▼ 桜庭薫が風邪をひいた
(315プロダクション建物内捏造描写有)
「いやぁ〜今日の現場も体力使うなぁ! よおし、皆で飯食いに行こうぜ!」
「良いですね輝さん! プロデューサーも一緒にどうですか……?」
「そうね、全員で行くなら、私もご一緒しようかな?」
「……僕は遠慮する」
「えー! 薫さんも一緒に行きましょうよー!」
「断る。僕は忙しい。お前たちだけで行け。じゃあな」
「おい! 桜庭!!」
「薫さん!」
今日のスケジュール。午前中は今度のライブに向けてのダンスレッスン。お昼はお弁当。午後からはクイズ番組の収録。
詰め込まれたお仕事が全て終了し、安堵感と共にやってくるのは空腹感だ。
天道さんの提案に私と翼くんが賛成する中、一人帰ってしまうのはいつも通り、桜庭さんだった。
収録を終えた私たちは、場所が近かったということもあって一度事務所に寄っていた。ファンレターなどを受け取りに来たためだ。
最近、メディアの露出が増えて来た彼らには、今までの比にならないくらい、ファンからの気持ちが事務所に届く。今は、それらを受け取りさてこれからどうするか?という話になっていた頃だった。
「薫さん、今日も帰っちゃいましたね」
正直、桜庭さんが帰るのはいつものことなのだが、翼くんはいつも悲しそうにする。日頃から大型犬を思わせる彼だ。今は耳と尻尾が思い切り垂れ下がっているような様子に見える。
「まぁ……、あいつもあれで努力家だから、一人でダンスの個人練でもするんじゃねぇか?」
髪の毛をガシガシと乱暴にかきむしりながら飽きれるのは天道さん。明るく真っ直ぐな彼だが、見てるところは見ている。流石グループ最年長だけある。
「あっ、オレも! 今日のレッスンでできないところがあって……」
「馬鹿、翼お前、足痛めてただろ。今日は休んどけ。俺が代わりに桜庭の様子見てくるから」
「輝さんだけずるいです! オレも付いていって、それで練習しなければいいんですよね! それなら!」
何やかんや、メンバーの一員である桜庭さんのことが気になるらしい。二人の様子は微笑ましい。
「それ何ですけどお二人さん」
「ん? 何だ、プロデューサー」
急に話に入って来たことに少し驚いたらしい天道さんと翼くんは、瞳をこちらを向けてきた。
「私が様子見てきますね。桜庭さん、結局ここに来た目的すっとぼけて行っちゃったんで」
「ああ……」
二人の視線は、私の足元に置かれた紙袋へと注がれる。
事務所に寄った目的、即ちファンレターなどが入った紙袋だ。あの人、自分の目的を優先するあまり全員の目的を忘れた。
正直、らしくない行動だった。こんなミス、普段の桜庭さんならありえない。その一点も気になった私は、届けるついでに桜庭さんの様子を見ておきたい。
「プロデューサーだけで大丈夫か?」
「大丈夫でしょ。二人は明日も早いんだし、さっさと行ってご飯食べて寝なさい」
「早いのはプロデューサーも同じじゃ……」
翼くんからごもっともな指摘が入ったが、都合が悪いので無視だ。
「じゃ、そういうことで!」
「あっ! おい!!」
静止する天道さんの声も無視だ。足元に置かれた紙袋を掴んで走り出す。
桜庭さんは行き先を告げていなかったが、二人ともに、そして私にもバレバレだ。それに、建物の規模が小さい我が事務所の中では、行き先も限られてくる。桜庭さんは立ち去る時玄関へとは向かわなかった。ということは必然と行き先は建物内に絞られる。天道さん言っていたが、どうせ自主練だ。真面目というか目標に猪突猛進というか……。
多分、桜庭さん本人が思っている以上にあの人はわかりやすいのだ。普段はクールにむっつりしているのに、案外可愛い人なのだ、桜庭薫という人間は。
