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▼ 達海猛の悪戯

さすがに深夜にもなれば暗い。当たり前だ。節電節水を心掛けているこの場にとっちゃ、深夜にほとんど人のいない中電気をつけるなんて違反この上ないんだ。
かつかつと大して高くもないヒールを鳴らしながら静かで暗い廊下を歩く。無駄に木霊するのが、尚更におっかない。けれど、私だって大の大人だ。何のこれしきで恐がって腰を抜かしていたら、

「わあぁっ」
「いぎゃぁぁぁぁぁ」

突如と耳元で男のうめき声。これで叫ぶなという方が難しいだろう。
案の定腰を抜かしてその場にへたりこんでしまう。心臓の動機が激しい。最初は自分の心臓の音しか聞こえなかったのだが、落ち着いてくると後ろから堪えるように笑う声がすることに気付く。
ああ、またお前か。

「30も過ぎて暗いの怖いとか、雫ちゃんも子供だなぁ、ぷ、くく」

腹を抑え身を丸めて笑う達海の姿。恥ずかしさと悔しさが混ざって、私は思わず達海の脛を蹴飛ばした。

「う、っ、……いってぇ…、」
「…ふん、自業自得でしょ」

ざまぁ見やがれと言わんばかりに鼻で笑ってやった。さっきとは違う意味で身を丸める達海に優越感。大丈夫。古傷のある足じゃない方だから。べ、別に狙って蹴った訳じゃないんだかね、たまたまよ、たまたま……。

「もう…、いきなり何すんのさぁ、雫ちゃんのお馬鹿」
「口をとんがらせたって可愛くないんだよ! いい加減自覚しなさいよ、もう30越えたし、悠長なこと言ってたら結婚だって出来なくなるし………」
「……………」
「……何よ、急に黙って」
「いーや、久しぶりに雫ちゃんに心配されたなぁと思って、」
「っ、別に心配したわけじゃ、」
「ほら、真っ赤になっちゃって、可愛いなぁもう」
「達海このやろぉぉぉ!」

さっきまではちゃんと痛そうにしてたのに、今となってはいつもの余裕そうな意地の悪い笑みへと変貌を遂げている。ちくしょ、かっこよく見えるとか、ただの惚気じゃん。

「早く寝なさいよっ、明日も早いんでしょ!」
「えー、まだ一緒にいたいー」
「っ、…あんたはもう………、」

廊下で毎晩いちゃつく。そんな毎日。









110220



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