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▼ 下からリヴァイ

会社の各部署、下っ端から中間管理職から部長クラス、それ以上の人がたくさん参加する飲み会というか、ホテルの大きな一室を借りての大規模宴会だったので、私はもう無礼講だと言わんばかり、同僚各位は勿論いつもは頭の上がらない上司にだって肩を組む勢いで直行突撃をかましていたのだった。



***




「私ぃ〜、高校の時ぃ〜、柔道部だったんですよぉ〜」
「そうか」
「だからぁ〜、痴漢された時もぉ〜、相手の男に負けなかったしぃ〜」
「てめぇに痴漢なんざ、随分趣味の悪い野郎だな」
「だからぁ〜、普段ん〜、部長には叩かれてばかりですけどぉ〜」
「お前、俺の話耳に入ってねぇだろ」
「あれはわざとっていうかぁ〜、私が本気出せばぁ〜、私よりちっさい部長なんてぇ〜簡単に吹き飛ばせるってぇ〜、思うんですよぉ〜」
「あ?」
「えへへぇ〜、私強いでしょぉ〜」
「………」



***




とまぁ、普段だったら頭の上がらない、すげー優秀な直属の上司にあたるリヴァイ部長にまでそんな態度だった、と同僚のペトラに聞いた。見てたなら何で止めてくれなかったのか、と翌朝声を潜めて電話越しに涙声になっても曰く「だんだん顔に青筋が増えていくリヴァイ部長の表情が面白くて、止められなかったの☆ ごめんね☆」と楽しそうに言われた。この女、まだアルコールが抜け切れてないの? それだけ答えて、電話向こうの誰かと笑い合っている声が遠くから聞こえた。そしてその人たちと会話を初めてしまった。おいこら。せめて電話きれや。

仕方なし、通話を切ってから抜き足差し足忍び足、で今のこの状況から抜け出そうと画策。大丈夫、熟睡中だ。何も音を立てずにこの布の間から抜けられれば万事解決。また平和な日々が私を待っているのだ、


「おい、どこへ行く」


さぁ皆様お待ちかねのテンプレ展開。記憶がブッ飛ぶまで酒に溺れて、目覚めたら普段は目の敵にしていて出来れば近づきたくないおっかない上司とホテルの一室で同じベッドに寝ていて、お互い半裸で、丸まったテッシュなんかが転がっていて、まぁ致したよねっていう判断できる材料が選り取りみどりで、キャーあの人と寝ちゃったのぉー!? みたいな。

実際なってみ? 死ぬから、色々。今もそうだけど、それよりも今後の仕事への支障が大き過ぎ。

だから、今はせめて穏便に、というか逃げてなかったことにしてしまおう作戦を決行しようとしてたのに、このクソ上司起きやがってしまいには私の腕を断固として解かない勢いで掴んできております。


「え、あ、あの、ちょっとお風呂に」
「…そうか」
「あの、腕、離してもらえます?」
「俺も一緒に行こう」
「は!?」
「小柄な男だから、一緒に入ってもさして邪魔じゃないんだろ?」


そ、その口ぶりは恐らく…、昨日の酒漬けになった私が何か言ったんですね…。

記憶がないからわからないし全て想像だし、下手なこと憶測もこれじゃ言えない。何が地雷になるのか、わかったもんじゃない。


「え、えっ、流石にお風呂はちょっと…、朝だから明るいですし…」
「あ? 昨日のお前を見る限りそんな貞操概念があるとは思えねぇ。おら、さっさと立て」
「ひぃっ」


その後、風呂場でめちゃくちゃセックスした。



***




全然話が落ちないので、風呂場でちゅっちゅちゅっちゅやってた時に思い出したことを一つ。ところで、この男凶悪そうな面して性欲なんてどこ吹く風してるくせにめっちゃキスしてくるし舌絡めること強要してくるし前戯めっちゃ長くて意味分かんなくなるから注意。彼女になったやつ大変そう。

経緯はさっぱり思い出せないけど、ホテルの一室を確保してエレベーターに乗り込んだ途端、生理前だからかとてもムラムラしてた私は自分より目線の低い上司の首に腕を巻き、というか肩に腕を置いて首を雁字搦めにしてやってから、ふざけてするようなキスを短くしてやった。

部長は無表情だった。


「自分より大きな女に捕まえられてちゅーされるの、どういう気持ちです?」
「…いい気分ではないな」


チビでも腐っても男。あまり攻められるのは好きではないらしい。上司の性癖が合間見えるこの雰囲気に、普段からしたら潔癖過ぎて想像できない上司の様子に、おかしくてついふふふと笑ってしまう。

そのまま、また部長にキスをしようとニヤけた顔を近づけようとすると、エレベーターの重力移動が止まった。恐らくこのままにゃんにゃんする部屋のある階に着いたに違いない。直後、扉が開くこともお構いなしにキスを続けようとすると、それまでされるがままだった部長が急に動き出した。下から首根っこを掴まれる。息ができないほどではないが、喉に異物を感じる違和感ぐらいはある。そして痛い。


「部長?」
「しつけがなってねぇな、待て」


犬みたいに言う。確かに普段の仕事からして、私は上司にリードで繋がれて制御されているようなもんだが、その言い方はどうなんだろう?

