言葉を紡ぐの。静かな夜が怖くて泣きたく成ってしまう。こうして貴方と触れ合って、ひとつに溶け合う位に抱き合って、何だか私達、許されない事をしているみたいで。神様に見つからない様に、平然を装わなければならない。本当は息をするのも大変で、眩暈がする。キスの先に何が有るのか、なんて本当は分かってる筈なのに、何も知らないふりをする自分が憎らしくて堪らない。

「この地方のチャンピオンが、こんな馬鹿なことしてるって知ったら、きっとみんな笑うわ」
頂点に立った私は、それはそれは酷い虚無感に襲われたのだった。何だか世界が一気に色を失った、ような、幼い頃から夢見てた光景はあまりにも呆気無くて。そして何より、ずっと憧れてた彼の背中を、知らないうちに超えていたという事実が、私を変えて仕舞った。

そんなある日、私は、駆け落ちごっこをしよう、と彼に言った。半分冗談のつもりではあったが、本当に全てから逃げ出したいとも思っていた。
夕陽が沈んで間も無い頃。彼は意外にもあっさり承諾してくれて、荷物も準備せずに、私の手を引いて生まれ育った街を飛び出した。何も考えずに過ごす時間は、私を更に現実から遠退けていく様であり、其れとは逆に、彼にどんどん依存していくのが自分でも分かった。二人で逃げ出して、何日経ったのかすら分からない。小さなモーテルで過ごす日々は、何と無く罪悪感でいっぱいだ。

「子供みたいだな、俺達」
「…」
「駆け落ちごっこ、なんてさ。誰かに見つかったら終わりなのかな。なんだか昔を思い出しちゃって」
「かくれんぼ?」
「そうそう」

まだ私達にとってフタバタウンが広く感じた、あの頃。確か私が鬼役で、彼を必死に探していた。けれど何処にも彼は居なくて、段々と辺りが暗くなるにつれて私の不安は大きく成っていった。私が何時まで経っても見つけられないから、呆れて帰って仕舞ったのではないか、とも思ったのだ。

「ヒカリの泣き声が聞こえたから、戻ってきたよ」
「だって寂しかったんだもん」
「ヒカリは、今も寂しい?」
「…そんなことないよ、」

無意識に私は泣いていた。全然成長してない自分に腹が立って仕方ない。いつだって私は彼の足枷にしかならないようだ、そう考えると本当に虚しく成ってしまう。寂しくないなんて、嘘。贅沢かもしれない、こんなに私を想ってくれる人がずっと近くに居るのに。

「ヒカリは覚えてる?俺があの時、ひとりで泣いてるヒカリに何て言ったか」
「…ジュン、」

「もう何処にも行かないから、俺はずっとヒカリの傍に居るよ」

そう耳元で囁いた彼は、私を一層強く抱き寄せて、照れ臭そうに笑った。あの時はちょっと大人びてるな、なんて思ったけど、今私を包む大きな手の温もりだとか、心地よい声の低さとか、其の全てが頼もしく、私の中で輝いて光った。
暫く二人で見つめ合い、あの時と同じようにキスをした。其れはまるで魔法の様で。私は永遠に泣き虫で、こどもの間々ずっと恋をして生きていく。

「だいすき、ジュン、ごめんね」
嗚呼神様、どうかゆるしてくださいませんか。




お題:約束のキスをもう一度

少し歳を重ねても心はこどものままで、思い悩むヒカリちゃんと、昔と変わらずに支え続けるジュンくんのお話を書きました。全体的に暗くなってしまいましたが、最終的に想い合ってる二人、という形で纏めることができてよかったです。
この度は、素敵な企画をありがとうございました!参加することができてとても嬉しいです。これからもジュンくんとヒカリちゃんを精一杯応援していきたいと思います(´ω`*)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -