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幼馴染の初雪と一緒にセブンスエンカウントで遊んでいた時、見つけた、と直感的に思った。
性別が違う、見た目が違う、でも、彼は【彼女】だ。
そう思ったらつい私は声をかけていた。
「ねえ、貴方達今日初めて?よかったら私たちとチーム組まない?」
声をかけられた【彼女】はポカンとしてから一緒に来ていたらしい女の子に声をかける。
彼女だ、生きてたんだ、私と同じようにこの時代に生まれてたんだ。
あの日【彼女】を死なせてしまって、【アイツ】も同じように死んでしまって。
「うん、よろしくお願いします。僕もミオさんも初めてなのでご迷惑をかけるかと思いますが・・・」
「よ、よろしくお願いします!」
【彼女】はエルーシアと名乗り、女の子はミオと名乗る。
登録されたジョブはエルーシアがサムライで、ミオはナビゲーター。
セブンスエンカウントにログインすると目の前に広がるのは2021年の東京スカイタワー・・・を模したゲーム画面。体感型のこのゲームはスカイタワーに蔓延るマモノを倒すのが目的である。
「珍しいね、四季が人に声かけるなんて」
「何かきょろきょろしてたからついさー。二人ともすっごいはしゃいでる。私達も初めての時ははしゃいだよね」
そうだよねーと初雪がクスクス笑う。
「四季なんてスカイタワーみてほんっとびっくりしてたもんね。あんな四季見るの初めてだったから私もびっくりしちゃった」
その言葉にドキリとする。
だって、だって・・・ここは・・・
私達が経験した二度目の竜災害が始まった場所なんだから。
初めてここに来た時、寒気が走った。
ニアラを撃退して一年、やっと世界の復興が軌道に乗り始めたのに。
あの日ここにフォーマルハウトがやってきて黒いフロワロをばら撒いて・・・。
思い出したくもない、けれど忘れたくもない記憶だ。
腕を喪ったキリノ、ニアラ戦での傷が癒えていなかったムラクモ13班。
それでも私達は自衛隊と協力し、セクト11と敵対しながらも帝竜を倒し、フォーマルハウトを撃退した。
ムラクモ13班のリーダーだった【花梨】はその戦いで体に重大な障害を負ってしまっていた。
【彼女】はそれを隠し続け、戦い続け、そして死んだ。
最期まで真竜を討ち倒した英雄であり続けた【彼女】は狂暴化したマモノに殺された。
どうしてあの日、【彼女】について行かなかったんだろう。
どうしてあの日、私は後方支援に回っていたんだろう。
どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、【花梨】が死ななきゃいけなかったの?
【彼女】が死んで、【アイツ】は今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
どうやらフォーマルハウトとの戦いにおける障害を負ったのは【彼女】だけだったようで、【アイツ】の超感覚のセンスのSランクはそのままだったようだ。
けれど、【アイツ】も死んだ。戦って戦って戦って戦って。
まるで【彼女】の分も背負うかのように【アイツ】は戦った。
そうしてある日の朝、【アイツ】は目を覚まさなかった。
私達がしてきたことは一体なんだったんだろう。
仲間達が泣いている中、私はただ一人呆然としていた。
世界なんてどうでもよかった。
こんなクソみたいな戦いに身を投じたのは、私も【アイツ】も【彼女】の人格に惚れてたからだった。
二人が死んで、私には戦いに身を投じる理由がなくなった。
【彼女】の妹は東京に残ると言っていたが、私はルシェクローン達と東京を離れた。
次は、皆が幸せになれますように。
ただただ、それを願って。私は、自分で自分を殺した。
こんなクソみたいな世界には、もう興味がなかった。
あれから八十年後の日本に、私は前世の記憶を持って生まれ変わった。
特に何事もなく幼馴染の根白 初雪と一緒に育って、それ以外の人間は疑うようになった。
前世でとにかく色々とありすぎて、私はスレていた。
流石にナツメレベルの裏切りはないだろうが、人は自分の欲望の為に他人を踏みにじる生き物だというのがよーく分かった。
初雪からは「もっと友達を作らなきゃ!」なんて言われていたがそんなん知るか。
今の所私の世界には初雪が居ればそれでいい。この子は裏表がない、一緒に居て心地が良い子だ。
あの時に【彼女】と出会っていればきっと良い友人になっていただろう。
セブンスエンカウントは2021年の竜災害を元にしたゲームだ。
正直あの時の当事者としては「ふざけんなクソ野郎」という気分だが初雪が楽しそうに撃ちこんだりハッキングをしているのを見ると口を閉じるしかない。
そして今日【彼女】を見つけた。エルーシア・クロッカス。それが今の【彼女】の名前だ。
よかった。楽しそう。
例え名前が変わっても、性別が変わっても、【彼女】の本質は変わっていない。
【アイツ】も生まれ変わっていたらいいな。
記憶がなくなっても、どんな姿になっても、平和になったこの世界で・・・また、友達としてやり直せたらいいな。
そして、そんな私の小さな願いは、セブンスエンカウントに出現したドラゴンによりまたも打ち砕かれる事になる。
決めた。今度は私が守ってみせる。
記憶が無くたって【彼女】は・・・いや、エルーシアは私達のリーダーなんだから。
私の小さな願いはただ一つ。
『かつてのムラクモ所属者たちが幸せになれますように』