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▼ 切原赤也が先輩たちを見てる

「あれ、赤也また真田先輩に殴られたの?」
「は、なんで?」
「いや、何か沈んだ顔してるからさ」
「…別に、そんなんじゃねぇけど…」
「ふーん。まぁいいんだけどさ」

昼休み。不機嫌、というか日常が面白くない、みたいな顔して頬杖ついて窓の向こうの向こうを見ている赤也を見つけた。こいつとは腐れ縁。中学校三年間クラスが同じで、高一は委員会が同じ。そして高二の今はこうやってクラスが同じだ。
なんとなく、ただなんとなく、そんな顔をしている赤也が気にくわなくて、弁当も食べようとしないで赤也に話しかけた。

「…………今日の朝練終わって、校舎に入るときにさ」
「…うん?」

まさか返答、しかも長くなりそうなのが返ってくるとは思わず、言葉にはてなが紛れてしまった。それでも聞いてやろうとする私はとても心が広いと思う。

「俺と先輩たちじゃ学年ちげぇし、当たり前だけど下駄箱の場所が離れるだろ? くつ履き代えて、いつもよりガヤガヤしてる先輩たちが気になったから、どうしたんすかーって聞いたわけ」

いつも煩くて明るくてクラスの中心にいるコイツが、静かで教室の片隅にいると、なんか、調子が狂う。普段、赤也が機嫌悪くなることといえば、テストとか成績とか勉強の話題か、真田先輩の話題か、のどちらかしかないと思う(私調べ)。期末テストまでまだ1ヶ月以上あるし、英語の小テストがあったりしたわけではない。消去法で残っている後者かと聞けば、違うと言われた。挙句、唐突にポツリポツリと何か話し始めたので、シカトするわけにもいかず、床に膝立ちして赤也を眺めながら耳を傾ける。
さっきまで頬杖を付いていた腕はもう片方のそれと腕を組んでいて、その成りはどこか真田先輩を思い出す(嫌よ嫌よも好きの内、かな)。

「そしたら?」
「………ジャッカル先輩の下駄箱に手紙が入ってたって」
「え、それってラブレター?」
「ん」
「………そう」

あのハゲ、………桑原先輩にラブレター。いや、確かにあの人はいい人だと思うけどさ。

「だから、みんなにからかわれてた」

送ってきた人どんな人だろう…。思いながら宙を彷徨ってた視線を赤也に戻せば、また機嫌の悪い表情。……けど、それって意味わかんなくない?

「…なんで、それで赤也の機嫌が悪くなるの?」
「……は?」

いや、一気にぽかんとした顔になられても、むしろこっちが困るっていうか…。

「…俺、機嫌悪そうに見えた?」「え、うん、私には」

大きい目をいつも以上に大きくさせて、私を凝視している。よくよく赤也の顔を見たら、今初めてけっこう可愛げのある顔つきしてるなぁなんて思った。
けど、すぐに顔を反らして、拗ねたような表情をする赤也にその面影はない。

「…だって」
「……だって?」

赤也は、俯いていた。そして再び顔を上げて、

「羨ましくね?」

と一言。そんなに目を輝かせて真剣に言われても、困るんだけども…。

「…はい?」
「だってラブレターだぜ? 欲しくね? 男として1回はもらってみたくね?」
「…………」

私たちの表情は、実に対称的。なんだか、普段通りに過ごしている周りが羨ましくなってきた…。
それからしばらく、赤也の中のラブレター理想論を永遠と語られた。

いやだからさ、コートの外でキャーキャー言われるより、やっぱりソイツの言葉で伝えて欲しいわけよ。なんつーかさ、普段はそうやってミーハーだけど、ラブレターじゃ、こう……謙虚っぽい、みたいなさ!あ、けど手紙の端っことかにいっぱいハート書いてたりするのとかも、うわっかわいい、って思っちゃうなあ。ハートって女の子しか使わねーじゃん、だから、そこに、こうキュンとしちゃうんだよ!

語りだした赤也は止まらない。もう昼休み半分過ぎましたけど、ってところでブレーキをかけさせようと試みた。

「……ねぇ赤也、私まだお昼食べてないんだけど」
「俺も食ってねぇから大丈夫だって。でさ、」

軽くスルー。いや、大丈夫って何がさ……。
それからも赤也はしばらく語っていたが、正直私は聞いていなかった。
第一、好きでもないただの男友達の趣向を聞きたくないのに聞かされても、つまらないだけだ。仮に私に好きな人がいたとしたら、少しでも男心を知るためだとかなんだとかで気さくな赤也に質問したりするかもしれないけど、残念ながらそういう人もいなけりゃそんな予定もない。
その後、数度止めようと努力はしたが、結果はやはり惨敗。ただ、内容を唯一覚えていると言えば、
(全然そんな気のなかった女友達が、急にラブレター書いたら思わずキちゃうよなぁ)
思わず、ドキッとした。え、だって、そんな気がないって、現状の私じゃん。勿論赤也もそういう意味で私見てないことを知っている。だから余計に、なのかな。実は気があるんじゃないか、って思ってしまった。チクショー、やっぱり私の思考は女子高生!



時は経って夕方。赤也と違って部活に所属していない私は、授業が終われば家に直行だ。
兄弟姉妹はいない。両親も共働きだ。その他親戚も近所にいない。とすれば、私は静かな家でひとりぼっちである。
自分の部屋で、私は結局食べられなかった昼食用の弁当をつつきながら、いつも使わない勉強机の前に座っていた。右手には勿論箸、とそれに摘まれた卵焼き。机には真っ白な長方形の紙と、使い古したシャーペン。
我ながら、単純だと思う。一思いに卵焼きを口に突っ込み、箸を乱暴に置いて、シャーペンを握った。



「お、何だよ、赤也もジャッカルに続くのかよ」
「…………」

翌日、赤也の下駄箱に何やら名前無記名の手紙が入っていたらしく、朝から自慢された。
お前いつもより眠そうな顔してね? とか、手めっちゃ汚れてるけど何かあったか? とか、色々言われてけど、適当に誤魔化した。思ったよりも時間がかかって睡眠時間が削られて、結構機嫌もよくなかった、
けど、
赤也が笑顔でガッツポーズしてるの見たら、頑張った甲斐があったかなって。









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