▼ 幸村精市と唇
追いで、って笑顔で言われたら断れないじゃん。
ベッドが二つあるこの部屋。向いのベッドに腰かけている幸村は、進行形で腕を広げながら待っている。
「ん…」
少し恥じらいながら彼の腕の中へいけば、
「つーかまーえたっ」
「うわっ」
急に腕を閉じられて、ベッドへなだれ込まれた。
「ちょ、何すんの!」
「んー。しばらく触れ合ってなかったからさ」
…………。彼の口からこんな言葉が出たら、そういう如何わしいことだって思っても仕方がないよね。
顔が急激に熱くなるのがわかった。
「は、ちょっと待って。まだお風呂入ってないって、」
「…っぷ、別にそんなエロいことしようってわけじゃないんだけどな。したい?」
「え、え、はっ?」
面白そうに笑う幸村の声を耳に感じながら、いつの間にか首に腕をまわされ背中に彼の体温を感じる体勢になっていて。美人な顔に反して男らしい太い間接の幸村の指が、自分の頬あたりまで伸びてきたことにも、気づいた。
「…ねぇ、あげたリップクリームちゃんと使ってる?」
「ん、」
幸村の指が、遂に自分の唇までやってきた。左から右へ、ゆっくりと、撫でられる。
「使ってないよね。使ってたらこんなカサカサになんないって」
図星を突かれているために反論も出来ず、幸村の指があるために言葉を発するのも躊躇って。体を強張らせることしかできなかった。
…恐らく、幸村は確信犯だ。
「……あんまよくないけど、一緒に湿らそうか」
勿論、言葉を発せないのだから否定ができない。
強く肩を掴まれ反転されたと思ったら、唇に指でない幸村の一部が触れていた。
100210