Junk Toy Box | ナノ




ベルクから見た二人は、未熟者という印象だ。

タクミリシア・サンディ・トニック。
有名な魔術師の家系に連なる青年で魔術の腕は他のハントマンよりも頭一つ二つ上だ。
けれど少々プライドが高い。特に撤退に関して彼は許しはしない。
「私の許可なく撤退などするな」
その言葉で離れて行ったハントマンも数多い。
彼のそのプライドの高さが怯えからくるものだと知ったのは、「東京」と呼ばれる場所からやってきた青年と関わってからだった。

ロゼッティ・ヴィット・アイロニー。
何の後ろ盾も何もない野良サムライ。我流であるはずの剣術には光るものを感じる。
タクミリシアとは違いチームを組まずにハントマンを続けていた彼女の剣には気迫がある。
けれどそれだけだ。気迫はあれど彼女には中身が無い。
「人を助けるのがあたしがすべきことなの!」
そう言って常に笑顔を浮かべている。
彼女のその中身の無さの理由を知るのは、同じく「東京」からやってきた青年と関わってからだ。

「ベルクさん、どうしたんですか?」
イディス、ミオと並んで歩くエルーシアが首を傾げる。
どうやら今から猫カフェに行くらしい。イディスは見た目こそ粗野な印象を受けるが相手を思いやることが出来る好青年だ。
東京にやってきてから猫派になったらしい。
「タクミとロゼッタが出かけたきり戻ってこなくてな。どこかで人様に迷惑をかけていなければいいのだが」
腕を組み唸ればイディスから

「アンタ、あの二人の親父みたいだな」

という言葉が出てくる。
「・・・あんなに大きな子供が居る年じゃないがな」
「えっと、結婚はされてないんですか?」
「ああ。ハントマンをしていると中々難しくてな」
マモノ退治や危ない橋を渡ることが多いハントマンである身としては一つの場所に居を構えるという想像が出来なかったのだ。
35歳になって「結婚」という事を考えないわけではなかったが、ハントマンと言う職業を理解する女は中々居ないものだ。
「まああの二人の保護者という意味では間違いではないかもしれないな」
「お、おう。ベルクも大変だな」
イディスがどもったのはおそらく幼馴染を浮かべたからだろう。
彼女は優秀だが変人だ。
むしろ優秀な人材程変人なのかもしれない。サイラスもその類だ。
四季から聞くにはかつてムラクモという組織の長だった男も少々変な所があったという。
ハントマンとしてのチームを組んだ頃は彼らには『ハントマン』としての絆以上の物があるとは思っていたが、『前世』という素っ頓狂としか言えないものだとは思わなかった。
けれど、初めて出会ったはずのエルーシアには直ぐに心を開き、四季という娘と意気投合した彼らを見ているとただの与太話ではないのかもしれないとも思う。
かつて東京は二度竜による災害を被った。そしてそれを撃退したのがムラクモ13班。

かつて四季、タクミ、ロゼッタはムラクモに所属し、エルーシアの前世をリーダーとして竜を狩ったと言う。

不思議な縁を持って東京へとやってきた彼は、ほんの少しだけ寂しさを感じる。
それこそベルクはタクミとロゼッタを我が子のように思っていたのかもしれない。
「エルーシア。お前から見てタクミとロゼッタはどうだ?」
「え、僕ですか?」
「お前が13班のリーダーだろう」
ええと、とエルーシアは考え込む。
「二人ともとても強くて、あ、もちろんベルクさんもですよ。三人が入ってくれてとても嬉しいです。僕は・・・前世というのは覚えていませんが、タクミさんとロゼッタさんの今の強さにはとても助けられています」
人の良い青年はそう言って笑う。
タクミはかつて「自分が敬愛した人は、自分が持っていない物を全て持っている人だった」と言っていた。
その言葉を発した時のその瞳。どこまでも仄暗い色を湛えたそれにベルクは言葉を無くした。
エルーシアを見てその意味を知ったものだ。
確かに彼はタクミが持たない物を持っている人物だ。
ただただ真っ直ぐなその魂は美しさすら感じる。
拓巳とロゼッタという「ニンゲン」が愛したリーダーは生まれ変わっても変わらずにここにいる。
男はフッと笑うと立ち上がる。
「俺も猫カフェに同行してもいいだろうか」
「わあ、アイベルクさんも来るんですね!行きましょう!」
年齢で言うならばミオの方がよっぽど子供に近い。
「大変だなぁ、オヤジさんはよ」
「はは、そうだなあ」
けれどそんなものも悪くはない。
未熟者達の行く末を見守ってみようか。
彼はそんなことを思いながら彼らの三歩後ろを歩いた。


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