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▼ へし切り長谷部とキス

 躊躇いがちに頬に触れられたのは指先だけだというのに、とても熱い。そしてかすかに震えていた。
 緊張しているんだな、初めてだしそりゃそうか、と、震えなくても大丈夫だよと安心させたくて上から手を重ねた。以前よりもだいぶ縮まった距離のお蔭で、動揺した時の鼻息が聞こえる。可愛らしい。

「長谷部の手は大きいね」
「貴方の手が、小さいんです」

 優しく、でも力加減に迷っているように、私の手が握り返された。ゴツゴツとした指が心地いい。自分とは似て見につかないのに人間の形をしているのは、不思議なことのように思う。

「……先日、夢にまでみたんです」
「こうするのを?」
「はい」
「むっつり」

 自分へ引き寄せるように腕が引かれて、唇に相手の息がかかった。生暖かい。生きていることを実感できる。
 数mmだけ長谷部が動いた。唇同士というより、私の鼻と唇の間に長谷部の唇が触れた。音もたてず、すぐに離れた。

「…………」
「どうですか長谷部さん、初めて口づけをした感想は」

 あまりにも可愛らしいキスだったので、つい揶揄う様な口ぶりになってしまう。
 それが不服だったのか、それともあまり私の声は聞こえていないのか、言い終わる頃にはまた口づけを落とされた。
 今度は唇が合わさる。数秒固まったかと思えば、少しだけ離れた。

「柔らかいです、主」

 気の抜けた声だ。じぃ、とこちらを捉えて離さない藤色の瞳がぎらりと光ったように感じた。
 長谷部はあまりこういう性欲絡みの知識を得ていないようだった。ただ、知識が無いことは即ち性欲が無いこととは違う。
 未だ握られている手の力は強くなり続けていたし、長谷部の頬は赤味がかっている。
 長谷部の手の熱が離れたと思ったら、おもむろに私の頬は長谷部の両手で包まれてしまった。
 そのまま三度唇は重なる。くっ付いては離れ、私の唇の感触を確かめるように何度も何度も。
 真面目で普段は性欲のせの字もない長谷部が、こんなに私へがっついている姿を感じると、おのずと心臓だって騒ぐ。意外と怖がりな長谷部へ、私は大丈夫だからという気持ちを込めて、首へと腕を絡めた。
 だんだんと要領を得てきたのか、顔の角度が深くなる。そのうちに私の上唇を食むようになった。

「ん……」

 声というよりも息に近い音が鼻から抜ける。長谷部とキスをしているのが気持ちいい。
 ずっと離れなかった長谷部がゆっくり唇を離した。「主……」とやたら艶のある声で囁き「今の声、もっと聴きたいです」と、純粋故の欲望を恥ずかしげもなく告げてきた。
 これには参った。かぁっと自分の顔が火照る。急激に赤くなった私に長谷部も少し驚いた様子だ。

「あ、あるじ、その、お嫌、でしたか」
「うーんと、嫌じゃないよ。大丈夫」

 いちいち聞いてくるの、可愛いなぁ。
 つい口角を上げながら、軽いキスをした。私からキスされるのが嬉しかったようで、長谷部も満更ではない表情をしている。

「声が聴きたいなら、ちょっとえっちなキスしようか」
「は……えっ…………」

 多分そもそも言葉の意味がわからなかったのだろうけど、私もついテンションが上がってしまって思わず唇を舌で舐めてしまったものだから、長谷部にはだいぶ刺激が強かったらしい。本能的にいやらしいことを察した様で目の奥に獣が混じった。

「口吸い、って言うんだっけ」

 唇を無防備に開きながら長谷部の唇と合わせる。しばらく固まっていたが意味は理解していたようで、ぬるりと口腔内に舌が入ってきた。
 少しだけ舌を動かしたかと思えば、すぐに離れていく。私以上に息を荒げながら額に手を当てて唸り始めた。

「こんな……いやらしい行為を……主と……」

 どうやらキャパシティーが限界突破した様子だ。
 あまりにも可愛らしい。すりすりと長谷部の体にくっ付けば、何がそんなに怖いのか体をびくつかせている。

「あぁ、主、駄目です今これ以上は……!」
「ふふ。可愛いですね長谷部さん」

 サディストの自覚はなかったのだが、長谷部のせいで目覚めてしまいそうだ。





191023



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