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▼ 高校生ローがちょっかい出してくる

やはり窓際の一番後ろの席は居心地がいい。授業中でも教師の目を盗んで色んなことができるし、窓の外の大空を眺めちゃったり、グラウンドを駆け回る人達を観察するのもなかなか面白い。夏は窓を開ければすぐに風が、冬は真後ろにストーブがあるから、年中無休で快適な環境にいられる。
私は今、そんな夢のような席にて授業を受けていた。基本的なことは幸せ。しかし、それを全て無効化しても足らないほど、迷惑な存在が右隣に。――あの悪名高き、トラファルガーである。



数学の時間。テスト前のため、プリントの問題を解くように指示されていた。先生はと言えば、教卓上でなにやらの採点をしている。そうなると、教室の生徒たちはしきりに口を開き始める。どこそこがわからない。昨日のテレビがどうのこうの。隣のクラスの誰それくんは誰それちゃんと付き合っている。先生も先生で注意をしないものだから、教室はかなり騒がしかった。…会話をしててもプリントさえできていればいい、そんな考えなのだろう。
さて、私の数学の成績と言えば、可もなく不可もなく。テスト勉強用のプリントというが、難易度的にはさほどのものでもない。授業前半に終わらせ、さっさと寝てしまおうと先程からグラフと格闘していた。のだが、

「おい雫、暇だ。相手しろ」

右隣のちょっかい魔王の登場だ。随分と俺様なことを口にしながら私の机を揺らす。

「あああ、今揺らされたせいで数字が歪んじゃったじゃんっ、止めてよ」
「んなことぐらいで喚くな。それよりも俺の相手をしろ」

低い声してるくせに、何故かこの騒がしい教室の中でも聞こえてくる。しかし、私は無視して歪んでミミズになった数字を消しゴムで消す。数秒ほど、トラファルガーは押し黙ったようだが、すぐに机を掴んでいた右手を私の右腕にもってきた。ぐい、と引っ張られたお陰で今度は消しゴムが机上から落下する。

「あああ、急に引っ張んないでよ消しゴム落ちちゃったじゃんっ、離して」
「俺の暇つぶしになったら離してやる」

大真面目な無表情でとんでもないことを抜かす野郎だ。これを毎日されてみましょう。三日目で学校に行きたくなくなります。

「大体さ、あんたプリントは?」
「あ?」
「だから、プリントは終わったのかって、」
「ああ、こんなちょろい問題しか書いてねぇんじゃすぐ終わる。お前がある程度終わってるのに俺が終わってねぇわけないだろ」
「……偉そうに…」

実際のところ、トラファルガーは授業中の態度こそ悪過ぎて先生方に嫌われているが、成績の方は良い。いや、すごく良い。席が隣になって初めて知ったが、学年順位は一桁だった。これで、ある程度顔が整っているのだから、恋に恋する女にもてないわけがない。本人も歪んだ性格のため、特に女関係の話は悪いものばかりが噂されていた。それなのにやはりもてるのは、嫌味か何かなのだろうか。
相変わらず離さない右手を振り払おうと、右腕を動かしてもるが、仮にも相手は男のようだ。尚更強い力を入れられ、事態は悪化した。

「ちょ、ちょ、痛い痛い痛い」
「あ? ったく、軟な体だな」
「…、男と一緒にしないでよ」
「お前の日頃の言動を見てる限りじゃ、少なくとも女には見えねぇな」
「な、んだって!」
「ほらみろ、すぐに拳を振り上げる。……そうだな、」

そう言うと、トラファルガーは笑みを濃くした。…話が見えない。今度は何を考えたのだろう。相手にスキを見せないように気を張っていると、急に掴まれていた右腕が解放された。よし、これで落ちた消しゴムを拾える、と椅子を後ろに引いた時である。自分の椅子ではない、トラファルガーの椅子が床と擦れる音をたてたと思ったら、私との距離を詰められた。すぐ右にトラファルガーがいる。それに驚いて目線が下降していた顔を上げると、そこには悪い顔。嫌な予感に冷や汗が出そうになりながら固まっていたら、左肩を捕まえれ、トラファルガーの方に無理やり向きなおされた。
次の瞬間、吐息が、唇をかすめる。

「雫の、女の顔が見たくなった」

すぐに唇に熱。…この先のことは、もう思い出したくもない。









110406



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