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▼ 真田弦一郎が暑苦しいので

夏、夏、夏! 暑い、熱い、厚い! …いや、最後のは違うか。
とにかく! 夏です。汗の滴る季節です。

強豪と名高い我が立海男子テニス部は、日々迫る全国大会に向けて、このクソ暑い中猛練習中! マネージャーであるか弱い私も、そのせいで自然サウナの中に放り込まれたというわけです、まる。

「そこ! きびきび動かんかぁ!」

…ついでに暑苦しい人が一人。この人のせいでこの辺りの気温5℃ぐらい上がってんじゃないの、ってくらい暑い暑苦しい。暑いお陰で皆へばってて、確かに動きがのろっちいのは素人である私でも見ててわかるが、もう少しくらい手加減を覚えた方がいいと思うんだ、あの熱々副部長(現に、さっき仁王がこっそり逃げ出していたのを私は見逃さなかった)(別にチクるわけじゃないけどね)。
因みに、私は今ベンチに座りながら何もしていない。さっきまで皆に飲ませるドリンクを作っていたのだけれど、飽きたので近くにいな後輩マネージャーに任せてきた。…そこは学年だけでも先輩な権限である。ていうか、もうそろそろ3年も引退なのだから後輩に教えることを全部教えないといけない。学年にマネージャーが一人っていうのも大変なんだぞ!

「またサボっているのか」

すると突如と、視界に入らない所から、夏には似合わない涼しげな声が聞こえてきた。夏の暑き日でも大抵長袖ジャージを来ている彼も、さすがに今日の暑さは暑いのか、半袖だった。

「サボりじゃないよ、後輩への教育過程だよ」
「お前の言い分はそればかりだな」
「じゃあ確率にすると?」
「99,7%、というところだな」

それじゃあ100%っていった方がよくない? と言えば、確率に100%はないんだ、とピシャリ言い返された。そんなもんなんですかねぇ。数学の記憶はプラスマイナスのかけわり算で止まっているのでわかりません。

「それにしてもさ、真田って暑苦しいよね」
「そう言うな。近々精市も帰ってくるから張り切っているのだろう」
「……私には暑さのイライラを周りにあたり散らしているようにしか見えないんだけど」
「…まぁ、それも一理ある」

二人で目の前のテニスコートで相手(丸井)を自分の打った球の方向に走らせる真田を目で追う。飛び散る汗が色々と通り越して何か綺麗だ。けどそれより、筋肉フェチの私としては、真田の筋肉は凄く魅力的なんだ。だってほら、見て、あの腕! いい意味で中学生に見えない! ほら! 今の見た!? (丸井がついに打球に追い付けなくて転けたことにか?)(違うっ、バカ柳!)(…………) 上腕二等筋の筋がピクッ、って、ピクッ、ってなったの! ねぇ、わかんないかな、何かこうキュンってくんの!

「丸井、もう限界か?」
「はぁ、流石にキツいぜ、」
「仕方がない、休んでいろ。次! ジャッカル!」
「うわ、俺かよ」

ついに丸井が集中特訓を解雇された(解雇の使い方が違うぞ)(いいの!) テニスコートからフラフラと立ち上がって、あ、丸井のことが好きらしい後輩のマネージャーがドリンク渡した! いいぞ、そんな感じで早く付き合っちゃえ!


とまぁこんな感じで後輩に教育していた私と、データ収集の名目でサボっていた柳とで、しばらく真田の暑苦しさを見ていた。けど、けっこうな時間が経った頃かな。柳がいい加減にストップをかけに行った。これ以上やると足に負荷がかかり過ぎてよろしくないらしい。

「では、10分間の休憩に入る! 各自水分補給を怠るな!」

強豪校のテニスコートだからめちゃくちゃ広いのに、真田の声は良く通るからしっかり皆に聞こえる。私はいい加減仕事しようとベンチから立ち上がり、シャツで額を拭っている真田(腹筋チラっ、腹筋チラっ)を見て、そうだ、と足早になる。そしてとるべきものをとってきて、真田に渡した。

「はい真田、ドリンク」
「む、すまない」

ああ、物を受け取る時の手の付け根の筋が男らしい!

「真田って、綺麗だよね」

筋肉が。
言うつもりはなかったのに、つい、ポロリと言ってしまった。けど、大事な修飾語が抜けてしまったために、それをばっちり聞かれた真田には下手物を見るような目で見られていた。

「………お前は所謂、痴女というやつなのか」
「……………えっと、使い方も意味も間違ってるし、私は痴女じゃないかな、うん」

何、この子って天然なの?

「俺の容姿は様々な物言いがされているようだが、そのような肯定的言語で例えられたことは、」
「お兄さん、動揺して日本語が変になってますわよ」
「……お前もな」

おっと、正常なようだ。私は胸を撫で下ろし(この言葉、ちょっと頭良さそうじゃない?)(お前が言うと、途端に文学性がなくなるな)(…柳のぶぁーか)、さっきの言葉の弁解にかかった。

「いや、だからさ、綺麗なのは真田の筋肉なわけさ」
「……言葉が足らん! たるんど、」
「けど、どちらにせよ褒められてるんだよ?」
「…………うむ、そうか」

え、何この子、物凄く単純で扱い安いんだけど! ………あ、そうだ。じゃあ、ちょっと、あれ、やってもらおっかなぁ……。筋肉フェチである私が、最も好きな、その筋肉の形を思い浮かべ、ニフフと笑っていると、真田の表情は再び眉をひそめるものに変わっていく。

「やはりお前、少しだけ病院にいった方が………」
「あー! だからごめんって!」

収集つかなくなるからやめて! もう書き手のテンションが限界だから、もうそろそろオチに持ってかせてあげて!

「真田、あのさ」
「…何だ、」

声色的にまだかなり訝しげだけど、私は言うからな! 行くぞ………!

「腕組んでっ!」
「………何と?」
「だーかーらっ、腕組んで!」

もう眉の皺はなくなって、むしろ呆気に取られた表情。それでも、私の頼みこんでいる様子を見てから、何か考えて、こうか…、と恐る恐る腕を組んだ真田に、私は本気で恋をしそうになりました!
後日、部活に戻ってきた幸村にこのことを話したら、笑顔で変態、と言い切られました。軽くへこんだよ!









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