節電仕様の頼りない風が、ゆるゆると
柔らかい髪を揺らしている。
夏の終わりの昼下がり、狭いソファに二人。少しでも涼しい気分に浸ろうとレンタルしたDVDはホラーというよりもはやギャグだ。画面の中では制服姿の女の子が必死の形相でバケモノから逃げているというのに、隣の彼は緊張感もなくこくりこくりと船を漕いでいる。その様子に思わず揺れる明るい髪を引っ掴みたくなった。

「いたっ」

「あ、ごめん」

掴んだ手を離すと同時に、ジュンが大きく欠伸をした。弱冷房のじっとりした空気が肌にまとわりつく。つられて私も欠伸が出た。

「ったく、なんだってんだよ」

「いや・・・髪に埃ついてた」

「まじ?取れた?」

「わかんない」

「ちゃんと見ろよー!」

随分と真剣に訴えてくるので適当に前髪を整えてやる。はいはい取れたんじゃない。そう言ってバケモノと女の子の行方を確かめようとすると、何やら右隣から熱い視線を感じた。男の子にしてはぐりぐりと真ん丸な瞳の中に、ずるずると暑苦しい髪型をした私が映っている。

「・・・なに?」

「なんか近いな」

「そうかな」

「うん、毛穴まで見える」

「いいよ見なくて」

スカートから伸びた私の足と、ジュンの膝小僧がこつんとぶつかる。呼吸をすればお互いの前髪が揺れてしまうような距離だ。じんわりと熱を持った思考回路の中で、女の子の悲鳴が隙間を縫った。

「なあ、ちゅーしていい?」

「だめって言ってもするでしょ」

「よく分かってんじゃん」

悪戯っぽく笑うジュンの顔は嫌いじゃなかった。湿った手のひらが私の頬に触れる。
ゼロの距離がたまらなく愛しい。薄く目を開けた視界の先、ジュンと目が合った気がして、慌ててきつくまぶたを閉じた。
気付けばホラーもどきはエンディングを迎えている。真っ暗になった画面を背に、狭いソファに身を委ねた。



***

お題:甘ったるくて胸焼けしそう


参加させていただきありがとうございました!



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