315プロダクションの規模は小さい。お陰様で事務所だって、他のプロダクション様に比べれば決して広くはない。事務員だって学生バイトくんが一人だけだし、私だって肩書きはプロデューサーだけど業務内容はほぼアイドルのマネージャーである。会議室という名の何でも部屋をいくつか所有してはいるものの、正直使う人数が揃っていないというのが現状だ。
さて、その数だけある会議室を利用する手はない、ということで、いくつかはレッスン室へと差し替えられた。壁を全面鏡張り、一面には手すりを設置、所属アイドルたちが気兼ねなく使えるように、いつでも鍵を開けっ放しにして貸し出している。
桜庭さんは、先程事務所から出ていかなかった。そして、おそらく今日のレッスンの復習をしているには違いない。すると、桜庭さんの所在はおのずと掴めてくるのだ。
外開きの扉をノックする。防音ばっちりな室内の音は聞こえないが、人が居るような気配はした。ノックに対する返事はない。正直社交辞令なので、構わず私は扉を開けた。
「桜庭さん!」
「!」
中には勿論桜庭さんの姿が。ジャケットを脱ぎネクライを外し、普段よりは幾分かラフな格好で体を動かしていたらしい。額ににじむ汗がその証拠だ。流れ続けている、聞き覚えのある音楽は午前のレッスンで聴いていたものである。
「プロデューサー、何の用だ」
突然の私の来訪に驚いたのは最初だけなようで、すぐに居住まいを正し私の方を冷ややかに見つめてくる。
いつもと代わりはない。強いていうなら、先程までの影響か若干息が上がってるくらいだ。
「何の用だ、じゃないですよ。これ、忘れてます」
これ見よがしに紙袋をずいっと前に出す。中身は嬉しいことにずっしりだ。突き出した勢いでガサリと鳴る音は重い。
桜庭さんは目を細め少しだけ確認するような表情をした後、気づき顔になる。忘れていたものを思い出したような、そんな表情だ。
「ああ、そうか。わざわざすまないな。失念していた」
「いーえ。どうせ階段上がるだけの距離ですから」
中に入り、壁際に紙袋を置いた。桜庭さんのことだ、どうせ暫くここで自主練に興じてから帰ると言いそうだからだ。
そんな些細な気遣いに、特に何のコメントもしないで顎に手を当てて何かを考え込んでいるようだった。
私は、つい、疑問に思っていたことを口に出してしまう。
「らしくないですね、こんなうっかりミス」
はっきりと告げたら、いつも通りプリプリされるかと思ったが、相変わらず返事はなかった。……何かおかしくないか?
「桜庭さん? どうかしましたか?」
「…………」
「おーい、桜庭さーん」
「ああ、そうだな。何かがおかしい」
ところで、私が桜庭さんとお話して少しの時が現在進行形で経っているわけで。いつもならとっくに平常に戻っていたような、桜庭さんの呼吸だって落ち着かないし、白い肌は少し赤みがかっている。
いやまさか。いやいや。この人今でこそアイドルやって軌道に乗ってますけど、元々お医者様で稼いでいた人ですよ。その人がまさか……
「桜庭さん、ちょっといいですか?」
「何だ?」
彼が言い終わる前に、私は桜庭さんの元へ大股で歩み寄り、そして汗ばんだ髪の毛を払いのけておでこに手を当てた。じんわり伝わってくる熱は、普段通りではない。
急に触れられて驚いたのか、桜庭さんは少し後ずさり、私の手首を握ってきた。そしてすぐに力ずくで降ろされてしまった。
「きゅ、急に何をするんだ君は!?」
動揺を隠すように眼鏡のブリッジを押し上げる様子は、とても可愛らしく見える。案外、この人は初心のようだ。
普段なら微笑ましくてニヤけてしまう場面だが、今はそんなことしてる場合ではない。
「貴方、元医者なのに自分が風邪をひいてることすらわからないんですか?」
「……」
単刀直入に言ってやる。
