いち
  命懸けの早朝編



画面の前の善い子も悪い子もこんにちは、帝王院学園最凶ランキング裏一位、叶二葉に張り付く命懸けのお時間がやってきましたよ。

「つか超眠い系…」

えー、作者持病の為、報道部長である俺、川南北斗がレポート致します。急病ではない系。
勘弁してくれよー、俺デスクワーカーなんだよー、喧嘩本当に弱いんだよ!アイツっ、何が持病だよ!ただの臆病じゃねーか!

「ノーサ、お気を確かに…」
「ノーサ、お気を付けて…」

報道部の部員は付いてきてくれませんでした。サポートするくらいなら辞めますと退部届持って来ました。そりゃそうですね、何せ相手は裏ランキング連続一位ですからね。ええ、『怒らせたくない人ランキング』のね。
マジェスティは怒りそうな気がしないし、サブマジェスティはちょっとした事には何も言わない系で、ぶっちゃけABSOLUTELYの中じゃマスターが一番の危険物だ。ミサイルなんか目じゃない。

「ノーサ、ご無事で」
「ノーサ、健闘祈ります」

いかつい舎弟らの尊敬の眼差しに痙き攣りながら頷いて、ブレザーに隠しカメラを仕掛けたままマスターの寝室の扉に手を掛けた。



現時刻、AM 6:00。


「…北緯、兄ちゃんは男になる系ー」

可愛い弟を思い浮かべ、ドアノブに手を掛けた。いつもはノックしてから入るんだけど、早朝会議でもなければまず起きていないから。マスターは低血圧だからね、ああ見えて寝汚いから。

「し、失礼しま〜す…」

ま、まずは寝顔をこっそり撮らせて頂く系。起きてませんように。

「…」

白百合のベッドは天蓋付きのクイーンサイズ、なんて噂があるけど全くのでたらめ系。浴衣で寝てるマスターは、モスグリーンの敷き布団の上で寝乱れまくったエロ姿を太股と一緒に晒し、寝息も発ててない。片手で腕枕、もう片手は万歳した寝相の悪さで毛布も蹴り飛ばしてる。

「………」

然し、暑い。
無駄な暑さだ。まだ春先なのに。つか、2011年4月なのに。連載開始は2009年6月だけど。一体いつになったら俺ら進級するのか。
あ、可視恋線。が始まるまで無理系かな。

足音を発てないように、一歩一歩酷くゆっくり進む。一歩に1分は必須である。バレたら命はない。かも知れない。

暑い。
何たる暑さだ。常夏の気温だ。ああ、やしの木の幻覚が見える。部屋の真ん中に巨大なサボテンも見える。


違う。幻覚じゃない。
超寒がりのマスターは普段それを悟らせない癖に、プライベート空間では年中27度以上に保ってないといけないらしい。
謎めいた白百合のプライベートルーム、つまり3年次席の部屋は推定40畳の無駄にでっかいワンルームだ。キッチンとバスルーム、トイレ以外を一切ぶち抜いた巨大なワンルームだ。

玄関開けたら一歩で砂漠化し、無駄に広い部屋中に黄砂が敷いてある。部屋のど真ん中に巨大なサボテンが一つ、その周囲に大小様々なサボテンと常夏の観葉植物が突き刺さっていて、そのまた周囲にオアシス染みた水路。バルコニーから伝ってるそれにはヒヨコが浮いてて、余りにも不似合いだった。

マスターはかなりセンスが悪い。
水色のペンキで塗られた壁は、所々雲型の模様が入っていて、本来の白い壁が少し見える。空をイメージしてるんだろう。
砂漠チックな部屋には確かに似合ってる気がしない事もない系だけど、シャンデリア代わりにぶち抜かれた天井には天窓があり、天窓を中央にして推定40畳サイズの超巨大『お日様』のイラスト入り。

何ともなく見やれば、マスターが寝てるモスグリーンの敷き布団の周りは何故だか田んぼになってて、田んぼに囲まれた小山の上に畳が四枚ほど敷かれた上に敷き布団がある。
意味が判らないと思う。何せ未だに俺も理解出来ない系だ。仕方ない。でも本当に、観葉植物らしき葉っぱが突き刺さってる田んぼがあって、水路から水が流れ込んでて、その田んぼのど真ん中に砂丘染みた小山があるんだよ!40畳のほぼ四分の1くらい支配した田んぼの真ん中にッ!

