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▼ コムイ室長は優しい

疲れた、と言うことすら面倒らしく、無言無表情で自室のベッドへダイビング。暫く味わえなかったその柔らかさに頬を寄せる。さすがに干したての太陽の香りなんて微塵もしないが、自らの落ち着く匂いであることは変わらない。
シャワーを浴びなければこの埃っぽい体をベッドに押し付けることになるのは重々承知だ。そんなことより、今は睡眠。睡眠さえくれれば、また明日から頑張るからさ。そう言わんばかりに体の力を抜いていく。虚ろだった意識が、遂に暗闇へと投げられる、そんな瞬間。

「……雫ー?」

能天気な、声。
さっきまで報告書が何だかんだと話していた相手――もとい上司の声。年齢的にも上を行く彼の普段のテンションに合わない落ち着いた声は、今の雫には睡眠薬のような物だった。
が、上司である彼がわざわざ一部下の部屋まで来るということは、何かある。夢心地だった自分に鞭をうち、雫はゆっくりと起き上がった。

「あいあーい、な、んでふはぁー」

後半なんかほとんど欠伸だ。軽く固まった間接を伸ばしながら扉へ向かう。ガチャリと扉を開けば、目の前には長身ね上司が立っている。

「どうしましたー?」
「うん。明日の任務何だけど、アレン君に行かせようと思うから、君は明日非番ね」
「……それをわざわざ?」
「久しぶりに落ち着いて寝られるんだったら、次の日どんなに寝坊しても大丈夫なことを知ってた方がゆっくりできるでしょ?」
「……、ありがとうございます」
「いえいえ」

上司の優しさに顔を綻ばせていると、頭上には大きな掌の温もり。わしゃわしゃとかき回されれば、彼は満足だとでも言いたげにニッコリ笑った。

「じゃ、お疲れ様」

手を振って去っていく広い背中を見つめながら想う。
彼は尊敬できる上司だけど、たまにこうやって男の人として意識してしまう。全く、これを無自覚にやるんだから、困るんだよね……。
雫は溜め息をついて、扉を閉めた。









110220



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