Memo | ナノ


測量会の会期中は争い事が禁止されている。
今まで貯めに貯めたグリーフシードもあるから会期中くらいは何とかなる。
それに、いざとなったら戦わないという選択肢もある。
見つけてしまったら・・・呪いを振りまいて死んでいけばいい。
この世は弱に弱肉強食なんだから。
私は、今も何とか生きている。

「あら?貴方・・・」
「ああ、アリス。久しぶりね」

前にダイヤの城に行ったときにチラッと見たような気がしたけど、喋るのはずいぶんと久しぶりだ。
「本当ね。・・・前にシドニーがイライラしてたのって貴方が原因よね?」
肩をすくめて、さぁ?ととぼける。
例えそうだったとしても関係ない。
その人の気持ちはその人のもので、私がどうこうするものじゃない。
それに私は仕事をしただけ。
そこで怒られてもちょっと困る。

「それにしても、貴方も測量会に来ていたのね」

驚いたように言われ、苦笑する。

「まあ、一応私もこの国の人間にカテゴライズされてるからね」

そうは思えないけれど。
本質的にはダイヤの国の人間じゃなく余所者に近い。
けれど、完全に余所者かと問われれば首を縦に振る事は出来ない。
・・・ある意味では今も私の願いは叶っているのだ。
【独りになりたくない】という願いは・・・今も意味が歪んだまま叶い続けている。

「アリスは、」

流れる人並みをぼんやりと見つめる。

「どんな願いごとでも1つだけ叶えてもらえるなら・・・戦い続けても構わないって思う?」
私は、思ってしまった。

『戦いの運命を受け入れてまでキミには叶えたい願いがあったんだろう?』
アレはそう言った。
確かにそうだった。
願いがあった。
『それは間違いなく実現したじゃないか』
歪んでいる。

「私は、そんなのごめんだわ」
アリスの答えにははっと笑い声をあげる。
「そうね、そうだね・・・アリスはそういう人間だよ」
私とは違う。彼女は迷って傷付きながら、それでもそんな甘言には耳を貸さないんだろう。
「それが一番良いよ」
それはいつか歪んで絶望になっていくから。
「そんなことしたって、何にもならないから」
いつまでもいつまでも歪んだまま。
「私も、貴方みたいになりたかったな」
独りで居られるくらいに強く、誰かに縋らないで生きて行ければ。
でもそれが出来なかったから。

「前から気になってたんだけど、貴方本当にこの国の人間なの?雰囲気が違うんだけれど」
「どうだろう?この世界の顔なしでもあって、貴方と同じ余所者でもある・・・って感じかな?」

私も分からないの。とにっこり笑う。

「でもね、私はこれからもこの国で生きて行くから・・・だからこの国のルールに則るの」
それはアリスも同じのはず。
「アリスだって、選ばなきゃ」
「・・・・・・」
アリスの青い瞳が私を捕らえる。
「私はこれでも貴方より長生きだから、少しくらい忠告できるもの」
そうね、とアリスが俯く。

「私、この国にも愛着がわいてきているの」
「うん」
「・・・でも、クローバーの国にも友人が居るの」
「うん」

引っ越しでの心情なんてきっと理解されないだろう。
「選ぶのは他でもないアリスだよ」
私はもうこの国で生きていくしか術はないけれど、彼女は選ぶ事が出来る。
「私は・・・終わらせる事すら出来ないもの」
終わらせて欲しいと願っても終わらない。
終止符の打ち方なんて分からない。
そんな狂った生と狂った世界で私はきっとこれからも生きて行く。

私はそっと目を閉じて、訪れる事のない終わりに想いを馳せた。



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