言われた桜庭さんといえば、若干惚けた様にこちらを眺めた。今更、この人が風邪にかかっていることに確信したお陰で、彼の揺れる瞳が動揺のためなのか、それとも風邪によるものなのか判別ができない。
「そうか、この怠さは発熱によるものか」
「鈍感ですか。じゃあ、何だと思ってたんです?」
「最近仕事が増えてきて必然的に覚えることも増えた。だから睡眠時間を削って準備をしているせいで、体の疲れが取れないだけだと」
「それが原因の風邪でしょうね!」
思考能力がいつもよりも低下しているのは、確実に風邪による発熱で脳みそが平常通り動いていないせいだろう。
「おい、風邪だと自覚したら急に体が重くなって来たぞ。どうしてくれるんだ」
「人のせいにしないでください。あなたの体調管理がずさんなのがいけないんでしょ。ほら、帰りますよ」
タクシー呼びますから自宅まで送ります。そう言って、今まで止まる気配がなかった音楽を止めにラジカセまで歩こうとする。が、それは叶わなかった。
「桜庭さん、いつまで掴んでるんですか」
ついさっき、額に手当てた時に拒否され掴まれた手首は、未だ自由になっていなかった。お陰でここから動けない。
「桜庭さん?」
問いかけているのに、返事はない。私の頭より幾分か上にある桜庭さんの顔を覗きこめば、思いの外顔が赤らんでいる。……病は気から、と言うが、本当に風邪だと自覚した瞬間から症状が悪化したらしい。
が、それは手を離さない理由にはならない。というか、このままではとても不便なのは明確。仕方ないので、空いた手で桜庭さんの手を解こうと力を込めて触れた、その時、頭上から小さく声が聞こえた。
「さむい……」
多分、そう言った。風邪のせいで体が悪寒に支配されているのだろう。それはいい。
いいんだけども、桜庭さんは私の未だに腕を離していないし、それどころか、桜庭さんのもう片方の手は私の腰に添えられ、そして、私の右肩には温もりが降りた。
桜庭さんのサラサラな黒髪が頬をかすめる。女性のような甘い匂いはしないが、爽やかな決して不快ではない男らしい匂いが届く。桜庭さんの匂いなんて、今まで嗅ぐ機会なんてあるわけがないんだ。そのくらいの距離だった。
桜庭さんは、苦しそうに息を吐き出しながら、私の体にすり寄る。抱き枕か何かかと勘違いしているのだろうか。桜庭さんの体が問答無用に密着してくる。薄い身体だと思っていたが、言うて男の人だ。
「ちょっと桜庭さん!? 大丈夫ですか!?」
しかし、今は桜庭さんの男を感じている場合ではない。
甘えるようにくっ付いて離れない桜庭薫26歳の大きな男の子の肩を叩いてみるも、返事はなかった。聞こえてくるのは荒い息だけ。
首筋に当たる息はこしょばゆくて、今には似つかわしくないおピンクな空気を感じられずにはいられないのだが、桜庭さんの様子はそれどころではない。
「桜庭! 夕飯買って来たぞ! ってお前! 何やってんだ!?」
「わぁ〜!? プロデューサーが薫さんに襲われてる!?」
た、助かった。
突然開いたレッスンルームの扉には、天道さんと翼くんがいた。手に持っているのは、何かの入ったビニール袋だ。……どうやら、夕飯をどこかで調達してきたらしい。香る匂いは空腹を誘った。
二人は、現状を見て何か勘違いをしたようだ。すぐに駆け寄り桜庭さんを引きはがした。桜庭さんは、体を離されてもなお、私の腕を掴んで離さなかった。
不思議と、いやな気分にならないのが、問題な気がした。
結局。
もう夜遅く、病院なんて閉まっているし、取りあえず桜庭さんを自宅へ帰すためにタクシーに放り込んだ。しかし、ここで問題発生。桜庭さんは天道さんにどれだけ頬を引っ叩かれようとも、私の腕を掴んで離さなかった。翼くんも見かねて、力づくで引き離そうとしてくれたのだが、「プロデューサーの腕が折れちゃいそうで、オレできませんっ」と半泣きになってしまっていた。可愛い。
