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▼ 仁王雅治がびしょ濡れ

雨が、降り出した。
空気が乾いている冬の今には、かなり珍しい。クラスの男子なんかは、雪降るんじゃね? などと大騒ぎしていたが、それって雲の上じゃ氷点下ってことでしょ。嫌だよ寒い。
けど、今のところ男子の願いは叶っていない。ただひたすらに雫が降り注ぐだけだった。



今日の時間割、6時限目は体育。好きでもなければ嫌いでもない教科の方がめんどくさい。体育はその中の一つだ。
しかし、今は雨。体育館を使うという連絡が行き届いてなく、グラウンドに出た一部に混じっていた私。昇降口でスニーカーの紐を結び途中でその情報が入ってきた。半端なところ聞かされても……。
もう5分もしない内にチャイムが鳴る。他の子たちはキャーキャー騒ぎながら体育館に向かっていったようだ。対して私は、どうも動く気になれない。緩く結びかかっている靴紐のようだ。



そして、暫く放心していたらしい。チャイムが鳴ったことすら記憶にない。ひたすらに、昇降口の外、肉眼に見えるかわからないくらいの雨粒を眺めていた。
グラウンドへと繋がっている扉は開きっぱなしだ。お陰で、ジャージを着ているとはいえ指先が冷たい。けど、正直それもどうでもよかった。



ふと、グラウンドに人影が映る。フラフラ、フラフラとグラウンドを横断していた。雨が降っているのに、傘は差していないようだ。男か女かも、わからない。とりあえず、髪の毛が黒くないことだけが、遠目で見てもわかった。それだけしか、わからなかった。
その人が姿を見せた方向にはテニスコート。多分、その人はテニスコートからやってきている。授業中にフラフラしているんだから、随分いかつい奴なんじゃないかとか、ヤバイ奴なんじゃないかとか、この時の溶け切った私の思考では考えられず、反射的にその人が行く元へ、私も向かっていた。





そこは、中庭だった。
その人は相変わらず雨に濡らされながら、中庭を目指していた。追い掛けている途中でわかったこと。その人は、男の人だった。髪の色も、黒ではない銀色。しかも長め。
その風貌から推測するに、彼はとてつもなく不良に見える。が、一度かなり近づいたときに見えた顔が、表情が、すごく儚げで、とても消えてなくなってしまいそうで、尚更放っておけなけなった。私は、そうやって今、ベンチにもたれかかっているこの人の目の前で立ちすくんでいる。


「あの、もしもしお兄さん?」
「………………」
「…傘も差さずに雨にあたってたら風邪ひきますよ」
「…………それはお前さんも同じじゃろうて」

あ、喋った。訛ってるけど。
相変わらず顔を上げない銀髪の彼は、言葉からも全く表情が読めない。その後暫くお互いに口を開かずにいたが、先に私の方が痺れを切らして、気になって仕方がない彼の表情を拝みにその場へとしゃがんだ。身長差のお陰で、こうやってしゃがめば彼の顔を覗き込める。
ちょっとだけ、恐る恐る。見れば、どういうわけか機嫌の悪そうな彼の瞳とかちわった。常人よりも色素の薄いその瞳の色に、何故か目が離せない。けど、私は気付いた。顔と顔との距離が近過ぎる。そう意識した途端、顔に滴る雨が熱くなった気がした。
さっきまで近かったのは分かってる。分かっているが、なんというか、それを無意識にやっていたこと自体が恥ずかしい。
咄嗟に体を離そうと後ろに手をつくが、どういうわけか肩を強く捕まれてしまった。え、何、何なんですか。テンパっている内に、彼の無駄に整った顔は、さっきまでの儚げはどこ吹く風状態。口角だけを上げる意地の悪い笑い方をしていた。口元にある黒子が、雰囲気を艶やかにしていり気がする。というか、雨で張りついた長めの髪が、とても色っぽい。
私も私でどうにも動けなかった。








何これ  110208



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