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地面に叩きつけられた体。
目の前を濁った白銀色のソウルジェムが転がった。
(ああ、ダメだ)
じわりじわりと沸き上がるこの気持ち。
また私は死ぬんだ。また魔女になるんだ。
何で私は願いなんて込めちゃったんだろう。何で、
(時間なんて、なくなっちゃえば)
最後の力を振り絞って、私はソウルジェムを拳銃で撃ち抜いた。
「何やってんだ」
「・・・グレイ」
駅の雑踏。声をかけてきたのはグレイだ。
何だろう、機嫌悪そう。
「またナイトメア?」
彼の機嫌が悪くなる原因なんてそれぐらいだろう。
尋ねれば不機嫌そうに頷く。ほら、やっぱりね。
「今のうちに殺しちゃえばいいのに」
「あんな病弱なガキ殺れるかよ」
この人本当に暗殺者なのかな。
ただのお母さんじゃない。
でも、殺さないのはナイトメアだからで、私だったら殺してると思う。
「ね、グレイ」
「何だよ」
今からナイトメアの所に戻るであろうグレイの後ろを着いて歩く。
「もし・・・もしもだよ」
ポケットの中のソウルジェムを握りしめる。
「・・・私が死にかけている場面に遭遇したら、容赦なく殺して」
魔女になるくらいならソウルジェムを砕かれて死んだ方がマシだもの。
「お前、可笑しいんじゃねえのか?」
「え?この世界自体が可笑しいじゃない」
命の価値は軽く、人の生き死になんてどうだっていい世界。
それなら、私の命だって軽いものだ。
「それに、もしもの話だよ」
出来る事なら誰にも覚えておいてほしくなんてないから、そんな事になったら私は自分で自分を殺すだろう。
「ま、覚えてたら殺してやるよ」
その物言いにくすりと笑う。
「有り難う、グレイ」
「・・・何なんだお前は」
呆れたような声。
「殺すように頼んだ相手に礼かよ」
「いいんだよ、それで」
自分で殺したい、けれど、たまには誰かに殺されてみるのもいいかもしれないじゃない。