常夏のサボテン。
水色と青の空。白い雲。
砂漠。いや砂丘。不似合いな水田。山の上に寝乱れた浴衣。


間違いはどれだ。
山、田んぼ、巨大なお日様。

サブマジェスティが遠い目をしたらしい。初めてこのカスタム白百合ルームを見た時に。
クイーンサイズの天蓋付きベッドで寝ていると言う白百合は、実際砂漠のオアシスならぬ砂漠の田んぼ付き砂丘の上で寝てる。シャンデリア代わりの巨大なお日様の下で。

山と田んぼを下敷きにして、お日様に見守られながら。砂丘に愛用の眼鏡ケースを転がし、キングサイズの敷き布団の上で寝息も発ててない。眉間に目一杯皺を寄せた恐ろしい形相で、

「ぅ………文仁…内臓抉り出してやる…」
「!!!」

恐ろしく低い声音の寝言をカマしながら。

駄目だ。
寝顔ショットなんか無理系だ。殺されてしまう。何せ敵は低血圧、朝のフレンチトーストを差し出さない限り物凄く睨まれる。
サブマジェスティは血圧高めらしいから、寝起きが良い。ああ見えて朝が早いヤクザ跡取りだから、朝っぱら五時からトレーニングしてる系だよ。年寄り並みの朝の早さだけど本当、さっきダンベル中の光王子に挨拶したし。親衛隊が周りに居ないサブマジェスティは早朝しか見る事が出来ない。我が身に胡坐を掻かず日々鍛練してる彼を知ったら、益々ファンが増えそうだ。

「………陛下、それは食べられないフレンチトーストですよ。むにゃむにゃ」
「!」
「ふーちゃんを食べるなら、蜂蜜を掛けないと…むにゅむにゅ」
「!!!」

ね、寝てるんだよなっ?!
寝言系?!どんだけフレンチトースト愛好家だよ!蜂蜜掛けたって鬼畜は甘くないよ!辛辣だから鬼畜なんだよ!甘くならないに決まってるっ!



…まぁ、良い。
こっそり写真を撮ろう。望遠レンズでドアップを撮ろう。
砂丘にはまだ2メートル近くある田んぼ辺りで漸く立ち止まり、スラックスのポケットに忍ばせた改造デジカメを取り出した。シャッター音を消した隠し撮り用さ。

さてと、メモリもOK。
撮ったらとっととトンズラ、


「…逃げられると思ってんのか?」
「!!!」

デジカメを構えて頭を上げれば、背後から低い声音と共に首筋に冷たい何かが当たった。

「不法侵入とは好い度胸じゃねぇか、…ノーサ」

デジカメを構えたまま無人の敷き布団を凝視しつつ、流れ落ちた汗が常夏の所為ではない事に気付く。

「まさか」
「も、も、も、申し訳…っ」
「この俺の寝顔を盗み撮りするつもりだったなんて、」
「っ!」
「言うつもりなら、事前に言いなさい。私だって鬼ではありません。裸で待機したのに」

がばっと振り返れば、眼鏡ケース片手にぷりぷり頬を膨らませるマスターが寝乱れていた筈の浴衣をきっちり着直した完璧な姿で立っていた。眼鏡もいつの間にか掛けてある。

「ほらほら、何か言う事があるでしょう?」
「も、申し訳ありませんでした。ノックはしたんですけど…」
「おや、それは気付かずすみませんでした。今日は会議がありましたかね?」

恥じらいと言うものが全くない人が浴衣を躊躇わず脱ぎ捨て、つかつかと砂漠を横断していく。

「いえ、今朝新たに受信した左席通信についてマジェスティにお話があった系なんですけど、」
「陛下は愛のハンターですからねぇ。相変わらず天の君の所へ夜這いに行かれたのでしょう。少子化対策とは流石、我が神」
「少子化は進む一方系ですね」

