※学パロ
「なにそれ」
「見りゃわかんだろ、ラブレター」
長年過ごした幼馴染から想像も出来ない言葉が紡がれ唖然とした。見開いた視線の先には可愛らしいブルーの花柄のメモ帳に、これまた可愛らしい、そして女の子特有の丸文字が並んでいる。
今日の放果後、体育館裏で待ってます。
体育館裏とはまたベタな。近年の少女漫画でも稀に見るベタっぷりだ。そして放果後じゃなくて放課後ね。何となく歪んだ字で、たぶんこの子はものすごく緊張してこの一文を書き上げたのだと想像する。誤字は緊張のせいだろう。たぶん。
「行くの?」
「まあ、一応呼び出されてるわけだし」
「イタズラだったりして」
「それならそれでいいよ。でも本当だったら行かなきゃ悪いだろ」
「うーん、まあそうだけど」
ジュンは変な所ですごく優しい。だからみんなに好かれるのだろう。この女の子も、ジュンの優しさに惹かれた一人かもしれない。メモ帳を折り目にそって丁寧に畳みポケットに突っ込むと、くたびれた鞄を持ってジュンは席を離れた。
「じゃあなヒカリ、また明日!」
*
うまく眠れなかった。
良くないとは分かりながらもこっそりと後を付けてしまった。体育館の影、ちくりと痛む胸とともに身を隠す。伸び放題の草の中、運動部の声に紛れてはっきりと聞こえた。他に好きな人がいる、と、
ジュンに、好きな人?そんなこと、初めて聞いた。
冴え渡る意識に任せて、ベッドから起き上がる。机のライトだけを点けて、昔買ったお気に入りの便箋を探した。
*
「また呼び出し?」
「モテ期到来かも」
言葉とは裏腹に全然嬉しくなさそうだ。その態度に欠伸ひとつ、寝不足の目を擦った。
「それで、行くんでしょ」
「ちょっとめんどい」
*
ホームルームが終わると同時に生徒たちが続々と教室から飛び出していく。今日も絶好の部活日和だろう。吹奏楽部の揃わない演奏を聞きながら、伸び放題の草を眺めていた。案の定ジュンは、ちゃんと体育館裏にいる。
「なんでヒカリがいるんだよ」
「だってあの手紙書いたの私だもん」
「え、字違うし」
「頑張って練習した」
お陰で殆ど寝ていない。寝不足のぼんやりとした思考でジュンをたどる。すっかり追い越されてしまった身長差が実はそんなに嫌じゃなかった。低くなったトーンも結構良い声だなって思ってたし、わりと長い指も綺麗で少し見惚れた。
「ねえ、ジュンの好きな人って誰」
身体中の血液が沸騰しそうだった。後ろに組んだ腕は恐ろしく脈が速かったけれど指先は冷たくて、噛んだ唇は熱かった。知った所で私は彼を応援出来るのだろうか。ゆるやかな風の中ジュンの唇が動いた気がして、慌てて目を伏せた。
「ヒカリ」
「……なによ」
「だから、俺が好きなのはヒカリだよ」
「………え」
持ち上げた視線の先は見たこともない照れ笑いで、また脈が速くなるのを感じた。
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ベタベタなネタもジュンヒカならほほえましいです^^
参加させていただきありがとうございました!