仕方がない。私は桜庭さんの家まで同行することにした。
天道さんも翼くんも、何か言いたそうな顔をしていた。そりゃそうだ。仕事のパートナーとはいえ、妙齢の男女だ。夜に自宅へ送るという行為は、簡単にできるものではない。それに、彼らはアイドルだ。いくら私の立場がプロデューサーもとい所属事務所関係者だとしても、変な噂をたてられてはたまったもんじゃない。
しかし、この風邪っぴきで苦しそうに顔を赤くする桜庭さんを、放っておけるだろうか。反語。
二人には、また明日も頑張ってもらわないといけない。既にしたやり取りだったが、私は天道さんと翼くんに家、もとい自分の部屋に帰るように伝え、桜庭さんを自宅まで運んで貰った。
まさか、その初めて尋ねるアイドルの自宅があの他人を寄せ付けたがらない桜庭さんになるとは、思ってもみなかった。
相変わらず私の腕から手を離す気はないらしい。そう踏んで、二人に必要なものだけは途中に買ってもらってきた。
寝室を探し当てて、桜庭さんを寝かしつける。体を楽にしてもらいたくて、シャツのボタンを上から三つ程開けた。……痴女ではない、変な気持ちになったが、これは看病の一環だ。
「桜庭さん、薬だけでも飲んでください」
「……っ……」
呼び掛けた声に、今度は答えてくれた。薄目にこちらを見るが、非常にだるそうだ。
「起きて、飲めますか……?」
「…………」
眉間にしわを寄せながら、首が少し動く。恐らく、首を振りたいのだろう。
そんなに重い風邪なのか。どうしてこんな酷くなるまで放っておいたのか。医者の不養生だ。もうこの人は医者じゃないけど。
いや、そうじゃない。風邪をひいているのに、気付かなかった私に問題があるのかもしれない。最近、彼らのユニットは軌道に乗り始めて、私も、少し焦っていたのかもしれない。彼らを急がせていたのかもしれない。
推定は膨らんで、重りになった。心に鉛玉を食らわされた気持ちになる。
責任を、とらなければ。彼が、桜庭さんが、体を壊すほどに頑張らせてしまった、責任を。
私は、水の入った買ったばかりでまだ冷たいペットボトルを開けた。次に袋から取り出したのは、市販の風邪薬だ。処方してもらったものではないが、飲ませないよりマシなはず。箱の裏に書かれた説明を読み、一回の服用で何錠飲むかを確認し、パッケージを開けた。
フィルムに入った錠剤を、私の掌に出す。転がらないように、手は受け皿に。
久し振りの動作だ。手に放られた錠剤は、私の口の中に閉じ込められた。しかも、大量の水が津波のように押し寄せる。
錠剤は、所詮粉薬を固めたものに過ぎない。しばらく水に入れれば、粒の結束は解けて苦味を味覚に届けてしまう。……病人に、苦味をお見舞いするのは、流石に酷だろう。
こんなこと、初めてする。桜庭さんの顎を親指で押すと、彼の口は開く。一思いに口と口を重ね、その隙間から、私は錠剤と水を流し込んだ。桜庭さんの咥内は、熱かった。
念のため、舌を使って錠剤を奥へと押した。その時、舌先に触れたのは、柔らかく、熱く、肉厚なものだったが、あえて気付かないふりをして、私はその後すぐに口を離した。
「……」
何も言わずに、強行突破で薬を飲ませたが、桜庭さんの様子は薬を飲ます前と変わりはない。風邪で頭がボケているのなら、それでいい。こんな際どいこと、覚えていなくていいのだ。
「…おい、」
しかし、桜庭さんの瞳は私を捉えた。熱っぽく、風邪ひきの目で、しかし、今日一番の潤んだ瞳で。
「水が、足りない」
指先がピクリと動くのだって、不可抗力だ。桜庭さんの握力が、強くなる。
もう、やけくそだった。
私はペットボトルから水をあおり、そして桜庭さんの口に注いだ。
