Junk Toy Box | ナノ




「ユウマさんを探したいです」
月一で行っている「13班の集い」で初雪が突如としてそんな事を言い出す。
VFDを竜殺剣で屠り、再構築された世界。
ドラゴンと言う存在が消えたこの世界で、それを覚えているのは今ではここに居る三人とナガミミ、そしてミオの五人だけである。
如月 優真という人間は、ISDFが竜を討伐するために作った人工生命体である。
竜という概念が存在しないこの世界でには如月 優真という人間は存在しないのだ。
それでも、初雪はナガミミが言っていた「都合のいい話」を信じたかった。
竜殺兵器として生まれ、それだけを存在意義としていた彼。
その為なら無駄を排除していた彼。
追いついていなかった感情は、初雪と接していくうちに目覚め、疑似的とは言えデートをするような関係になっていた。
言ってしまえば、根白 初雪という人間は如月 優真という人間を好きになっていたのだ。
けれどそれは最期の瞬間になって届くと言う皮肉な結果になった。
死の間際、エルーシアに普通の友達として会いたかったと言った彼は、本当のバカだと今でも思っている。
少なくともエルーシアはずっと友達だと思っていたはずだ。そして、ライバルであるとも。
存在意義なんてふわふわとしたものの為に自分を殺すなんて本当にバカげている。
死んでほしく何てなかった。生きていてほしかった。
「僕達も居ますし、皆記憶を取り戻しましたから・・・居る可能性もあると思うんですよね。ヨリトモさんも居ましたし」
「アイツ実年齢12歳って言ってたよね。今探し出したら12歳なのかしら」
四季の言葉に一瞬沈黙が落ちる。
「よう、ロリコン」
「止めてください!そんなんじゃないですから!!」
四季の慈愛に満ちた笑みにエルーシアが崩れ落ちる。
ロリコンじゃないです。ただ歳が離れてただけなんです。かなり大きい8歳という歳の差。
勿論彼女が成人するまで待ちます。ヨリトモの圧力にも負けません。
戦闘不能になりかけたエルーシアは「そうなったら初雪さんはショタコンになるじゃないですか!」という置き土産を残す。
「違います!!」
エルーシアと初雪が戦闘不能となり机に突っ伏した所で、ミオとナガミミがやってきた。



ちょっとコンビニ行ってくる、と言った四季を公園のベンチに座りながら待つ。
あの日彼女が抱いていたのは確かに愛という感情だった。
それが何処へ向かっていたのか、何処へ向かうはずだったのか。
それでも彼女の気持ちの行き先は真っ暗な場所だった。落ちたら二度と戻れない深淵へと消えざるを得なかった。
初雪が今もこうして心を強く保てているのはVFDとの最終決戦の際、魂だけの存在になったユウマが背を押してくれたからだ。
ドラゴンが居なくなったこの世界ではアトランティスは滅んではおらず、ルシェという種族もアトランティスから出ることは少ないが一般的に認知されている種族になっている。
マリ、ディレンド、イディスは本来は過去の住人で、タクミ、ロゼッタ、ベルクは未来の住人だ。
彼らにも再会できれば、と思うがそこはノーデンス社長のジュリエッタのタイムマシーン完成を待たなくてはいけない。
その為にも初雪はジュリエッタに近づかなければならない。そういった下心もあり彼女の就職予定はノーデンスである。
四季もまた初雪と共にノーデンス入社を目指して勉強中である。
暖かな日差しを浴びながら初雪はぼうっと考える。

もう一度会って、自分はどうしたいのだろうか。
ただただ、彼を甘やかしたかった。存在意義だとか、強さだとか、そんなものに縛られずに自由になって欲しかった。
愛されたいのかと言えばそれは違う。
これは初雪のエゴだ。
ユウマに愛されたいわけじゃない、ただ、彼に幸せになって欲しい。
今まで「良い子」として生きてきた彼女の小さな我儘。
愛されなくたっていい。彼が誰かを愛して、幸せになってくれればそれだけでいいのだ。

そんなことを考えていると足元にボールが転がってくる。
「はい、どうぞ」
「す・・・すいません・・・!」
そのボールを拾い、駆け寄ってきた子供に手渡し・・・彼の顔を見て初雪の表情が凍る。
その子供は「如月 優真」にそっくりだった。
思わずユウマさん?という声が漏れる。
「え・・・何で俺の名前・・・」
どくんどくんと心臓が音を立てる。
口の中が乾いて上手く言葉が出ない。
何とか言葉を紡ごうとした瞬間

「はーつーゆーきー!おーまったせ!!」

背中に軽い衝撃。
ああ、いつだったか同じことがあった。
「いやあ、新商品のお茶にするかいつものお茶にするか迷っちゃって」
「もう、いきなり飛びつくの止めてってば」
背中に張り付く幼馴染を見て初雪は苦笑する。

「初雪・・・?四季・・・?」

目の前の子供が呆然と呟く。
「え・・・」
「あ、なんでもないです。ボール、ありがとうございました!」
彼はそのまま走り去り、友人らしき少年たちの輪に戻っていく。

「・・・彼だと思う?」
初雪はその光景を見つめながら背中に張り付いたままの幼馴染に尋ねる。
「どうだろうね。【もしかしたら】そうかもしれないよ?」

うん、そうだね。

初雪は小さく頷いて立ち上がる。
「行こう、四季。勉強しなきゃノーデンスに入れないよ」
「はっはー、残念初雪。私これでも人生二回目だから」
「ずるい!」
「教えてあげるってば!その代わりご飯作って〜」
「はいはい」


少年は去っていく二人の背を見送る。
「どうしたんだよ、ユウマ」
「・・・なんでもない」

いつだったか、どこだったか。
会ったことがある気がするあの笑顔。

いつか思い出せたらいい、と彼は微笑んで背を向けた。



――
居たっていいじゃん!幸せにしたいじゃん!
このルートの場合この後ユウマの両親が事故なりなんなりで亡くなってヨリトモさんかナグモさんちの養子になればいいなって。そんでまた今度はセブンスエンカウントで再会してユウマ少年から「友達になってください!」って言われたい。初雪は笑顔で「いいですよ」って言ってほしい。そこから8年後にプロポーズしてほしい。初雪に近づく男に威嚇してればいい。
そんなユウマ×サム子ちゃんがいい。


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