▼ 仁王雅治と××
バサリ、とスーツのジャケットが落ちる。否、落とされた。肩に彼の温度を感じ、そのままベッドに背中を打った。痛くはない。
『なぁ、一肌恋しいんよ。今晩一緒にどう?』
―――それは悪魔の囁きか、それとも。真夏の熱に浮かされた私に、考える余地はなかった。
気付いたときにはもうホテル街。銀髪の彼に腕を掴まれ、強引に入った先は変哲のないビジネスホテルだった。
「…っん、」
「お姉さん、慣れとらんな。いくつ?」
唇を合せながらの会話。年甲斐もなく、ドキドキした。
「、ふ、…女性に年齢を聞くのは失礼じゃない?」
「…それもそうだな」
「…はっ、ぅぅ……」
いつの間にか、先ほど会話をしていた最中になのだろうか。彼は私のYシャツのボタンを下から順に外しており、そこからゆっくりと肌を伝いながら掌を這わせていた。
「色っぽい声…」
彼に耳を甘噛みされながら息を吹き込まれる。正直、彼の方がよっぽどに色っぽい声だ。
「俺、お姉さんの喘いだ声、けっこう好いとうよ」
「……男で女の喘ぎ声が嫌いな人っているのかしら」
「………、今の、ちょっとムカついた」
「あっ」
下着の横から指を入れられ、右胸の頂きを摘まれた。久し振りのその感覚に、思わず大きな声で喘いでしまう。
「クク、お姉さん、久しくやってなかったみたいやの」
「…は、う、」
「ちょっと弄っただけで、こんなビンビンじゃ…」
「ああ、やっ…」
今度はその周りを、指でくすぐられる。いい加減、息も上がってきていた。
「彼氏さん、相手してくれんのか?」
「……は、別れたわよ。さっき」
「ほう…、じゃあお姉さん、今フリーなんか…」
そう呟いた途端、彼は黙りこんでしまった。
この隙に、私はYシャツを脱ぐ。彼自身に与えられた熱と季節的な暑さ、どちらもが合わさり、私に服を脱ぐ恥じらいというものすら脱がせていた。
「……、慣れてない割には、大胆なことするようじゃが、」
「暑いんだもの、仕方ないじゃない」
さすがに服を脱ぐモーションにもなるとかなり大規模になってくるらしい。突然に愛撫を止めてしまった彼の視界にも、それはちゃんと映ったということだ。
「貴方のも、脱がせてあげましょうか?」
笑みを浮かべながら、彼の、どう見ても学生のものとしか思えないシャツのボタンに手を掛ける。
「やめんしゃい。女に脱がされるのは趣味じゃなか」
言いながら、手を掴んで解かされた。少し、不服。
「…まぁまぁ、そう睨みなさんな」
「……まさか、貴方だけ脱がないつもりじゃ…、」
「アホ言え、暑いのはお前だけじゃないっての」
言い終わって、彼はゆっくりと自らのシャツのボタンに手を掛けた。ひとつずつ。ひとつずつ。布が擦れる音だけが脳内を侵食していく。下から徐々に見えてくる白に近い肌色が、雌を誘っているようにしか見えなくなってきた。無意識に、吐息が漏れたらしい。全てのボタンを外し終え、襟元を両手で掴んでシャツを剥ぐように脱いだ後、私の表情を見てエロスな口元を歪ませて喉を鳴らしながら笑い声を洩らした。
「脱ぐところ、そんなに見つめられるとさすがに恥ずかしいのう」
「…あ、ごめんなさ、」
「クク。…本格的に欲情してきたみたいやね」
それほどの表情をしていたと考えると恥ずかしくて死ぬそうになったが、その前に彼は私の後頭部を抑えながら、自らとベッドに押し付けた。人肌と人肌が触れ合い、心臓の鼓動が高鳴る。渇いた唇を舐めながら彼の身体をみると、思っていたよりも筋肉がついていて、尚更ドキドキした。
「あーもう、」
唐突に、彼の声が聞こえる。
「お前さん、声だけじゃなくて表情も相当エロスじゃな」
「……。いや、貴方のほうがえ、」
「よう言われる」
言葉を被され、どうしたのかと彼の瞳を見る。ようとしたのだが、その前に掌で目を覆われてしまった。
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