターを渡され愛想笑いを返した内心には、もう柳の唇への欲望しか残っていなかった。
100210