がさがさ裸で観葉植物を掻き分け、クローゼットから真新しい制服一式を掘り出して着替える様を見守りながら息を吐いた。寝顔ショットは失敗したが、不法侵入についてはうまく誤魔化せた様だ。

「で、今朝の左席通信に何かありましたか?」
「はい、何でか紅蓮の君の連載小説と共に、一年Sクラス生徒一同の今年の目標とセクシー写真が添付されてまして…」
「確認しましょう」

きらり、マスターの眼鏡が光った気がする。出席番号順にまずは一番遠野俊、ぷりっとお尻を振った写真と共にカンペには『フォーエバーモエ』と無駄に流暢な文字で書いてある。
二番、キス待ち顔の神崎隼人。『エビフライ百本食べたいにょ』
三番、寝起きの眠たそうな錦織要。『選定考査で必ず隼人を抜く』

などなど、無表情で手帳のボタンをぽちぽち押していたマスターが、動きを止めた。
うん、21回ぽちぽちしてたね。数えてないけどきっと21回スルーしたよね。


絶対、見てる。
ガン見してる。悲しきかな、マスターの片思い説はABSOLUTELY公然の事実だ。つか、この部屋見たら一目瞭然だ。

見て、あの緑色の水路。サボテンの所為でも、苔むしてる訳でもないよ。
あれね、日本茶なんだよ。は、ははは…、二十四時間循環してる緑茶なんだよ。…飲まなくても判る。マスター直々に毎日煎れてる、お茶さ。砂漠に似合わないにも程がある。

「確かにこれでは左席通信ではなく一年Sクラスの授業報告です。速やかにマザーサーバーから削除しなさい」
「つかぬことを伺いますがマスター、今しれっとパソコンに何か送信しませんでしたか」
「何の事ですか?」

にっこり笑顔でネクタイを絞める人に微笑み返した。にっこり笑顔で手帳を仕舞い込んだ人が無意味に上機嫌な事に気付いたが、

「あ、そうそう。それで男にはなれましたか?」
「え?─────あ」

部屋に入る前にうっかり漏らした呟きを思い出し、また冷や汗が流れた。ああ、なんて地獄耳。始めからこの人は狸寝入りしてたに違いない系。
俺がひっそりひっそり忍び込んでた事なんか、初っぱなから知ってたのだろう。だから敵に回したくない。あの寝乱れ姿もきっと、わざとだ。

「は、ははは、何の事ですか〜?」
「うふふ」
「は、ははは、」
「うふふふふふ」
「………今日から特一級指名手配生徒の監視役を引き受けます」

にっこり微笑んだ人が軽やかに部屋から出て行くのに付き添いながら、涙を耐えた。
ああ、この人の機嫌が良くて助かった系だよ。ぽちぽち21回のお陰だよ。風紀の仕事が一つ増えただけで許して貰えるなんて、マジ。いつもなら素のマスターに無表情で蹴られてる筈だから。いや、殺されてた筈だから。

「さて、では朝食と参りましょう。で、私に何か言う事があるでしょう、ノーサ」
「え?あ、おはようございますマスター」
「おはようございます。挨拶は朝の基本ですからねぇ」

後で風紀超一級執行任務のついでに、左席に菓子折りでも届けておこう。特一級指名手配生徒の監視ならぬ見守り中に拝んでおこう。

「爽やかな朝ですねぇ、ノーサ」
「そうっスね〜、マスター」

風紀委員会の心の支えは、彼の平和な学園生活に懸かってるんだから。


一年Sクラス21番山田太陽、
『何事もなく普通に過ごしたい』


「そうだ、先週退学にした例の生徒の一族からお詫びの品が届いてた系っスけど。っつっても、かなり遠縁みたいですが…」
「ああ、八代の流れですか。ふふ、実に礼儀正しい親戚ですねぇ。─────根絶やしにしなさい。」
「りょ、りょうか〜い…」

彼には本当に申し訳ないけど、今日も君は平和からは程遠い系だと思います。


AM 7:00
白百合様、ご登校。
川南北斗、急性胃炎。


→追跡編
パパラッチ





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