▼
希望と絶望は差し引きゼロだって。
彼女の言葉はきっと正しい。
「あ、ユリウス」
青みがかった黒髪の男は私を視界に捕らえると、苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「その顔やめてよ」
「またお前か」
またって言うほどユリウスとは会ってないんだけど。
彼が外に出てるのを見るとエースを捜してるのかな。
「もう少しで測量会だもんね」
捕まるといいね、なんて他人事のように言う。
まぁ実際他人事だからどうでもいいんだけれど。
私エース苦手だし。エースは私を嫌ってるし。
「・・・一応聞いておくが、エースは」
「見てないよ。この前・・・って言っても10時間帯くらい前に墓守領には居たけど」
私の言葉に、10時間帯か、と舌打ちが聞こえてきた。
あーあ、また眉間にしわが寄ってる。
そのうち眉間のしわ消えなくなっちゃうんじゃないかな。
「あ、そうだ」
ふと思い立ったので謝罪を口にしてみる。
「・・・・・・行き成りなんなんだお前は」
その害虫かなんかを見る目は止めて欲しいなぁ。
「ユリウスの仕事増やしちゃってるし」
エースに怒られたからね。
お父さん大好きなお子様め。
「それはお前だけじゃないだろう」
「それはそうだけど」
そうなんだよね。
私よりも帽子屋と墓守の抗争とかクリスタの逆鱗に触れただとかの方が酷いんだけど。
「何となく謝りたかったの」
気分の問題だ。
「・・・私ユリウスの事は割と好きだよ。ボリスの方が好きだけど」
「気持ち悪い発言は大概にしろ」
酷いなぁ。
こんな風だから気を遣わなくて良いところがいいよね。
ただ時計屋だけあって、側に居ると心臓が痛い。
思い出しちゃいけない事を、思い出しそうで。
絶望に至るまでの願いを思い出してしまいそう。
「寂しいのはやだなぁ」
ぽつり、呟いた瞬間。
じわりと胃が焼けるような感覚。
吐き気がして、世界が回りそうになる。
「どうした?」
「なんでも、ない」
耳鳴りの奥で「君の願いはなんだい?」というアイツの声がする。
「私の、願いは」
おもい、だした。
折角忘れていたのに。
「エース探すの、手伝うよ」
吐き気を飲み込んでいつもの曖昧な笑みを浮かべる。
「毎度アイツから剣を突き付けられてよく探そうという気になるな」
「ははは、何かユリウスが困ってるみたいだからね」
【独りになりたくない】という声を振り払うように私はユリウスに背を向けた。