「すっからかんやな、」

三年前と同じことを言うと、白石も三年前と同じように笑って、言った。

「まあ、顔はええもん」
「うっわイヤミなやっちゃなー自分」
「謙也やって、完売やん」
「おん、まあな…ってブレザーのボタンみっつしかあれへんやろ!」
「あはは」

笑う白石のブレザーには、袖口のものすらも、ボタンが残っていない。それどころか、中に着込んだカーディガンもシャツも前が開いていて、彼は着ている服のボタンというボタンをすべて失ったようだった。

「まったちゃっかり中にTシャツ着てくるとこが予想済みです!みたいな…」

俺の呟きを拾った白石が苦笑して首を傾げる。

「やって、中学ん時一回やられてるし」
「うん、知っとる」
「そん時、謙也がセーター貸してくれたやん」
「…ああ、あったなー」

まだ白石が女子を苦手としていた頃だったから、今よりさらにひどいことになっていたのを思い出した。
今はというと、一人一人先着順に、しかもご丁寧にハサミを用意している周到さだ。よほど三年前に群れをなした女子に囲まれ次々にボタンをもぎ取られたのがトラウマだったのだろう。
いつもきちっと完璧な白石が、まるで長いデュースゲームを終えた直後のように髪をくしゃくしゃにして、学ランもカッターシャツもよれよれなうえに前が全開だったのが羨ましいを通り越して同情を禁じ得ず、寒々しいカッコやなあと思ってバッグにつっこんでいたセーターをかぶせてやったことが、確かにある。

「返してないけど」
「まあ、卒業式やったしな」

もう着ないものだったから、俺もすっかり忘れていた。
白石がふ、と笑みをこぼす。

「返そ返そ思って、ずっとおいてあるんやけど」
「え、何それ」
「家に」
「三年間も?」
「三年間も。卒業式を目前にして、思い出したんやけど」

びっくりして白石を見ると、白石もおかしそうに笑っていた。

「つーか、返さなくてええし」
「えー。ちゃんとラッピングしてあるのに」
「オマエは女子か」
「友香里が『クーちゃんはデリカシーがない』とか言って、包んでくれた」
「ああー」
「めっちゃ今更やけど」

肩をすくめた白石がちょい、と分かれ道の左側を指した。
いつの間にか、こんなところまで帰って来ていたらしい。白石の家は左、俺の家は右。

「時間あるなら取りにくる?」

ここで別れたら、三年前とは違ってそう簡単に会えることはない。
白石はこっち、俺は都内の大学に進学が決定していて、お互い家から遠いこともあってそれぞれ一人暮らしをする予定なのでなんやかんや春休みも準備があるのだった。
ちょっと考えて、俺はうんと頷いた。六年間ともに過ごして来たこの親友と、この先今までのようにすぐには会えないのだと思うと、今一緒にいるのにさっさと別れてしまうのが、なんだか惜しかったのだ。

「おやつも食べに行ったるわ」
「うわーがめつい謙也」
「ええやん俺腹へってきた」
「しゃあないなー。最近姉ちゃんがお菓子作りに凝ってるから、なんやあると思うで」
「さよか。ええなあ」

他愛もないことを話しながら、俺たちは左へ曲がった。


親友交歓


(12.3.30)

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