Memo | ナノ


「あ」

雑踏の中で、赤い瞳と目が合った。
厄介なのに見つかったなぁと心の中でため息を吐きながら私はどうにかして逃げられないものかと考え込む。
ここは墓守領。確かに彼が居ても可笑しくはないんだけれど、
よく行方不明(本人は旅だと言い張っているが)になる為にここに居ると逆に不自然だ。

「やあ、君か」

にこにこ。
私以上に胡散臭い笑みを浮かべて少年―エースは言う。

「こんにちは、エース」

にっこり。
負けじと胡散臭い笑みを浮かべる。
きっとこんな場面をあの双子に見られたらまた気持ち悪いなんて暴言を吐かれるんだろう。
慣れてるから別にいいんだけれど。
でもそれとこれとは話が別だ。
一応私だって傷付いたりする。
言うと嘘くさいって言われるから言わないけど。

「・・・エースが墓守領にいるなんて珍しいね」
「え?そうかな?」

胡散臭い。

「君が此処に居る方が珍しいじゃないか」
「仕事だよ。もう終わったけど」

今日もまた人を殺して私は生きている。
・・・ユリウスの仕事増えるとエースには色々言われるんだよなぁ。
でも、この国は直ぐに人が死ぬから私だけに言われるのも理不尽だと思うんだけれど。
まあ、理屈がこの少年に通じるなら私も面倒だとは思わない。
通じないから面倒くさい。

「ふうん」

品定めするようにじろじろと見られる。

「・・・用事無いならもう行っていい?」

なんかお腹空いちゃったんだよね。
出来るならこれ以上エースに構わずにご飯を食べに行きたい。

「ね、俺と旅に行かない?」
「遠慮するよ。私はご飯を食べたいの」

この人に付き合ってたら命がいくつあっても足りない。
旅が終わる前に魔女化しそうだ。

「そっか。ならいいんだ。じゃあね」

にっこりと笑う彼の目は【これ以上ユリウスの仕事を無駄に増やすな】と語っている。

「ええ、またね」

にっこりと笑いながら私は【依頼主に言ってちょうだい】と語り返した。



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