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少し離れた場所で、黒ウサギ・・・シドニー=ブラックの声がする。
彼の目的は、
「・・・」
「・・・」
多分、というか絶対にここに居るクリスタ。
子供姿のクリスタは私にがっつりと抱き付いてしまって離れない。
ああ、この場面を彼に見られたら、私は間違いなく射殺される。
「ねえ、クリスタ」
「戻りませんわよ」
物は試しと声をかけてみればばっさりと切り捨てられる。
このお子様女王はいつも部下の宰相に面倒をかけている。
本当はシドニーが大好きなくせに。
それはシドニーもか。クリスタが大好きなくせに。
ダイヤの城はちぐはぐだ。
「あんまりシドニーに心配かけちゃダメだよ」
ちりっと胸の奥が痛む。
私にも昔は、私を心配してくれる人が居たのにな。
「あら、心配なんてかけてませんわよ?」
子供のクリスタは無邪気に笑って私に言う。
残酷さとも言える無邪気さは、他を氷漬けにする事すら躊躇しないそれへと繋がっている。
私の今の立ち位置も危ないものだ。
クリスタの機嫌を損ねれば一気にダイヤの城を敵に回す。
そうなればこの国で生きづらくなってしまう。それは避けたい。
「貴女こそ心配かけるのを止めたらよろしいのに」
「ふふ、私には貴女と違って心配する人なんていないよ」
そんな人が居たのはもう昔の話だ。
今の私は生きる為に生きる、ただの抜け殻。
どくんどくんと心臓が鳴る。
クリスタが氷の微笑を浮かべたのを横目に見て、シドニーの声が遠ざかっていくのを確認する。
「ね、帰ろうよ」
それはきっと幸せなんだよ。
まあ、この国の人に伝わるかは分からないけれど。
「仕方ありませんわね」
渋々クリスタが立ち上がる。
「また今度来るからさ」
「ええ、是非とも。そうでないと貴女を氷漬けにしてしまいますわ」
まさに生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
いつもの、曖昧な笑みを浮かべて幼い女王を連れたってダイヤの城へと向かった。