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▼ 天道輝と夏

 冷蔵庫の扉を開く。あれまぁ冷えたお茶がない。

「ねーー、輝くん麦茶きれてるー」

 寝室に向かって声張ったつもりだったが、距離のせいでちゃんと聞こえなかったらしい。「んー? 何か言ったかぁー?」という返事が聞こえた。残念。
 仕方がないので水でも飲むか、と冷蔵庫の中に目を通す。が、悲しきことに水すらも見あたらない。これは困った。暑いし喉が渇いたから、冷たいものを飲んで体を潤そうと思っていたのに。

「なぁ、なんて言ったんだ?」

 口をへの字に曲げていると、いつの間にか輝くんは寝室から台所へきており、私の背後に立っていた。ちょっと驚いた。

「麦茶、ない」
「あー……。そうだ、帰ってきたら作ろーって思ってたら、すっかり忘れた」
「もー、早々にがっつくから……」
「えぇーお前も久し振りだからってノリノリだっただろ」
「それはそれ、これはこれ。なので腹をいやらしい手つきで触らないでください」

 腹部にまわる腕を軽くつねると、大袈裟なまでに痛がっている。なのに離さない。なんなんだ。

「というか、パンイチやめてくんない? 暑苦しい」
「暑いからパンイチなんだろー、わかってねぇな。お前だって下履いてないじゃん」

 パンツ見えるぞーと、下心隠さない声を出しながら腕は下半身に伸びて来た。

「これは大きめのシャツだから実質ワンピース。だからスカート。つまり履いてないということではない」
「いや、つまり履いてないじゃん」

 やめろ太腿を撫でるな昨日散々いたしただろもう今日は無理。

「ねぇ、水もないの?」
「あれ、なかったっけ。常温のならあるけど」
「やだぁ、冷たいの飲みたい」
「氷入れるか」
「なるほどその手があったか」
「思いつかなかったのかよ。馬鹿だなぁ」
「お前に比べたら人類の9割くらい馬鹿だろ」
「学力の話はしてませーん」
「否定しないのむかつきますー」

 輝くんはいそいそと冷蔵庫横に置いてある段ボールから飲料水のペットボトルを持ち上げたので、私はシンク横に置いてある洗ったまま棚に閉まってないコップを二つ持つ。急ごしらえだから、大きさが違う。

「私こっちの大きいのね」
「はいはい。好きなので飲めよ」

 カラカラと冷蔵庫の製氷機が開けられる。氷が入ってる割に随分軽い音だなーと思っていたら、それはまさしくフラグだった。
 製氷機を覗く輝くんが一言。

「あ、やべ。氷作るのも忘れてた」
「ねぇ。馬鹿」
「馬鹿だわ俺」

 何が悲しくて事後にぬるい水を彼氏と飲まなきゃならんのか。暑いんだよ。

 テレビ見ながら温い水を飲んでると「夏の間だけ、ウチに来て麦茶と氷作ってくんねぇか?」とかアホみたいなことを抜かした。「だったら同棲するわばーか」と何の気無しに言ったら、突然黙り込むので、馬鹿馬鹿言ったことに今更傷ついたの?と輝くんの顔をみると、不意打ち食らったみたいに赤面してた。

「お前、俺と同棲考えてんの、地味に嬉しいんだけど…」

 あーもー、こっちも赤面したけど夏のせい暑さのせい温い水が熱を冷ましてくれないせいお前のせい。



170729
170901 加筆修正
171206 誤字修正



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