二度目。桜庭さんは水を受け止めるだけだった。一度水を含んだせいか、咥内はぬるくなっていた。
三度目。何故か、桜庭さんの方から舌が伸びてきた。お蔭で水は桜庭さんの口端から零れた。自業自得なので、そのままにした。
四度目。桜庭さんは手で私の後頭部を撫でて、そして離さなかった。桜庭さん自ら顔を傾け、口はしっかりと合わさる。舌の動きのせいで零れた水が、今度はもったいない気がして、私はつい唇で零れた水を追ってしまった。
もう、そこから回数は覚えていない。冷たい水が咥内を行き来し、ぬるくなる頃にまた水を飲ませた。いや、もう水はあまり桜庭さんの喉を通ってなかったし、少しは私の喉を通っていたように思う。もう少しは、シーツに染みていた。
ペットボトルの水が無くなる頃、桜庭さんの風邪の熱に浮かされたのか、それとも別の熱にあてられたのか、普通に風邪薬の副作用で眠気が降臨したのかわからなかったが、とにかくいつの間にか眠りに落ちていた。
ずっと離さなかった腕は、もう解けていた。
な、に、を、していたんだ私は…?
急激な気持ちの落下を味わえる頃には、顔が熱くなっていた。
薬を口移しで飲ませるところまでは、百歩譲って看病と言える。だが、流石に、ペットボトルの水がなくなるまで、というか途中から水を飲ますというより、普通にディープキスをしていなかっただろうか私たち。何してんだ私たち。仕事仲間だろ私たち……!
なんだか異様にここにいてはいけない気がして、私は寝室を飛び出そうとするが、今は気持ちよさそうに眠っている桜庭さんを見れば、布団は被っていないのだ。仕方がないから布団だけ被せ、私は今度こそ部屋を飛び出した。
桜庭さんは風邪のせいで頭はふわっふわなはずなのだ。明日になれば、覚えていない。きっと覚えていない。
だから、明日、どんな顔をして桜庭さんと話をすればいいかなどと、私が頭を悩ます必要は、どこにもないんだ。……そう思わせてください。
翌日。
桜庭さんの体調は回復していた。いつも通り、ユニットの三人が揃った。良かった。……あんなことまでして薬を飲ませた甲斐があったというものだ。
ところで、桜庭さんは私の顔を見るなり開口一番に「昨日は君に部屋まで送ってもらったようだな。感謝する。部屋に着いてからの記憶は一切ないが、君がベッドまで運んでくれたんだろう? ……ありがとう」と、それだけ言って天道さんと翼くんとの輪に戻っていった。
良かった。覚えてないらしい。お蔭で気まずくならない。安心した。
そっと胸を撫で下ろした。が、その瞬間である。
「あれ? 薫さん、耳が真っ赤ですよ? どうかしたんですか?」
翼くんの、無垢な声が、届く。
ちょっと待ってくれ。さっきまで普通にしてただろ。普通に二人と話していただろ。どこに耳を赤くする要素がある? 私と話したからか? 昨日、風邪に呑まれた勢いでキスをしてしまったからか?
桜庭さんをみるも、後頭部しか見せてくれない。黒いサラサラ髪が憎い、これでは赤い耳を確認できない。
待て。桜庭さんが昨夜のお互いの痴態を覚えているのなら、私はどうすればいい? 結局どんな顔をして話せばいいのかわからないじゃないか……!
私は相当な百面相をしていたのだろう。何があったかは勿論知らない、というか知って欲しくない天道さんはのんきな声で「どうしたプロデューサー! めちゃくちゃ変な顔になってるぞ!」と笑ってきた。
もう何でもいいから、今すぐ私の顔を見て飽きれてくれ桜庭さん。
しかし、私がどんなに桜庭さんの後頭部を見つめても、桜庭さんはこちらを見てくれない。
何より、昨夜の出来事がなかったことになんて、ならないのだった。
160410 執筆完了
171106 微修正
190320 修正