文句のひとつも言ってやろうと口を開こうとすれば、掴まれる首をがっと引かれて部長の首筋に鼻が当たる。勢いよく引かれたものの、衝突したそこの衝撃に痛みはなかった。絶妙な力加減で引き寄せられたらしい。左耳に部長の生暖かい息遣いが近い。ちゅ、とリップノイズが響いた。耳にキスしたらしい。


「上手に部屋まで待てたら、気持ちいいもんくれてやるからいい子にしてろ」


声を潜めているせいで変に色っぽい。この人こんなえっちな声出るの? おまけと言わんばかりに耳の外耳をちょこっとだけ、熱くてやわっこい舌が動く。しっかり感じて子宮を疼かせた私は、大人しく腕で腰を引き寄せられて密着しながらお部屋まで歩いた。

一歩、一歩、それがやたら長く感じた。部長は焦らすようにゆっくりと足を進める。途中、少し我慢が効かなくなって強請るように部長の肩へ頭を乗せてさらに密着したが、特に咎められることもなく、頭をくしゃりと撫でられた。無性にキュンときた。不覚。

エレベーターを出て右手に曲がり三つほど部屋を過ぎたところ、ガチャリとドア開けた途端、部長は靴を脱ぐこともせず私を壁に押し付けた。

また、エレベーターの中でしたように首を下から掴まれる。息が上がった。目線は自分より下にあるというのに、壁へ押さえつけられる力には勝てない。抵抗の意思ではなく、逃げようと体を横へ動かせば、させまいと空いていた腕で壁にドンと手をつかれる。壁ドンの完成だ。これで逃げ場はなくなった。ゾクゾクした。


「どうだ? 自分より小さいやつに見下される気分は」


日本語は限りなく変だったが、気持ちとしては大変あっている。上目遣いだというのに、その視線は高圧的だった。似た感覚を味わったことがある。自分より体格の良い大きな男に押し倒された時だ。


「部長から、キスして欲しいです」


早くなぶって欲しい気分だった。興奮していた。

部長は何も言わず、下から唇が押し付けてきた。ものを噛むように唇が唇に噛まれる。柔らかい。下から来る、というのが新鮮だ。というか初めてのことだった。逃げようと思えば顔を上に離せばいいというのに、掴まれている首はびくともしなくて、ひたすらに唇が噛まれる。最初は唇だけを使われて、それはもう柔らかくて気持ちの良いものだったが、いつの頃からか歯がたてられた。硬いそれが当たるとなんとも言えず、傷つけられることはなかったが、もう少し痛みも欲しかった。普段の暴力的な素行はなりを潜めて、非常に優しい唇遣いだった。

そろそろ、とこちらから舌をさし出した。その直後、唐突に唇は離れた。何で? と同時に目を開ければ部長の顔はぼやけるほど近くて、鼻の横の皮膚しかみえなかった。


「いい子にしろって言っただろ。お前は黙ってろ」


壁に当てられていた指が、ぐいっと口に突っ込まれる。思いのほか無遠慮に奥まで突っ込まれたお陰で舌根がやられ、下品にえづいてしまう。それを見逃さない、と獲物の一瞬の隙を見逃さない肉食動物のように目を輝かして、だらしなく口の外へ投げ出される舌をパクリと食われる。そして思い切り吸われた。


「〜〜〜〜っ」


声にならない声が出るとはこのこと。重力と同じ方向へとんでもない勢いで刺激されて、たまらなく、俗的に言えばとても気持ちよかった。ちゅぅーーーと言う音が嫌に生々しい。これでもまだ足りない、という長い時間に部長の肺活量を疑う。そうして刺激が強すぎて舌の感覚が麻痺してきた頃、離され緩急を付けて優しく舐められるのだ。その柔らかさにたまらなくなって、足は体を支えられなくなって力が抜けてくたりとその場に座り込んでしまう。


「下からってのも、悪くないだろ」


上から言われたそれは、空想の中の負けず嫌いの少年の台詞を思い出させた。



***




この後、多分流れで体を繋げるけど、ここが一番気持ちよかったです。





140806



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